ドリーム小説













BASARA59





目が覚めてそこにいたのは異世界からきた娘で。

何度も何度も名前を呼ぶ姿はどうしようもなく

     い と お し い 

必死に縋り付くその体はとても小さく守りたいと思ってしまう。

その瞳から溢れ出る涙はあまりにも綺麗で。

不意に堅くなった体にどうしたのかと覗き込めばそらされる視線。
さらに頬はほんのりと赤く色付いて。

(・・・照れてやがる。)

それに思い至った考えに思わず頬が緩む。

小さな体をぎゅうと強く抱きしめてやれば慌てて体を揺らして。
それがおもしろくて耳元で口を開けば、音が聞こえるくらいの速さで顔を真っ赤に染めて。

からかう様に口を開いてみれば彼女が見上げてきて。

 重なる視線に 

   その赤い顔に

     微かに濡れた瞳に

   惹 き 込 ま れ る


そのままそっと顔を近づければさらにその顔は赤くなり、その至近距離からあう視線が新鮮でそのままーーー



「・・・お楽しみのところ申し訳ありませんが

       今は戦中です、殿。」



これほどまでに彼、綱元をうらんだのは初めてかもしれない。








「っ、いてぇ・・・。・・・っ!」
「ご辛抱ください、政宗様。」

戦から幾日かが過ぎた今、俺は自室で医師の世話になっていた。
未だに治らぬ傷もあり治療のために痛みをこらえるのもしょっちゅうだ。

「・・っ!!」

最後とばかりに貼られた薬に痛みをこらえ耐える。
一つ溜息を吐き出して今はまだ閉じられた襖へと視線を向ける。

そこにあるのは慣れた彼女の気配。
ただそれだけなのにすごく安心している自分がいて。

ふ、と庭の気配が増える。
その気配は慣れた、けれども決してわかりあうことは無いであろう忍のもので。


思わず外にでようとした俺の背に聞き慣れない声が掛けられた。


「政宗公。」


ふり向いたそこには彼女と同じくどことなく異質な雰囲気をもった巴夜深だった。

「Ah〜?What?」

のことでお話がございます。」

その彼女の名前に少なからず反応して。

「・・・なんだ?」

真っ直ぐなその視線を受け止めながら問うた。

「あなたはをどのようにお思いか?」

その質問に眉をひそめながら質問を返す。

「何でそんなことを聞くんだ?」

「俺にとって、あいつは、は何よりも大事な存在だからです。」

そこで一度口を閉じると巴夜深は俺を微かに睨み付けながら再び口を開いた。

「あいつの内側に土足で入るようなまねは許せない。」

ああこいつは、俺によく似ている。
あいつを求める姿がとてもよく似ている。

「Ha!」

鼻で笑う政宗に巴夜深は気を悪くしたようにさらに睨みつけた。

「あいつをどう思ってるか、なんて愚問だな。」

「俺はあいつが大事で大事で仕方が無い。どうしようもなく俺はあいつが愛しいんだ。」

真っ直ぐと偽りなき気持ちを巴夜深に伝える。


あいつが望むのなら何でもしてやりたいと思う。
あいつが悲しむのなら抱きしめてやりたいと思う。
あいつが求めるのならそれを手助けしてやりたいと思う。


は俺を信じると言ったんだ。俺はそれに答えるだけだ。」


あいつが信じてくれるならその信頼に答えようと思う。



「生憎だがな俺は、を手放すつもりは、ねえ。」



あの強がりで、弱くて、それでもとても強い。

     愛しい娘をこの手から離すつもりは ない。




『ただ私は、ここに、奥州にいたいのです。あの方のいるところに』




計ったように聞こえてきたその声は間違いなく彼女のもので。


そのの言葉に思わず顔が赤くなる。

    彼女が願ったのは間違いなくこの場所。

「・・・反則じゃねえか・・・。」
思わず蹲った俺の背にさらにそいつは会話を続けて。

「俺は政宗公。あなたが嫌いです。俺が手に入れることのできなかった位置を簡単に手に入れたあなたが。見知らぬ人ばかりのこの世界であの子が頼るのがあんただと言うことが。」

その言葉にやっぱりこいつは俺にそっくりだと思った。
立ち上がり外へと足を向ける。
襖に手を掛けゆっくりと振り返り再度視線を合わせる。

あの少女によく似たその瞳に。

「奇遇だな。俺も巴夜深、お前のこと嫌いだ。俺が知らないあいつを知っているお前が。」






ぱたんと閉まった襖。
部屋の主はいない。
いるのは巴夜深だけで。

はあと溜息をく。

思い浮かぶはあの子の姿。
同時にそばにはあいつがいて。

俺はあんたが嫌いだ。
俺があいつに与えてやることのできなかった安らぐ場所を、簡単に泣ける場所を与えることができたあんたが。

だいっきらいだ。


大人気ないとは思うがこう思うことぐらいは許されるだろう。




ゲームの中の登場人物だと思っていたのにあいつらは本物で。

 泣いて

   怒って
    
     笑って

       悩んで

    生 き て い る


あいつはこの世界にいたいと、この世界を否、あいつを選んだ。

ならば俺もこの世界で生きよう。

あの子が悲しむことのないよう。

あの子の傍にいてやれるよう。

それは俺の願い。

どうしようもなく不器用なあの子のために。

俺自身のために。






※※※※
巴夜深にとっては恋愛対象とかではありません。
ただ純粋に大切なんです。

さてさてあと1話でこの連載も終わります。
もうしばらくお付き合いください。










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