ドリーム小説








 BASARA30






「Wait here.」

近くの木に愛馬の手綱をくくりつけ、にそれだけ言うと政宗は町の喧騒の中へと身を預ける。

ここに来た目的はいくつかあるが、本当はそのどれにもを連れて来る必要はなかった。



(Suit!・・・rearにどうかしてるみてーだ・・・)

喧騒の中歩いているというのに聞こえてくるのは、頭に浮かぶのは、同じ人物。



       彼女が自分の名を呼ぶ声。



      彼女の照れたように笑う顔。



     優しく包み込んでくれる広い心。



   何物にも屈しないであろう、強い眼差し。




(あいつは、はいずれ帰るもの。だからこんなemotion〈感情〉もったって、どうしようもねえってんのに・・・。)

解っていたことを人から言われたことで、政宗の心は改めてそれと向き合うことになった。



  どうしようもない堂々巡り。



だが、

(だが、俺は、奥州筆頭伊達政宗。この地を守り、早く安寧を作り上げる。・・・恋など何だのと、考えてる余裕はねぇ。)







そんな中政宗は人気のない路地裏、そこにある一軒の小屋の前に立ち止まった。



「Hey!店主。」

「これはこれは政宗様。お待ちしておりました。」

政宗の声を聞き奥から出てきたのは初老の男。

「ちょいと、これの整備を頼みたくてな。」

そう言って政宗が懐から取り出したのは一つの小刀。

伊達の紋が入った鞘には豪華だが派手過ぎない装飾がなされている。

「解りました。お預かりいたします。」

その小刀を何の躊躇もなく受け取ると代わりにといって同じような大きさの小刀を政宗にわたした。



ここは政宗が贔屓にしている鍛冶屋である。

なかなかの腕前を持ち口も堅い。

なので政宗は自分の武器に何かあるとここに来るのだ。

「いつぐらいに出来上がる?」

「これでしたら明日には。」

「OK.じゃあ頼んだ。」

「解りました。出来上がりましたら城に直接もって行きましょう。」



その言葉を背に受け政宗は店を出た。

城を出たときの曇り空がうそのようによく晴れ渡っている。



(俺は一体何がしてぇんだ・・・。)

を何も言わずにここへ連れて来た上、一言だけ告げて置き去りにしてきた。

何故その場所において来たのか。

自分でしたことなのに、自分も理解できなくて



「旦那様、旦那様。」

そんな政宗の思考を遮ったのは甘ったるい声。

それに何の感情もない顔で振り返ればそこにいたのはなんとも見目麗しき女性。

色とりどりの着物を身にまといながらもその色に負けることない色香を醸しだしている。

それにつられ道行く人々の視線が集中していようとその女性は歯牙にもかけない。

「旦那様、よろしければ寄っていきませんこと?」

再び政宗を呼び、招く。

その動作でさえも美しい。

しかし政宗はそれに何も動じない。

それどころか大きく溜息を吐くとその女性から離れていく。

その姿に微笑を浮かべると女性は政宗に近づきその腕にするりと抱きついた。

そして耳元で囁く。



「武田に最近身元不明の男性がいるとか。何でも真田の命を救ったとのこと。悪いが名は解らなかった。」



その囁きは決して他には聞こえぬ声で。

それに耳を傾けながら政宗は何も返さない。

それにくすりと笑いその女性は先ほどよりいくらか大きな声で言った。

「つれないお方・・・。」

そう言って抱き込んでいた腕を放し町の中へと消えていった。



彼女はの帰る方法を探させていたもの。

なにかひっかることがあれば何でも良いから知らせろ、と。

そのせいで彼女は副業ともいえるそれには帰れていないが、これは本人たっての希望であったのでかまわないとのこと。

(武田、か・・・。)



それは偶然か運命か





ふと空を見上げれば頂上を過ぎた太陽。

結構な時間が経っていたことに気がつき、を置いてきた方向へと急ぐ。

と、道で耳にはいった会話。



「おい、さっきの大丈夫かな・・・。」

「さっきの女の子だよな・・・。あんなに囲まれてたからな。」

「助けるべきだったんだが・・・あいつらの相手はちょっと、な。」



どくりと心臓が逆流するような感覚に陥る。

(Suit!!)

人にぶつからぬよううまくよけながらも全力疾走をする。

(何であの時あいつをおいていった?!)



自問自答に答えはなく、ただ走る。

大分近づいてきたときだった。

(!この気配!)



よく知る気配は彼女のすぐ傍にあり、政宗はさらにあせる。



たどりついたそこ。

政宗の眼に映ったのは倒れ行く少女。

!?What doing!?」

その瞳を覗き込めばあからさまな恐怖。

だが、政宗の目を見たと同時にゆっくりと、だが確実に広がる安堵。

そんな時ではないというのに自分を見て安心する彼女に喜びを感じる。

「つっ、ふっ・・」

彼女の嗚咽に涙に思わずぎょっとするが、優しく背を撫でてやればすがり付いてくるその手に、体に、思いが溢れそうになる。

そんな彼女がどうしようもなく愛しくてぐっと力を入れて抱きしめた。



「Sorry.あんたを一人にするべきじゃなかった。」



そう言って政宗はが落ち着くまで抱きしめ続けた。





そうか、と政宗は気づいた。



この森はがこの世界に来た時にいた場所。

一番帰れる可能性のあるのはここ。

もし帰ってしまうならばこれ以上思いが暴走しないうちに、そんな無意識の思い。



(だから俺は・・・。)



もう手遅れだと心のどこかで感じながら。















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