ドリーム小説
BASARA32
「喜多様、炊事場をお借りしても良いでしょうか?」
政宗たちが出発するのは明朝。
今はその準備のため、城中は大忙しであった。
だが、それらの勝手がわからないは、今日はお払い箱であり、一人暇をもてあましていた。
そんなときにふと思いついたこと。
それを行うために、城にある二つの炊事場の片方を借りることにした。
「・・・ほんとにできるのかな・・・?」
この世界では珍しいであろうお菓子。
が作ろうとしているのは、クッキーだった。
こう見えて、は料理が得意である。
とくにお菓子。
いつも弟に作ってあげると大変喜んでくれた。
おいしいと言って、それをほおばる弟の顔が脳裏に浮かんで、は無意識に頬を緩ませる。
それと同時にここにはその子がいないのだということに気づきその顔を微かに歪ませた。
それらの感情を首をふることによって払拭し、はお菓子作りに戻った。
「・・・でき、た?」
四苦八苦して作り上げたそれはいいにおいをかもし出していて、の顔も自然とほころぶ。
多少の違いはあれども、それはの知るクッキーによく似ていて。
一つ口に含めば、さくり、とまでは行かなくても甘い風味が舌全体に広がる。
「いい匂いがするね。」
その声と共にふらりと一人の男性が入ってくた。
黒髪を後ろで束ねたその糸目の男の顔はほころんでいる。
(・・・だれ、かな?)
その男に見覚えのないはきょとりと首を傾げる。
その動作に男はくすくすと笑い口を開く。
「そういえば始めまして、ですね。私の名前は鬼庭綱元といいます。この城で政宗様の側近として働いております。」
「は、始めまして、といいます。最近この城に女中としてまいりました。今は政宗様つきの女中をしています。
よろしくおねがいします、綱元様。」
そう言い深々と頭を下げたに綱元の細い目がさらに細まる。
「、ですね。殿や小十、成に話は聞いています。」
それにはぱちくりと目を瞬かせる。
「・・・話、ですか?」
「ここにきたいきさつに記憶のこと。」
それに、は体を堅くする。
それに気も止めず、綱元はほにゃらと顔を崩す。
「それから頑張りやさんで、からかいがいがあって、どこか抜けてて・・・。」
「そんなこと、誰が言ったんですか?!」
先ほどの話からどんどん脱線していくことに、は力が抜けたように溜息をついた。
「ところでね。その甘い匂いを放っているの、何?かな?」
溜息など聞こえないかのようにスルーした綱元はそう言って、クッキーを指した。
「あっ、これはクッキーといって私の時代のお菓子です。政宗様に、と思いまして。
・・・食べますか?」
「いいのですか?」
お菓子、と言った辺りから、綱元の雰囲気がわくわくと何かを期待したようなものに変わる。
それに恐る恐る尋ねれば、綱元の細い目が微かに開きそこからきらきらとした目が覗いた。
「どうぞ。・・・お口に合うか解りませんが・・・。」
そう言って差し出したそれに綱元は躊躇うことなく手を伸ばしぱくり、と口に入れた。
「・・・どうでしょうか?」
口に入れた状態のままぴくりとも動かなくなった綱元に、はやっぱりおいしくなかったのかとあせって尋ねる。
が、口の中のクッキーを咀嚼し終えると綱元は再びそれに手を伸ばす。
「えと、あの・・・。」
何も言わぬままクッキーを口に運ぶ綱元には困り果てたように声を掛けるが、綱元の反応は、ない。
どんどん量が減っていくクッキーにあせりを感じ始めたは、再び声を張り上げようと口を開いた。
「綱「なんかおいしそうなにおいがする〜。」・・・成実様?」
が、第三者の介入によりそれは不発に終わった。
第三者、こと成実も甘い匂いにつられてきたのだろう。
「何の匂い?」
笑顔で首を傾げる成実の顔に浮かぶ疑惑に苦笑いをしては答える。
「クッキーって言う私の世界のお菓子です。」
「くっきー?」
「はい。」
首を傾げ繰り返した単語には微笑み返事を返す。
「へ〜梵に?」
梵、という名に一瞬考え込みすぐさまそれが、政宗を指すことだと思い出したはこくりと頷く。
それに笑みではない笑みを返し成実は言う。
「俺にも一つ頂戴?」
「あっ、はい。どうぞ。」
といい向けた視線の先。
彼はそこにではない人物がいるのに気づき一瞬動きを止めた。
(・・・あれ、気づいてなかった、のかな)
そんな成実に少し驚きながらもはいまだにクッキーを一言の感想もなく食し続ける綱元と、そんな彼を見やる。
成実は一瞬後綱元に近づいていくとその彼に腕を振り上げ
ばしり
しばいた。
は驚き目を見開くが、たたかれた本人は大して痛くもなさそうにたたかれたところを手でさする。
「綱、あんたどこにもいないと思ったら、こんなところで何してんだ?!」
「何って、・・・甘味を食べてるよ?」
「そんなの見れば解る!そうじゃなくて、何で戦の準備そっちのけで甘味食ってんだ?!」
「いい匂いが漂ってきてね、・・・呼ばれたんだ。」
「真剣な顔で言ったって言ってる内容は最悪だぞお前!?」
「そうは言っても成も匂いにつられてここに来たよね?」
「っ、俺は、匂いだけにつられてきたんじゃねぇ!」
「・・・につられてきたのか?」
「ちげえ!」
「・・・悪いが私は男に興味は・・・」
「何考えてんだ!?俺にもねーよ!興味なんて!俺が興味あんのは梵だけだ!!」
「・・・。」
「ちょっ、何無言ではなれてんだ?!そんな意味で言ったんじゃねー!!」
成実と綱元の言い合いを驚いてみる。
いつも笑顔を絶やさない成実があせっている。
なんだかそれがおもしろくて、はおもわずくすりと笑う。
それが聞こえたのか成実がいかにも不機嫌そうな顔をぐるりとに向けた。
「・・・何笑ってんのちゃん。」
「いえ、なんだかとても楽しそうで・・・仲良いんですね?お二人とも。」
それに成実はさらに顔をしかめてみせた。
反対に綱元はうれしそうに微笑み頷く。
「・・・お前らこんなとこで何してんだ?」
低い声がそこに響く。
その声は若干の怒りを抱き、炊事場の温度が下がったような感覚に陥る。
声に一番大げさに反応したのは成実だった。
大きく肩をびくつかせぎぎぎときしんだ音を出し後ろを振り向いた。
「ぼ、梵・・・。」
「Ah〜.成実。何度言えば解るんだ?梵って呼ぶんじゃねぇ。」
一言で言えば凶悪。
そんな笑みを浮かべ、主である政宗は成実にそう言った。
「殿。」
何も言えない成実に代わり口を開いたのは綱元で。
そのおっとりとした口調のまま話す。
「私はここにいるの作った甘味に呼ばれてここまで来たしだいでございます。・・・そちらの成はどうか知りませんが。」
成実を弁護するそぶりなどまったく見せずに綱元は言った。
成実は弁護の言葉が聞こえないどころか、知ったこっちゃないという言葉ぶりに慌てて綱元を見る。
「・・・そう言えば、お前sweet大好きだったな・・・。」
そこまで言って政宗ははたと成実に向けていた目線を綱元に向けた。
「・・・Wait.・・・今の作った、といったか?」
「はい。くっきーというものをが作りましたので。」
それを聞き政宗は今度はゆっくりとを見た。
「・・・。」
「なんで、しょうか?」
「こいつらにはあって俺にはないのか。」
「いえっ、もともと、政宗様のためにつくったんです。よかったら食べてください。」
そう言って綱元によって大分数の減ったクッキーを政宗に差し出す。
「・・・realy?・・・俺のため?」
「Yes.」
その言葉に政宗の頬は優しくつりあがる。
「Thanks.。」
一言そう言って政宗の口に含まれたクッキー。
視界の端で成実が慌てたように見えたが今はそんなこと気にならなくて。
政宗の一挙一動をは緊張し見つめる。
「Delicious!」
綺麗な笑みで放たれたその言葉にも同じく満面の笑みをかえした。
成はとことん疑う人
綱は勘で信じる人
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