ドリーム小説
BASARA28,5
「さてと、お仕事開始しますか。」
奥州の独眼竜の城のお膝元である城下町。
そこに橙色の髪を持ち緑の旅装束を身に着けた男がいた。
名を猿飛佐助。
上田城城主真田幸村を主に持ち、また真田忍隊の長を務める実力者である。
主の命に従いここにいた。
奥州の気候は上田よりもすごしやすい。
だが冬に突入してしまえば、身動きは取れなくなるだろう。
町の喧騒に身を浸しながら佐助は注意深く辺りを観察する。
(・・・茶屋にでも行きますか。)
こうやって歩いているだけでも、情報は集る。
が、やはり、そういうところのほうが集りやすいのも確かだ。
そう思い方向を変える。
と、喧騒に混じり別の音が佐助の耳に聞こえてくる。
(・・・馬、か。・・・、二人・・・。)
それは、常人には聞こえぬ音。
ただ、その音が聞こえてきただけでは佐助は動かない。
だが、この音は、
(明らかに、城から聞こえてくるよねぇ・・・。ほんと、運がいいんだか悪いんだか・・・。)
そう思うと佐助は溜息を吐きその方向へと向かった。
(・・・これはどういう状態なのかねぇ・・・。)
たどり着いた音源地。
木の上から覗き込んだそこには一人の少女と一匹の馬。
少女の方は始めてみるが、馬の方は幾度か見たことがあるそれ。
(・・・あれ、俺様どう見ても、独眼竜の馬に見えるんだけど。)
さて、どうしたものかと考える佐助の前で少女はじっとしているのに飽きたのか、馬と戯れだした。
(警戒心のかけらもない、普通の女の子、だね。)
そうしているうちにそれさえも飽きたのか溜息を一つ落とし木にもたれかかった。
時間が過ぎていく。
(・・・俺様、何でこんなことしてるんだっけ。)
疑問に思い始めた佐助の前で変化が起こった。
先ほどから感じていた気配が、ゆっくりと距離をつめてくる。
(お嬢さん。逃げないと飢えた狼たちの餌食になっちゃうよ〜。)
そう思いながらも助ける気はさらさらない。
そう、なかった、はずなのに。
「!まさ・・・」
喜びの混じった声で告げられそうになった名前。
(まさ、むね、ね。)
その喜びは目の前の人物を見てしぼむ。
再び溜息をついて俯くその少女に男たちの視線は無遠慮に少女を嘗め回す。
「嬢ちゃん。何溜息ついてんだい?」
「よかったら、俺らが話し聞いてあげるよ?」
「そうそう、俺らに話してみなよ。」
「嬢ちゃん?・・・聞いてんのか?」
「おいっ!聞いてんのか!?」
(・・・何さこの子。)
それらの男の声に反応も示さない少女。
興味が惹かれた。
ぐいと引っ張られた腕に驚きたたらを踏む少女。
「ふわっ、なっ、何ですか?」
そこでようやく気がついたのだろうか。
(・・・鈍すぎる・・・。)
「ほら、俺らと一緒に来なよ。話し聞いてあげるからさ!」
「けっ、結構、です!」
「そんなこと言わないでさ。」
「ひっ、人を待ってますから!」
「そんなこと言ってさ、さっきから見てたけど嬢ちゃんずっと一人だったよね。
置いてかれたんじゃないの?」
男たちのその言葉に少女の瞳が揺れた。
そこに浮かぶは怯えの感覚。
「はいは〜い。そこまでにしとこうか、お兄さんたち。」
何もするつもりはなかったのに、気づいたら動いていた。
その小さな体を腕の中に閉じ込めていた。
あの怯えた瞳が気になっただけ。
そうこれは気まぐれ、だ。
そして、ただの情報収集のため。
「え・・・?」
閉じ込めた腕の中から間の抜けた声が聞こえてくる。
小さく身動きする少女を気にすることもなく佐助は言った。
「嫌がってる女の子を、そうやって連れて行こうとするのはどうかと思うよ俺様。」
「てめえ!それは俺らが先に声掛けたんだ!後から出てきたくせに何すんだ!」
一瞬呆気に取られていた男たちが一気に覚醒したようになり怒鳴りつけてくる。
それに微かに身をすくめた少女を少し強めに抱きしめた。
(話を聞かないやつらはこれだから・・・。)
はあと溜息をつきゆっくりと男たちを見る。
「あのさ、さっさと去った方が身のためだよ。」
先ほどよりも低い声で、にらみつけながら告げると男たちはおもしろいほどうろたえて、覚えてろよと捨て台詞をはき町の喧騒の中に消えていった。
「はっ、誰があんたらなんかを覚えてるかよ。」
「・・・この世界でもいるんだ、あんな捨て台詞はく人・・・。」
佐助の言葉のすぐ後に聞こえた小さな声に違和感を感じた。
(この、世界?・・・。)
「?・・・っつ!」
聞こえてきた声に下を向くとそこには真っ赤に染まった少女がいた。
それを見て無意識に口の端が上がる。
「あれ〜、どうしたの?お嬢さん。・・・顔赤いよ。」
最後の一言を耳元で囁いてやればさらに上がる体温。
「〜〜〜〜つっ!」
慌てて佐助から身を離した。
するりと風が通る。
「、つっ、助けて、いただい、て、ありがとう、ございます!」
赤い顔を見られたくないのか、俯いたまま少女は言う。
なんだかそれがおもしろくて、思わず笑った。
と、ばっと顔を上げた少女の顔は少しむっとしていて。
それがさらに笑いを誘う。
「・・・はぁ・・・。」
くつくつと笑い続けていると溜息が聞こえてきた。
それにやっと笑いが収まり佐助は話す。
「いやあ、ごめんねぇ。君の百面相がおもしろくて、つい。」
じとっとした目で見る少女がおもしろい。
「ごめん、ごめん。お詫びにお団子でもおごるよ〜?」
佐助の言葉に一瞬ぱあぁと顔を輝かせた少女は何かを思い出したように首を横に振った。
「あれ?甘いもの嫌いだった?」
問いかけに慌てて訂正する少女
「いえ!すごく好きです!でも、ここで人を待ってますから。」
そう言ってとても嬉しそうに笑った。
(人、ね。)
その笑顔はあまりにも純粋なもので。
(・・・虫唾が走る。)
軽く目を細めて改めて少女を観察する。
一見普通の少女だ。
そこら辺にごろごろといそうな少女。
先ほどの反応は人より鈍い気はしたが、ただそれだけ。
だが、何か感じる違和感。
それも、最近感じたのと同じもの。
(・・・帰ったら聞いてみるか・・・。)
それに独眼竜が一緒にいたと言うことは何かあると言うことで。
その結論にたどり着き、再び笑みを浮かべる。
「ところで、お嬢さんの名前を聞いても?」
「えと、といいます。さっきは助けていただきほんとにありがとうございました。」
警戒することもなく素直に名を告げ、ぺこりと頭を下げるという少女。
その名を聞き後ろの木の中に隠れていたのであろう馬を見て確信にも近いそれを問う。
「いいえ、どういたしまして!ねぇちゃんが待ってるって、この馬の持ち主さん?」
「はい、そうです。」
(やっぱり、ね)
近くまで来てみたその馬は、戦場をかける軍馬。
戦場のような派手な装飾はないが、毛並みも整い、いい馬だ。
そしてこれは、自らの主にちょっかいを出す面倒な相手のもの。
一度目を閉じ、息を吸う。
(さて、お仕事だ。)
「っつ・・」
雰囲気が変わったのに気づいたのか少女は息を詰めた。
先ほど男たちに向けたのと同じそれ。
「ちゃん、さ。この馬の持ち主さんと、どういう関係?」
振り向いて尋ねる。
少女の目に浮かぶは純粋な恐怖。
(旦那の道を阻むものは例外なく、消さなきゃいけないんだよね)
情けなどかけてやらない。
佐助は忍だ。
主の道具だ。
「つっ、あっ・・・」
引きつった声を出す少女に何も感じず更に問う。
「それとね、さっき言ってたよね?『この世界でも』って。あれも、どういう意味かな?」
(あいつ、と同じなのかね・・?)
冷たい瞳は全ての感情を切り捨てる。
忍に感情は不要。
そして知る。
(この子は俺を見ながら別のやつを見てる)
(決して俺を見ることは無いのだろう。)
悟ってしまったそれになぜか苦い気持ちが生まれる。
溜息をつくのを堪え、少女が話し出すのを待つ。
と、
(・・・なんか近づいてきてんだけど。しかもすげー速さ。)
感じ取ったその気配に仕方なく顔を背ける。
「あ〜あぁ。時間切れ、かな。」
こうしている間にも近づく気配。
「残念。何かおもしろいことがわかるかと思ったのに。」
さっきまでの殺気を消し、笑う。
(見つかると面倒だからねぇ。退散しますか。)
「またね。」
そう言うと、その少女から離れる。
(まったくそんなに急いで来るくらいなら、置いてかなきゃ良いのにねぇ。)
少し離れた木の上。
そこから見えるは泣き出した少女を抱きしめる、一つ目の龍。
(まったく、丸くなったねぇ・・・。これもあの少女が原因かな?)
最近連戦をしていた奥州が、突然息を潜めた。
その理由を探ることを命じられた佐助はこうしてここにいたのだ。
(あの子はきっと、あいつと同じ。)
さてもう少しお仕事続けますか。
そう呟いて佐助はそこから姿を消した。
『弱いくせに、必死で何かを守ろうとして、怖がりの癖に強がっていて、小さいくせにたまに自分より大きく見えたりして。
どうしようもなく愛しい存在なんだよ。俺にとってあいつは。』
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