ドリーム小説
BASARA 5
城で女中として働き出して3日が過ぎた。
この3日間は梅の所にいたときとは違う暮らしに慣れるのに必死だった。
今日も朝から庭の掃除、朝餉の支度、洗濯物を洗い、布団をお日様の光に当て、廊下を掃除して・・・とさまざまな仕事に明け暮れていた。
今やっと午前に当てられていた仕事が終わり少しの休憩に入ったところだ。
は新入りという事もあり少しだけ他の女中よりも仕事を免除されていた。
が今いるのは、女中たちに与えられた大部屋の縁側だった。
この大部屋でたち数人の女中は寝起きをともにしているのだ。
その縁側では自分で入れたお茶を飲みながらこの城に来たときのことを思い出していた。
「お初にお目にかかります。、と申します。これからこの米沢城で女中として働かせていただきます。なにとぞ若輩者の身ですのでご指導の程よろしくお願いします。」
深々と頭を下げ、は言った。
城に来て通されたのは広い座敷でそこには、左頬に傷を持つ強面の男がいた。
髪の色は黒。前髪を上げている所為だろう、目つきの悪さが強調されさらに恐ろしい雰囲気をかもし出している。
(・・・こっ、こわい・・・)
その雰囲気に若干顔が引きつっているに気にすることなく男は言った。
「俺は片倉小十郎だ。話は喜多から聞いている。こちらこそよろしく頼む。」
その強面に似合わない誠実的な声で男は話す。
「何か解らないことがあれば、他の女中や喜多、俺がいるときは俺でもいいから聞けばいい。」
「はっ、はい・・・。」
「・・・そんなに怖がってくれるな。何もとって食うわけではないのだから。」
こわいこわいと思っていたことが、雰囲気でばれたのだろうか。
小十郎は苦笑して言った。
それにはほっと息をつき答えた。
「もっ、申し訳ございません、片倉様・・・。」
「いや謝らなくてもいい。初めて会ったやつらは大抵そんな反応だからな。」
苦笑を深めて言う小十郎。
その笑みに思ったよりもこわさを感じなかったため、は少し微笑んだ。
「片倉という言い方じゃなくていい。皆俺のことは小十郎と呼んでいる。お前もそう呼べ。」
「はい、小十郎様」
『本当は政宗様に会ってもらおうと思っていたのだが、・・・ちょっといま出掛けられててな・・・』
あのあと小十郎が苦虫をすりつぶしたような顔で言い、そのときは結局『政宗様』に会うことはなかった。
そんなことを考えながらお茶をすすっていると、どこからともなく『ぼ〜ん〜』という声が聞こえてきた。
それと同時に目の前の庭の片隅にあった茂みががさりと揺れる。
びくりと身体を震わすの前に現れたのは、茶髪でそれと同じ瞳の色。
そして整った顔立ちを持つ一人の青年だった。
お互いに何も言わずに見つめ合う。
(・・・最近同じ様な状態に遭遇した気が・・・。)
以前は女性だったけど。
そんな現実逃避まがいのことをしていると、いきなり目の前の青年が話しかけてきた。
「あんた、見かけない顔だ!」
「えっ・・」
「新しい女中?」
「えと、その・・・」
「あぁ!そういえば、小十郎と喜多が言ってたな!」
「あの、・・・」
「俺は成実!伊達成美!よろしく!」
怒涛のごとく・・・とも言えるスピードで畳み掛ける成実にはびっくりし何も返せない。
その反応に満足したのか、成実は屈託のない笑顔を見せ、続けた。
「ははっ!いいね、その反応!この城じゃ珍しい!最近みんな、俺はうるさいって相手してくれなくて・・・さて、そんな君のお名前は?」
「えとっ、っ、です。といいます。よっよろしくお願いします!・・・成実様?」
成実の勢いにおされては答えた。
語尾をあげたのはその呼び方であっているのか不安だったからだが、成実の様子を見る限りでは、間違ってはいないようだ。
「そう、ちゃんね!あらためてよろしく!」
そう言うとばっと手を差し出す。それはまるで握手のようで・・・。
「・・・えっ?・・・」
その手と成実の顔を見比べる。
それに成実はにこにこ笑っていて。
「・・・えと・・・」
混乱するにまるで催促するように手を上下にぶんぶんと振る。
「・・・えぇと・・・」
その成実の手にまさかと思いながらも持っていた湯飲みを横に置き手を重ねる。
と、勢いよく握られ上下に振られた。
「ふぇっ?!」
「よろしくの握手だよ〜!」
振られる勢いで身体まで揺れているに、にこにことした表情を崩すことなく成実は言った。
やっと揺さぶりから開放されたはふらふらになりながら、隣に座った成実の質問に答えていた。
「ここに来るまではどこにいたの?」
「城下にある甘味屋さんで住み込みで働かさせてもらっていました。」
「あぁ!梅ちゃんのとこだね!」
「はい。知ってらしゃるんですか?」
「うんっもちろん!喜多の妹だし、それに何よりおいしいからねぇ〜梅ちゃんのお団子!」
は梅のお団子がほめられたことに、まるで自分のことのように嬉しくなった。
思わずこぼれた笑みを見た成実は言った。
「ちゃんは、笑ってたほうが可愛いよ?」
「・・・ぅえっ?!」
普段言われることのない言葉には真っ赤になり俯く。
が、それすらもかわいいかわいいと成実は続ける。
あまりの恥ずかししさに涙目になってきたに気づき、成実は笑うのをやめた。
「じゃあ、ちゃんの生まれはどこ?」
やめたと同時に質問が再開される。
「あっ・・・。」
普通に地名を答えようとして、詰まった。
(・・・なんて・・・答えたらいいのか、な・・・。ほんとに生まれたところの名前を言っても、わかんないだろうし・・・。それに私は今記憶喪失ってことになっているし・・・。)
答えないを成実がじっと見つめる。
「答えらんないの?」
その成実の言葉には背にぞくりとしたものを感じた。
「えと、その・・・」
(どうしよう・・・言ってもいい・・・のかな・・・?でも、小十郎様たちには誰にも言わないように、言われているし・・・)
口ごもるに成実は先ほどとは違う低い声で言う。
「何で言いたくないの?それとも、いえない理由でもあるの?」
先ほど感じた悪寒が現実のものとなりあたりを埋め尽くす。
「ぅあっ・・・」
こわい。
その感覚がを支配する。
助けを求めるように成実を見るが、彼は先ほどの人懐こい笑みとはまったく違う表情をしてを見つめていた。
口元は笑っているが目はけして笑っていない。
その感覚は成実を見たことで倍増し、さらにはの身体が震え始めた。
こわい。
「どうしたのちゃん?何もやましいことがないなら答えられるはずだよね?」
こわい。
カタカタと震える身体を必死で抱きとめる。
呼吸がしにくくなってくる。眩暈がする。
「あっ・・・」
言葉を発すことも出来ない。
(どうし・・・よう・・。こわい・・・くるしい・・・)
呼吸が苦しくなりの喉がひゅぅとなる。
震える身体が横にあった湯飲みにあたる。
がしゃんと湯飲みが割れる音が響いた。
その時、
「成実!!」
聞いたことのある声が切羽詰ったように叫んでいるのが聞こえた。
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