ドリーム小説
BASARA46
「あなたの主は誰?」
「そんなの言うとでも?」
ふと口をついてでた言葉はもう震えてなくて。
でもその言葉にちゃんとした返事は返ってくるはずもなくて。
「どんな人なの?」
何故そんなことを聞くのかというような顔をしていた菫だが、を見つめていて気が変わったかのように口を開いた。
「とても酷い人よ。」
「酷い、人?」
「役に立たなければ切り捨てて。たった一人しか眼中にないの。」
「私を一番初めに見つけて、私の知識を利用して、私を忍にした人。」
首元に当てられた刃の存在も今は気にならない
「何故、そんな主についていくの・・?」
「・・・ついていくしかないから。」
そういった顔はどこか優しくて。
「・・・だけ、ど・・・人一倍頑張る人でもあるの。とても強くて、信念を決して曲げはしない。志がとても強い・・・。」
そっと小さな声で告げられた言葉たち。
「それは、本当に強い人、だね。」
思わずこぼれそうになる笑みを隠して。
「その人は、その目的のためなら私など必要ないと思っているわ。」
そういいながらもその瞳に恐怖はなくて。
「あなたはそこにいて、いいの?」
「今の私にはその人のそばが居場所だから。」
その瞳に迷いはなくて。
この人はその人のことをとても大事に思っているのだと感じた。
きっとどんな扱いをされても彼女は、その主についていくのだろう。
たとえ、その人が見ているのは別の人であっても。
(ああ・・・そうか・・・。)
頭の中で何かがはじけた。
気づいた。
否、気づいてしまった。
何故巴夜深の言葉に即答できなかったのか。
(ああそうか。私は、私、は・・・ ただ
ま さ む ね さ ま の そ ば に い た い
んだ。)
その考えが浮かぶと同時に目の前の彼女がとても愛しく思えてきた。
「・・・あなたは、そこに居たいんだね。」
あえて彼女が使うのを避けた言葉を使う。
「ちがう、わ。そこしか居場所がないから・・・。」
彼女は微かに動揺して。
「その人のことが、大切だから。」
一瞬目を見開きすぐさま否定の言葉を発す。
「そんなんじゃないわ。」
必死で押し込める言葉はどことなくあせって見えて。
「その人のことを守りたいから。」
揺れる瞳を隠すかのように瞳を閉じて
「ちが、うわ。私はあんな人のことなんてどうでもいいもの」
紡ぐ言葉は微かに震え
「ちがわない。あなたはその人のことが、大好きだから。」
見開いた目に浮かぶのは悲しい色。
「っ、そんなんじゃないわ!」
刃が振り下ろされる。
煌くそれは一点の曇りもないそれは自身を映していて
不覚にも綺麗だと思ってしまった。
(殺気?!)
幸村の傍に控えていた佐助が感じたのは微弱な殺気。
他の人たちが気づかないようなほんとうに僅かなもの。
それを感じたのはこの城の主が眠る場所。
笑顔を顔に貼り付け立ち上がると胡乱げな顔を浮かべる主に告げる。
「旦那。俺様ちょっと部下のとこに報告聞きに行くね〜。」
うむと疑うことも知らぬように生真面目な顔で主は頷いた。
一瞬の躊躇いもなくそちらへ向かう。
あの部屋には奥州の牽いては政宗の直属でもある黒布脛組がいたはずだ。
それなにもかかわらず、微かな殺気は止むことはなく。
たどりついたそこ。
確かに黒脛布組はいた。
全てが倒れ崩れ落ちた姿で。
近づき呼吸を見れば微かだがある。
つまり眠っていると思われる。
相当強い薬なのだろう。
人の気配に敏感な忍だと言うのに、触れても起きはしないのだ。
そっと気配を隠し天井裏から部屋を覗く。
「っ、そんなんじゃないわ!」
たどり着いたそこ。
今にも刃が刺さりそうな一人の少女の姿を視界に入れたとき体は無意識に動いた。
助けてくれた人はとても酷い人。
それなのに惹かれる自分が許せなかった。
自分をこんな世界に放り込んだくせに、自分を普通の世界に戻せなくしたくせに。
本当は必要としていないくせに、私などどうでもいいくせに。
そんな人なのに、焦がれてしまうのは許せなかった。
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