ドリーム小説
無色透明 14
遅くなった、すまなかった
先ほどまでのやりとりなどなかったかのように。
ルッチさんとカクさんがそう言って私を送ってくれたのは月がとうに昇った頃。
「・・・どういう、こと?」
コックさんの姿が見えたので彼らとわかれて彼のもとへ。
どうして船で待っていないのか。
その問いかけをする前に、メリーはウソップに渡したのだと返されて。
「ウソップは船を下りた。メリーと一緒にここでお別れだ」
言われた意味がわからなくて、理解が、できなくて。
「俺はここでちゃんとロビンちゃんをまってたんだ」
金色の髪は、湿った空気にあおられて。
くわえた煙草の火は見えなくて。
潜められた眉は苦しげで。
「サンジ、さん」
背の高い彼の頬にそっと触れる。
けれど温もりは遠く、どこか冷たくて。
彼はそのまま瞳を細めた。
「___なんで、こうなっちまったんだろうな」
手のひらの上から彼の手に包まれればようやっと、体温を感じて。
より一層この世界に私の場所はないのではないか、そんな感情にかられる。
「それでも、ちゃんが戻ってきてくれて、よかった」
なのに、コックさんのその一言で、ゆるり、思考はほどけた。
すとん、と焦燥は収まって。
「わたし、は」
知らぬうちに言葉はこぼれる。
「ここにいても、大丈夫?」
私の言葉にサンジさんは一度目を瞬いて、そしてふわりと笑った。
「ここは、ちゃんの居場所だよ。」
柔らかな目元は私を見てほころぶ。
「だから、大丈夫」
なんの根拠もないはずのその言葉。
それでも、簡単に感情は落ち着いていく。
「ああ、長々と冷たい風の下にいさせてごめん」
くしゃり、頭がなでられて、背中が押される。
「宿にナミさんたちがいるから、ちゃんもそこで___」
「私もここで待っててもいいですか?」
サンジさんの言葉を遮って問えば、彼は少しだけ困った顔をして。
「俺は、ちゃんにはちゃんと休んでほしいかな。」
少しだけひざを曲げて、視線を合わせて言われればそれ以上言い募ることはできなくて
「___困らせてすみません。」
私の言葉に彼はふんわりと笑った。
「女の子に困らせられるのは本望だよ。」
宿に戻った私を出迎えたのは、航海士さんで、剣士さんで、船医さんで___船長さん、だった
「あんたまで戻ってこなかったらどうしようかと思ったわよ、ばか。」
ぎゅう、と強く抱きしめてきたナミさんは私の耳元でそうつぶやいて。
「ちゃんと戻ってきたな。」
ゾロさんがぐしゃりと頭をかき回して。
「けがは、けがとかはなかったか?!」
うろうろと私の周りを動き回るチョッパー。
それから___
「なにするのよ、ルフィ!」
「わ、」
べりり、ナミさんの柔らかい温もりが遠ざかる。
かわりに堅い温もりに包まれて。
視界が赤に染まる。
ぎゅう、と感じる圧迫感。
一言も発さない麦わら帽子。
そっと答えるようにその帽子に触れた。
「メリーがもう走れないって」
「うん」
ぽつぽつと、まるで状況を自分で整理するみたいに。
「ウソップが抜けるって・・・」
「うん」
信じたくないことを、吐き出すことで嘘にするみたいに。
「ロビンが、かえってこねえんだ・・・」
「・・・うん」
ぎゅう、とひときわ強く、抱きしめられた。
「も、帰ってこないかと、思った___!」
耳元での小さなささやき。
常では感じられないほどの弱々しさに、心臓が、じくりと痛んだ。
「・・・遅くなってごめんなさい、ルフィさん。」
私の言葉に彼はうん、とうなずいて、ようやっと腕を放してくれた。
※※※
「じゃあ、今、ウソップさんは」
「ああ。メリーの中にいる。」
風の吹き付ける窓を眺めながら今までの経緯を聞く。
ウソップさんが離れるに至った経緯、ロビンさんの失踪。
ぽつぽつと言葉少なに剣士さんは教えてくれて。
一通りの話が終われば部屋に落ちるのは沈黙。
「・・・あいつは”重い”って言ったんだ。」
唐突にゾロさんの口からもたらされた言葉。
なんのことか理解できずに彼をみる。
そうすれば、彼の瞳はまっすぐに天井に向かっていて。
その視線の先は、屋上にでていった麦わら帽子の方向。
___重い___
その単語は、簡単に思えるそのフレーズは、今あの麦わら帽子の肩にのしかかる。
太陽みたいに笑う彼。
いつだって、皆の先を照らすかのようなあの光。
今はこの空のように澱んだまま。
「ルフィさんは、道標みたいな人だから。彼が止まってしまうと、皆も止まってしまうんですね。」
砂漠でみる、北極星のように。
海上でみる、灯台の光のように
「麦藁海賊団に、なくてはならない人だから。」
失っては生きていけない。
それくらい、存在の大きな人。
ゾロさんの瞳が、私に向く。
「大丈夫、ルフィさんは」
まっすぐに見返して、笑ってみせる。
「仲間を守るためだったらいくらだって強くなるから。」
クザンさんと対面したときのように。
「その重みが、仲間を守るために感じるものならば」
ロビンを、皆を守ったあのときのように。
「そんな重さには負けない」
しかめっ面だったその表情が、ふ、っとゆるんだ。
「お前も___その一員だからな。」
思いがけない切り替えしに息をのむ。
「ルフィが守ると決めた中にはいってんだ、」
こつり、立ち上がった彼は私の前にやってきて。
「忘れんじゃねえぞ。」
ぐしゃり、髪の毛をかき回して笑った。
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