ドリーム小説
BASARA26
が毒で倒れて、約2週間が経った。
そのも今では本調子に戻り、再び政宗付きの女中として多忙な毎日を送っている。
は政宗の部屋で、掃除し終わったばかりのそこを見渡しながらここ4,5日のことを思い出していた。
夜に政宗と言葉を交わした次の日、は再び熱を出し寝込んでいた。
その間に同じように寝込んでいた、紀伊が目を覚まし、ことのあらましを話したらしい。
どうやら紀伊は菫に両親を人質として、捕らえられていたらしく彼女に従うしかなかったとのこと。
それを聞いては彼女の行動、そしてあの悲しげな瞳を思い出していた。
今回のことは大変申し訳なく思っていると、謝っても許されないのは解っていると、紀伊は何度も何度もに、政宗に謝ってきた。
はそれに柔らかく微笑んで、気にしなくてもいい、私はここにこうやって生きているから、と謝られるたびそう返していた。
その紀伊はというと、今は一度自宅に戻り、人質として捕らえられていた両親と共に療養生活をおくっている。
落ち着いたらまた戻ってくるとのことだった。
そして、紀伊の両親を人質として監禁していた菫はというと、黒脛布組による尋問に屈っすることなく、何処の差し金かもわからないままで、ある朝、監視の目を抜け出して、いなくなっていたという話だった。
その真の目的も、何故を狙ったかも解らないままで。
けどはそれを聞いたとき頭の片隅で、彼女の生き方に素直に感嘆の感情を持っていた。
彼女は、己の主のため、その身を省みずまさに全てを主に捧げていたのだろう。
そのことを、うらやましいとも感じた。
今自分は本当に、彼の主に全てを捧げてはいないのだから。
いつでも頭の片隅には自分の世界があり、いつでもその世界に帰れるようにと心構えをしている。
その所為で、主である政宗には、真の忠誠を誓っているとはいえないのだろうから。
「・・・うん綺麗になった。」
そう言っては部屋から出ようと襖に手を掛けた。
と、いきなり向こうからあいた。
「・・・自動、ドア?・・・。」
そんなつまらないことを呟いているとの目に蒼い色が映りこむ。
「?」
不思議に思い、その蒼に、襖を開けた人物に目を向ける。
「Hey!!Come here!」
「・・・へ?」
そこにいたのは、主だった。
「・・・政宗様・・・。」
「Ah〜What?」
ざわりざわりと喧騒に満ちた場所。
城ではありえないほどの人の多さ。
要領を得ない政宗に連れられてきたのは、城下だった。
の傍には政宗が腕を組み歩いている。
その政宗はそれで忍んでいるつもりなのかと聞きたくなるほど濃い、蒼い色の着流しを着ている。
(仕事、またさぼっちゃったや・・・。)
はあと溜息をつきそんなことを思う。
その溜息に気分を害した様子も無く政宗はに尋ねる。
「Ah〜。何辛気臭い溜息なんかついてんだ?せっかくの城下なんだ。楽しまなきゃ損ってもんだろ?」
その顔はどことなく楽しげで、そんな政宗を見たもまあいいか、と頬を和らげた。
「どこ向かってるんですか?」
気になり問うに政宗は、いいところ、といい目的地ははなさなかった。
はこの城下に一時とはいえ住んでいたのだが、残念なことにあまり動かなかったためどこがどこだかわかっていない。
なので、政宗についていくしかないのだった。
「ついたぜ?」
そう言われ、きょろきょろと辺りを見渡していたはその目的地に目を向ける。
と、
「!政宗様ここ!」
が驚き政宗を見上げたときだった。
「ありがとね。また来なよ?」
懐かしい声が、聞きなれた口調で、の耳に届く。
暖簾を掻き揚げ、店から客を送り出す女性。
そんな彼女一連の動作をは食い入るように見つめる。
と、目が、合った。
相手の目が驚きに見開かれる。
「っ?!」
その女性はそう叫ぶと、のほうへと駆けて来る。
そしてその勢いのまま、に飛びついた。
「ふわあっ!」
その勢いに押され後ろに倒れそうになったのを横に立っていた政宗が支える。
「っ、、倒れたって、喜多から聞いて、っ、大丈夫なの?!」
のあちらこちらに触れて、その女性はの存在を確認する。
「う、梅さん。私は大丈夫、です。・・・心配してくれてありがとうございます。」
のことを本当に心配そうに見つめる梅。
その感情がとても嬉しくて、は微笑んだ。
「・・・よかった。」
それにやっと梅も安心したようにいつもの眩しい笑みを見せた。
「政宗様。よければこちらでお茶などいかがですか?」
の無事を確認し、満面の笑みのまま梅は政宗に尋ねた。
「Ah〜・・・。じゃあ、一杯もらえるか?」
そう返した政宗に梅は了承の返事をして、中へと入っていった。
政宗とは店の前に設えてある赤い布のかかった椅子へと腰をおろし、梅を待った。
ざわめきの中、様々な人々が行きかう。
旅人であろう服装の人。
商売人たちの声。
楽しげに交わされる会話。
どの顔も生き生きとしていて、はそれらをぼおっと眺めていた。
(・・・ここが、政宗様の治めている国・・・。)
その事実を再確認し、それらの光景に目を細める。
まるで眩しいものを見るかのように。
そっと横を見ればと同じように町を見守る政宗の姿。
その眼は愛しげに細められ、表情は慈愛に満ちる。
(この人は本当にこの国を、人々を愛しているんだ。)
そして、その中に自分が混じっていることに胸の奥がこそばく感じ、また暖かさで満ちる。
「お待たせいたしました。」
そう言って出されたそれは二つのお茶と、お団子で。
大好きなそれには頬を緩ませる。
「Thanks。」
政宗もそう返し、お茶を手に取った。
と、思い出したように梅を見て言う。
「梅。すまねーが、こいつが、がお前に用があるらしい。後で時間を少しやってくれねーか?」
「はい、解りました。じゃあ今日は早めにお店閉めようかな?」
不思議そうな顔をした梅だったがすぐにそう返し、に手をふって店の中へ戻っていった。
はまだ梅に本当のことを話してはいない。
話そうと思いながらもここに来れなかったので結局話さずじまいだったのである。
政宗がそのためにをここに連れてきてくれたことに気づき、またそんな風に気にかけてもらってたことに喜びを感じる。
また一つ胸に灯ったぬくもりにはそっと目を伏せ、そして政宗に話しかけた。
「政宗様。」
「What?」
「連れて来て下さってありがとうございます。」
「Ah〜?何のことだ?俺はただ書類整理にいい加減いやんなって、小十郎から逃げてきただけだ。別にそれ以上の意味はねーよ。」
そう言って、手元にあるお茶に口をつける。
「・・・それでもやっぱり、ありがとうございます。」
前を向いたままそう言うとも届いたばかりのお団子をほおばりそのおいしさに顔を和らげていた。
気がつけば知らない世界にいて。
そんな自分を助けてくれた人がいて。
明日に惑う彷徨い子のような自分を見捨てないでいてくれて。
受け入れてくれて、信じてくれた人たちがいて。
それらは優しく胸に染み込み、という人間を形作る一つになった。
守りたいと思える人ができて、仕えたいと思わせる人に出会って。
その気持ちは嘘ではなく、その思いは真実で。
明日がわからない世界だけど、明日は来ると解っている世界だから。
この場所にいられる限りは、あなたのために、ありたい。
第一章 完
中書き
『願わくばあなたの傍に』
こんな拙い文章をここまで読んでくださってありがとうございます。
政宗連載なのに、政宗がでてきたのは大分あとでした。(・・・あれ?)
しかも、甘くないです。
次の章ではもっと甘くできたらいいのですが・・・。
ここまでお付き合いくださって本当に感謝いたします。
次の章もお付き合いいただければ幸いです。
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