ドリーム小説
BASARA6
殺気がした。
城内で、女中にあてがわれている部屋のほうで、離れていても漂ってくる殺気が。
それはよく知っているもので、なじみのあるもので。
小十郎は執務から逃げ出した主人を探すという作業を中断してその方向へと走っていった。
「成実!!」
その声が聞こえると同時にあたりを漂っていた、恐ろしい感覚が粉砕された。
「げほっ、ごほっごほっ、っつ、はあっ、はあっ・・。」
それと同時に楽になる呼吸にはむせる。
「こじゅーろーじゃん。どしたんだそんなに慌てて。」
対する成実はひょうひょうとした言い方で、駆け寄ってきた小十郎を見る。
小十郎はそんな成美を見、ついでの姿を見やり、現状を悟り目を見開く。
「成実・・・てめぇここまですることねーだろうが!ただの女中相手にそんな本気の殺気むけやがって!下手したら死ぬだろうが!」
その小十郎に成実は話す。
「だってさ、小十郎。この娘生まれたところすらはなさねぇんだ。・・・どう考えても変だろうが。俺は梵の、政宗のためにあるんだ。危険分子は直ちに取り除くべきだ。それがたとえどんなに小さくても、ね。」
そう言うとを見やる。
成実の目線につられて、小十郎もそちらに眼を向ける。
そこにはいまだに落ち着かない呼吸を必死で落ち着けようとするの姿があった。
あまりにも弱弱しいその姿を成実は見つめる。
若干の殺気を含ませながら。
そんな成実の姿にため息を一つ落とし、小十郎は思う。
(によかれと思い、成実に記憶のことを告げなかった。。・・・これは自分の責任だ。)
「成実。」
ゆっくりと俯いていた顔を上げ、成実に向き直る。
「何?小十郎」
目線をから放さぬまま成実は答える。
「よく聞け。一度しか言わねえ。」
成実は答えない。
「そいつは、は、記憶喪失だ。」
その言葉に、成実はばっと振り返った。
驚きの顔をあらわにして。
「梅が森の中で見つけたらしい。自分の名前以外何も知らない状態でな。日常的なことも解らなかったんだと、梅たちが言っていた。」
「・・きおく・・そうしつ・・・。」
かすれた声で、小十郎の言葉を繰り返す。
「お前が、政宗様のことを考えてやったことなのはわかっている。それに、このことをお前に伝えなかった俺も悪い。・・・お前がそのようにこの城を見ていてくれていることで、俺らは何度も救われている。」
成実は小十郎をじっと見つめる。
「今までのようにこいつを監視することもかまわねぇ。だが、記憶のことは覚えてやっててくれ。」
その言葉が終わると、成実はくるりとに向き直りの前にしゃがみこんだ。
やっと呼吸の整ったがびくりと肩を震わせ成実を見つめてる。
と、突然がばりと成実が土下座をした。
「!しげ・・・」
「ごめん!記憶ないって、知らなくて・・・あんたにひどいこと、した。・・・ほんとに、ごめん。」
驚くにかまわずに成実は言った。
そのままさらに頭を下げる。
そんな成美には何も言わず、その顔に驚きと少しの恐怖、そして戸惑いをにじませ成実の話を聞く。
下を向く成実にはそんなの表情は見えない。
「初対面でこんな怖い思いさせて、答えないことに疑って、何も事情も知らない俺が・・・っ!」
ぱんっ
成実の言葉ははそんな音で終わりを迎えた。
成実の両頬に鈍い痛みと熱が伝わる。
両方に感じる熱を伝い顔を上げると、今にも泣き出しそうな表情で、それでいてあまりにも強い瞳がそこにあった。
「!うっ・・・」
「成実様。」
二人を傍観していた小十郎は突然の出来事に驚き声を掛けようとした。
が、それすらもに遮られて。
「成実様。どうしてあやまるんですか?成実様がしたのは、当然のことです。怪しい人物である私の正体を見極めようとするのは、決して愚かなことではありません。」
凛とした声で告げるに成実は目を見開く。
「でも、あんたを怖がらせた・・・。」
そう返された言葉にはきょとんとして、そして笑った。
「確かに、怖かった、です。あの時の成実様は。ですが今はそんなことありません。」
(むしろ、慌てて土下座をしている成実を可愛いなどと思っているのは、秘密です。それに・・・)
「・・・それに、こんなにも成実様に思われている御方です。きっと、とても素晴らしい御方なのでしょう?政宗様は。早くお会いしたいです。」
その言葉にさらに目を見開き、そして成実は今までで一番綺麗に笑った。
「あぁ!とてもすごいやつなんだ、政宗は!」
その笑みにも微笑み返し、成実の両頬にあてていた両手のひらを離して立ち上がる。
そして改めて成実に向き直り手を差し出す。
その手の意味に気づいた成実はその手を掴み立ち上がった。
「これからよろしくお願いします。成実様。」
「こちらこそ、あらためてよろしく!ちゃん」
握手を交わす二人を見て小十郎は安堵のため息を吐いた。
「ところで、成実様?」
「ん?なに?ちゃん。」
「先ほど、『ぼん』、と叫んでいらっしゃいましたがどうかなされたのですか?」
握手を終えた後にそう言ったにはた、と成実が動きを止める。
さらには、小十郎までもが止まっているのだ。
成実はふるふると体を震わせた後、
「・・・やばい!梵を探してる途中だった。梵ー!?」
と、叫び走っていった。
小十郎までもが
「すまない。政宗様を探しにいかなくてはならなくてな・・・。」
と言いすごい速さでのそばから離れていった。
「『ぼん』、て言うのは政宗様のことなのですね・・・」
そこに一人残されたも休憩の時間が過ぎていることに気づき慌てて戻っていった。
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