ドリーム小説













BASARA56



母親は薬剤師。
父親は医師。

私が生まれたのはそんな家。
決して不幸なわけではなかった。
仕事のせいで会えない事は多かったが会えば二人はとても私を可愛がってくれた。
裕福な家庭。
たいした苦労もなくここまで来た私は何故こんなことになったのかは全くわからなかった。

母と父の仕事を見ていたせいか、高校に入る頃にはすでに医学系の学校に行くことに決めていた私は、大学も迷わず医学を専攻した。
そうして2回生の後半の、20歳のことだった。

 こ の 世 界 か ら 見 捨 て ら れ た の は


気がついたそこは真っ暗な世界。
記憶に無い場所。
そこには見慣れた高層ビルもなく、ただ闇が広がっていただけ。

「ここどこ・・・」
呟いた声に返事はなく。
鋭い風が、吹く。
「っつ・・・」
同時に走る痛み。
それは身を切り裂かれるような。

思わず蹲った私に近づく音。
驚いて顔を上げたと同時に髪の毛を引っ張られ押し倒される感覚がして。
怖くて怖くて口を開くこともできない私の喉元に鋭い刃が向けられて。
「どこの忍だ。」
抑揚の無い声。
それに答えることもできず。
「・・・答えぬと言うならそれでもよい。死ね。」

( し に た く な い )

同時に振り下ろされる刃に無意識に体が動いた。
男であろうその影に思い切り足を振り上げる。
反撃を想像してなかったのかその体は思いのほか大きくのけぞってその隙に私はその下から出た。
すぐに走り出したが追いつかれるのは時間の問題だろう。
ならば、逃げるよりも、ここで体力回復に努めるほうが賢いかもしれない。

私はそんなことを思いながら、一方であまりにも冷静な自分に驚いてもいた。

そうして気づく何かが近づく気配。

怖い 

そう思いながらもそれを上回るのは死への恐怖。
それに呼応するかのように神経は高まって。

(き、た)

そう思ったと同時に何かが自分に向かってとばされる。
それが何かはわからないが寸でのところでよけた。


何度も繰り返されるそのやり取りに体の疲労はピークに達して。
つまずいて倒れて

    そして向かってくる刃に

             振り下ろされたそれに

                   鈍い痛みに



意識はブラックアウトした。





そうしてわたしはある1人の軍師に拾われた。



『役に立たないのであればいらないよ。』

『僕の命令は絶対だ。』


とても気高く崇高。
なにものにも侵される事の無い強い意思を持った。
とても冷たい人。





任務で伊達政宗を暗殺せよとの指令が出て。
それに従い女中として侵入したその城。
やっと、馴染み、そろそろ動こうかと思った矢先のこと。
現れたのは明らかに異質な存在。
それと同時に感じるのは懐かしい空気。
それらは彼女が同じ時代のものだと示していて。

始めはただ単純に嬉しかった。
同じ世界を共有している人がいたことが。
けれどもそれはすぐに嫉妬に変わった。

あまりにも綺麗過ぎる彼女に。
穢れることを知らない彼女に。
同じ世界から来たのに違う結果に。

居場所がある彼女に。


だから毒を盛った。
ばれる可能性が増えるのを解っていながら。
それだけ、彼女が羨ましかったから。

任務の失敗と共に帰り着いた主の元。
処分されるのだと思っていたがその様子も見られず。
冷たい視線。
温もりの無い声。
そして命じられたのは戦への参戦だった。

秀吉様に命じられて主を眠らせた。

目覚めた主とともに向かった戦場では全てが遅すぎて。
感情の無い目。
表情。
それらはとても怖くて。

私の世界での知識とこの世界に持ってきた薬品で作り上げた強力な睡眠薬。
それによって独眼竜を眠りへと誘った。



再びあった彼女は相も変わらずぬるま湯の中。
さらには彼女と同じ世界から来たと言う男もいて。


向けた刃。
切れた皮膚。
流れる紅。
どれも初めてなのだろうにその瞳は強く。
決して屈しはしない。

その瞳に射抜かれて、答えるはずの無かったことを口にしてしまった。

そうして彼女が口にするそれらは大きく私を揺るがして。


当初の目的を果たすことに再び失敗した私に今度こそ殺されると覚悟したとき。
主は何も言わずただついてくることを命じた。

向かった先は松永久秀と言う人物のところ。
情報によれば珍しいものを集めるのが趣味だとか。

「未来から来た少女に興味は?」

主の言葉に体が震えた。
けれども次に発せられたのはそれは奥州にいるということで。
奥州、それはつまりあの娘のこと。

言外に奥州のを手に入れられなければ私が行くことになるのだろうと感じて。




挑んだ戦は決して負け戦ではなかった。
だが独眼竜が目覚めたことによって全ては変わってしまった。


主の口から零れた赤に、恐怖を感じて、その体を抱きかかえたままその場から離れた。
追ってくるかと思われたがその気配はなく。

月明かりの下。
水辺へと降り立って主を下ろす。

その顔は蒼く。
反対に口から溢れる赤は鮮明で。
端正なその顔に卑屈な笑みを浮かべ主は口を開いた。

「菫。・・・君への最後の命令だ。」
「半兵衛、さま・・・。」
「僕の首をはねなさい。」
「っ!」
「僕は早く秀吉のところに行きたいんだ。かといってあんな若造にやるほどこの命は安くは無い。」
「で、すがっ・・・」
「聞けないのか?菫。これは、命令だ。」
冷たい瞳。
それは決して私を映さない。

それでも それでもわたしは 

          あなたを


「っ、さような、ら・・・半兵衛、さまっ。あなたが主で、幸せでっ、した。」

振り上げた刃は鈍い色を反射して。


月はただそこにあった。



あなたの言っていたことはどれもあたっていたの。
認めるのが怖かっただけでどれもが正解。

だって 私は どんな扱いをされても あの人が 

   大切で
   
     大事で

       大好きだったから。







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