ドリーム小説
BASARA25,5
目の前の少女の瞳に真っ暗な闇が映し出される。
バシッ
見せないためにと隠した右目。
だが間に合わなかったそれに、政宗の瞳は揺れる。
沈黙が辺りを満たす。
聞こえるのは小さな虫の声のみ。
(・・・みら、れたよな・・。)
沈黙の中、政宗はにかける言葉を探す。
「・・・醜いだろ?これ。」
そうやって、探し出したのはそんな言葉だった。
ゆっくりと右手を離す。
の目に自分が映し出される。
「・・・政宗様。」
そっと名を呼ばれたことに、体がびくりと震えた。
それに、ゆっくりと笑みを浮かべる。
おそらく嘲笑と呼ぶであろうそれを。
「政宗様。」
再び呼ばれた名に、政宗は次の言葉を拒否するように視線を外す。
「俺がまだ、ちいせぇ時の事だ。天然痘って病気にかかってな。・・・その病の所為で、俺の右目はねぇ。」
「政宗様。」
「しかもこの眼が、醜いってな。母親にも嫌われた。」
「政宗様!」
「しかも、毒殺までされそうになってな!だが、しぶとく俺は生き残って・・・」
「政宗様!!」
の言葉に答えず話し続ける政宗に、の声が大きくなる。
それに政宗の話は止まった。
話は止めたが、政宗はのほうを向こうとはしない。
「政宗様。こちらを向いてください。」
そう言われ少し戸惑うが、政宗はゆっくりとに向き直る。
そんな政宗にが微笑んだ。
そして話し出す。
「政宗様。たしかに、驚きました。そして、醜いとも思いました。」
その言葉に政宗は絶望と、恐怖という感覚に呑まれる。
政宗は話すことを恐れると同時にならば話しても、無条件で受け入れてくれるんじゃないかと、
そんな淡い期待を抱いていた。
それだけにその言葉は胸に響いた。
やはり、と思う自分がいた。
「けれども、私はその眼を嫌いにはなれません。その眼は政宗様の代わりに命を落としました。」
政宗は話を聞いてはいるが頭では理解していなかった。
「その眼は政宗様がこの世界で生きていくためにこの世界から消えました。その代償が、その醜さならば私は喜んでそれを受け入れましょう。だって、そのおかげで政宗様は今、ここにいます。」
聞こえてくるその言葉の意味を把握しようと、政宗は下を向く。
「私は政宗様がここにいてくれて嬉しいです。政宗様が生きていて嬉しいです。もし政宗様がいなければ、私はまだ、この秘密を一人で抱え込んでました。だから、私は政宗様の代わりに命を落としたその眼に感謝します。」
(・・・今、こいつはなんてった?)
『けれども、私はその眼を嫌いにはなれません。その眼は政宗様の代わりに命を落としました。』
『その眼は政宗様がこの世界で生きていくためにこの世界から消えました。その代償が、その醜さならば私は喜んでそれを受け入れましょう。だって、そのおかげで政宗様は今、ここにいます。』
『私は政宗様がここにいてくれて嬉しいです。政宗様が生きていて嬉しいです。もし政宗様がいなければ、私はまだ、この秘密を一人で抱え込んでました。だから、私は政宗様の代わりに命を落としたその眼に感謝します。』
ゆっくりと政宗の中での言葉が反復される。
それらは、政宗を肯定するもので、どれも、政宗がここにいることを認めていて・・・
そっと頬に何かが触れる。びくりと体を揺らす。
と同時に聞こえた声。
「政宗様。顔を上げてください。」
今度はそれに逆らうことも無くすんなりと従った。
「政宗様。生きていてくれて、ありがとうございます。」
その言葉に、むけられた笑顔に、政宗の中で何かがはじけた。
「・・・っ、!」
「!!」
頬に感じるぬくもりを、力をいれてひっぱり腕の中に閉じ込める。
驚きの声には気づかぬ振りをして、政宗は呟く。
「・・・俺は、実の母親に毒を盛られた。」
(今でも思い出す。あの時の母親のことを)
「・・・はい。」
「殺されそうになった。」
(毒で俺は苦しんだ。)
「はい。」
「だから、お前も、もいなくなると思った。」
(今回も同じ目にあった。)
「はい。」
「俺は、必要ないことで、仲間を、部下を失くしたくねぇ。」
(俺は、に、)
「はい。」
「だから、だから。お前も死ぬな。絶対に死ぬなよ?・・・OK?」
(死んで欲しくねぇ・・・。)
「・・・OK.Mr伊達。」
優しく返される返事一つ一つに安心して、腕の中の存在を先よりもきつく抱きしめる。
いつもなら、赤くなって慌てふためく彼女だが、まだ本調子じゃないためだろう。
一度体を強張らせたがすぐに和らぎ、こちらに体を預けてきた。
その普段ではありえない無防備さに、胸の奥から何かがこみ上げる。
そして、気づいた。
(・・・俺は、こいつが愛しいのか・・・。)
再びその体を強く抱きしめる。
強くすれば簡単に壊れてしまいそうなその体を。
いとおしく思えるその存在を
「Good night.。いい夢を」
聞こえぬと解っていながらもそう言わずにはいられなかった。
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