ドリーム小説








BASARA58







政宗の部屋の前の庭では掃除をしていた。
聞こえてくる穏やかな鳥の声に、道場からの稽古の声に、いつもの日常が戻ってきたことを感じながら。

「っ、・て・・・・。」
「ご・・・・さい、ま・・。」

時折聞こえてくるそれらの声は、この城の主のもの。
先ほど医師が部屋に入っていった。
今は怪我の治療をしているのだろう。

「・・・!!」

その威勢のいい声に思わず顔がほころぶ。

(よかった。政宗様がお元気になられて。)


というのも、政宗は起きてすぐ菫と一戦を交えさらには竹中半兵衛までも相手にした。
それどころか軍議にまで参加したのだ。

いくら政宗がタフだといっても、さすがに1週間ほど呑まず食わずでいたのだ。
そんなに持つはずは無い。
それを証明するかのように、政宗は軍議のあと再び、ぶっ倒れた。
そのときに小十郎からの雷が落ちそれ以後は珍しくも静かに日々をすごしていた。

そうして数日たった今では未だに傷は残りながらも元気に動き回るようになっていた。



と、物思いにふけるの肩がぽんと叩かれた。

「っつ!?」

そこにはだれもいなかったはずなのに、そう思い驚いて振り向いたそこには印象的な橙色と迷彩。

「やっほ〜。ちゃん。」

悩むまでもなく彼ー猿飛佐助がそこにいた。



ちょっとお話しない?
そのように言われは掃除の手を休め近くの石に腰掛けていた。
対する佐助は立っていたが。

「戦お疲れ様でした。」

そう告げたに佐助はいつものような胡散臭い笑みを浮かべて答えた。

「いやぁ、ほんとに、お疲れだったよねぇ〜俺様。相変わらず旦那は忍使いが荒いし、頼りにしてた巴夜深も気づけばいないし。」

ぶちぶちと不満そうに、佐助は続ける。

「それはそれは・・・。」

巴夜深が駆けつけてきたのはのところである。
それ故佐助の言葉に微かな罪悪感を感じる。

「ほんとに癒しが欲しいんだよねぇ、俺様。」

そうしてを見据えて佐助は問うた。

「ねえちゃん。」

「はい?何でしょうか。」

きょとんと首を傾げる



「奥州なんてやめてさ、甲斐にこない?」



「・・・え?」

落とされるは爆弾発言。

にこりとした笑みを崩さず佐助は続ける。

「甲斐はいいところだよ?」

「え、えと・・・?」

「おいしいものも多いし、大将もいい人だし。」

「さるとび、さま?」

「なにより、巴夜深がいるよ〜。」

「あの、」

「どう?ちゃん。」

その目は真っ直ぐとを捉えていて。
一瞬の後、はその佐助の目を見返しながら答えた。

「すごくいいお誘いだと思います。巴夜深にいもいるなんて、すごく素敵です。」

「んん。そでしょ?」

「はい。・・・でも、ごめんなさい。私は、甲斐に行くつもりはありません。」

そのの答えに佐助は苦笑して言った。

「まあ、そう答えるとは思っていたけどね。・・・何でか聞いてもい?」

「何で、ときかれれば・・・そうですね。ただ私は、ここに、奥州にいたいのです。あの方のいるところに」

が思うたった一つの本心を偽ることなく佐助に伝える。
佐助の視線を受け止めて。

それに佐助はとても大きな溜息をついた。

「・・・はあ。ほんと、ちゃんっていい女だよね。」

「おっ、お褒めいただき、恐縮です。」

顔を赤らめ微かに目線をそらしは慌ててそう言った。
それに微かに目を細め、佐助は再び問うた。



「・・・じゃあ、さ?独眼竜なんかやめて、俺様にしない?」



はその言葉にそらしていた目を佐助に向けた。

見つめる佐助の目は怖いくらい真剣で。
先ほどの笑みは形を潜めていて。

見詰め合った数秒後はとても綺麗に微笑んだ。




「だめ、ですよ。」

そうして一瞬瞳を閉ざしそうして佐助をまっすぐと見つめ続けた。

「ねえ猿飛様、知ってましたか?私って結構欲張りなんです。何があっても私を最優先にしてくれない人のところに行くつもりはありません。」




そのの言葉に今度は佐助が驚いた表情を見せた。

そうしてすぐにとても綺麗に微笑んだ。


それはが今まで見た中で一番綺麗で、最も人間らしい笑みだった。


「それじゃ、仕方ないねぇ。残念なことに、俺様は何があっても旦那を優先しちゃうからね。」

そうして今度はとても楽しそうに言った。
「じゃあさ、代わりにお願い、聞いてくれる?」
「はい?」

「俺様のこと猿飛じゃなくて、さ。佐助って呼んでよ?」
「え、・・・。」
その願いには口ごもる。

「お願い。」

再度繰り返されたそれには断ることができなかった。

「・・・さす、け、さ、ま・・・」

「さ・す・け。」

「ええぇ・・・さ・すけ、・・・さん」

「ん〜・・・ま、いっか」

いくらかの妥協の後笑った佐助はもういつもの笑みで。


「んじゃま、改めて、これからもよろしくね。ちゃん。」

「こちらこそ、よろしくです。さすけ、さん。」


2度目に会った時と同じように佐助はその手を差し出した。










※※※※
実を言えば一番書きたかった話。
これが書きたいがためにこの連載を始めたといっても過言ではなかったりします。









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