ドリーム小説
無色透明 13
「カク、さんは、」
風に吹かれて、彼女の髪がはためく
「この島が、本当に、」
頬が温もりに包まれて、同時に目をあわせられて。
「大好きなんですね。」
心の底を見透かされたようなその言葉に、息をのんで。
言葉は勝手にこぼれた。
「っ、ああ、大好き、なんじゃよ」
このきれいな景色も
わしをみて手を振る街の住民達も
競いあう工房の仲間達も
この場所を守る社長も
本当は、大好きで。
なくしたくはなくて、手放したくはなくて。
自分で築き上げたこの場所を、温もりにあふれるこの街を、
離れたくはなくて、でていきたくはなくて。
でもそれができないということも、わかっている。
時折、すべてを放り出してしまいたくなって。
全部いやだと投げ出して、自分の好きなように、自分の思うままに。
そうすることを考えるのはひどく魅力的で、同時に___怖い。
ぐらりぐらり
思考は回り
ぐるりぐるり
世界は巡る
訪れてほしくない時間ほど、早く訪れる。
望まない時間ほど、早くやってくる
そして、いまおそれていた時間が、間近に迫っていて。
任務の期限が、やってくる。
そんな間近な瞬間に、彼女は現れた。
海賊らしくない姿
躊躇なくわしに手を伸ばすその無防備さ
まばゆいまでのその笑顔
彼女に心揺らされたのは確か。
けれど、ルッチがそんな些細なことで動くとは思ってはいなかったから。
だから、ようやっと仕事を終えて向かった先。
姿が見えない彼女に違和感を感じ。
ただハットリの羽が落とされていた様子に、さあ、っと血の気が引いた。
あわてて空を駈け降りれば、見つけた二つの影。
聞こえてきた、内容。
帰る方法を探していると。
平和で甘い世界だと。
理解は追いついていないけれど、頭の角でありえなくはないと思いながら、ルッチを、みた。
瞬間、
体はうごいた。
ルッチの腕が、手が、鋭さをまとって、彼女に、に___
その心臓に向けられた指を、足ではじく。
わしの行動を無言で受け止めたルッチ。
背後、座り込む彼女の気配。
ルッチから目を離さないまま問えば、帰ってくるのは冷たい空気。
忘れるな、と
怠るな、と
自分の任務を全うせよ、と
わかっている、わかっている、けれど。
この生ぬるさに浸ろうとしたことも、確かだったから。
_大丈夫です。私は、なにも知らないしみてない。_
大丈夫かの問いかけに、彼女は笑って答える。
あっけないほどの、その笑顔。
その理由はこの世界の居場所を見つけられていないから、こそ。
頼る場所を持たない彼女は、自分を偽ることで、この世界に存在している。
笑うことでごまかして、不安を思考からおいやって。
彼女はそれにすら気づいていないのだろうけれど。
わしも、ルッチも、この街が好きなのだと、その答えを導き出されたのがひどく恥ずかしくて。
あっさりとうなずいたルッチに驚いた。
「大丈夫じゃ、ルッチ」
彼女を送り届けて、その後。
二人で向かう、ブルーノの酒場。
じろり、向けられた視線にへらりと笑って。
ちゃんと任務は遂行する。
彼女のことも放っておける。
大丈夫、さっき話をしたことで、逆に感情は落ち着いた。
「さて、仕事をするかの」
脳裏に浮かべる麦わら帽子。
その横、不安げにたちながら笑う彼女の姿。
ああ、あの麦わら帽子が彼女の帰れる場所になればいいのに。
敵であるとわかっていながらもそう願わずにはられない。
それほどまでに、あの明るい笑顔は、いたかった。
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