ドリーム小説
無色透明 16
コックさんは私を離すとやっぱりきれいに笑って、航海士さんあてのメッセージを壁に書いた。
「必ずナミさんはここにくるから。」
そう言うと私の頭を一つなでて、でんでん虫を預けると走り出した電車に飛び乗っていった。
体を小さくして、隙間に入り込んで。
ばれないように、気づかれないように。
そうして、どのくらいたったのだろうか。
おそらくそんなに時間はたっていないだろうに、すごく長く感じたその空白
かつん、響いた靴の音
ゆるり、向けた視線の先、ふらりと地面にへたりこむ橙色。
「間に合わなかったか・・・」
その後ろに昨日造船所にいた男も現れて。
コックさんが言ったとおり、確かに航海士さんは、ここにきた。
縮こまっていた場所から体を外に。
ゆっくりと足を進めて肩をふるわす彼女のそばに
「!おまえ、」
船大工さんの言葉をそのままに、彼女の体に___
「追いかけるわよーー!!!」
触れる直前彼女は叫んだ。
「わ、」
叫ぶと同時に大きく空に突き出された握り拳。
よけようとして体は崩れて、航海士さんの後ろに情けなく腰をつく。
「え、あ、!?」
すぐ後ろでこけた私に何事かと向いた瞳は、私を映した瞬間、大きく見開かれて。
「ええと、どうも、ナミさ、」
私の言葉を聞ききる前に、その豊満な胸の中に閉じこめられた。
「何でここにいんのよ!!宿で待ってなさいって言ったでしょ?!」
宿にもよくわからないけど追手というか、なんというか、なんか来てたんです。
そんなことをいえるはずもなく、へらり、笑って彼女の背中をなだめるようになでる。
そうすればこわばっていた体は少しだけ落ち着いて。
けれど、腕の力は強くなって。
あ、ちょっとまって、痛い。
「ナミ、さん、ちょっと痛い・・・」
私の言葉に彼女はばっと距離をあけて。
そして、叫んだ。
「なんでそんな傷だらけなのよ!!」
先ほどの怒りとは違い、どこか泣きそうにも聞こえる声色。
「このバカ!!」
そう叫びながらもその手は、腕は、優しく私にふれていく。
「ちゃんとチョッパーに診てもらいなさい」
最後にそう言うと、彼女はこつり、私と額をくっつけあって。
「・・・たくさん怪我してても、が無事でよかった」
ぽつり、落とされた言葉に。
私を労る言葉は、ここにもあって。
うなだれる彼女の頭をそっとなでた。
「あのね、___ロビン、裏切ってなんかなかったの」
かすかに震える声。
振り絞るように出された言葉たち。
それは、望んでいたもの。
思わず航海士さんから距離をとって、その瞳をまっすぐに見つめた。
「私たちが、麦藁海賊団が無事にこの街からでること」
ふにゃり、眉をさげて、彼女は言葉を続けた。
「それを交換条件にして、ロビンは政府についたのよ」
それは、それは、つまり___
「これでロビンを助けにいけるわ。」
そのための方法は___
ゆっくりとナミさんと一緒に船大工さんをみる。
二対の瞳に見つめられたその人は一瞬だけたじろいで。
「船を、かして。」
瞳に宿る色は強く。
まっすぐに船大工を見つめる。
「!この海に船を出す気かっ!?てめえアクアラグナの恐ろしさも知らねえでバカ言ってんじゃねえ!!」
続けてもたらされる船大工の言葉にも航海士さんの目は揺らぐことなく。
「お願い、船を貸してちょうだい」
「おまえの考えてる高潮とは規模が違うんだ!!これから海は恐ろしく荒れる!!もう海へはでられねえ!!」
反対の声を上げる彼の言ってることが分からない訳じゃない。
何度もアクアラグナを体験している彼だからこその言葉。
それでも
「死にに行くのと同じだ!!」
それでも、あきらめるなんて選択肢は、どこにもない。
「ロビンだって私たちのために、命を投げ出して___」
と、
彼の視線が私たちの後ろへ走った瞬間
「っ危ねえ!!」
突如体に走った浮遊間。
腹に感じた圧迫感のまま、ぐい、と体は持ち上げられて。
理解できない状況の中、先ほど自分がいたであろう場所が、大きな波に飲み込まれたのをみた。
階段の上、なんとかたどり着いたその場所。
息を整えるために胸に手をやって、そこで存在を思い出した。
「ナミさん、これを。」
呆然とする彼女に差し出すのはでんでん虫。
そしてコックさんが書いていった壁を指させば、彼女はげんなりした表情を浮かべて。
「サンジさん、さっきの電車に一緒に乗ったんです。」
私の言葉に彼女は息を飲む。
「、それって・・・!」
「ロビンさんは一人じゃないです。」
だから、大丈夫。
「なら、まだ大丈夫。サンジ君がいるなら、猶予はあるわ」
先ほどの表情とは一転。
にぃ、と勝ち気な笑顔を浮かべて彼女は本来の明るさで笑った。
「ルフィたちを探し出して、さっさとエニエスロビーに向かうわよ!」
「ナミさん、ルフィさん、ゾロさん、チョッパー」
煙突にはまる剣士さんに壁に挟まれた船長さん。
見つけだされたその場所は非常に間抜けだったけれど。
ロビンさんを助けていい。
その言葉を聞いた瞬間の彼らは、ひどく頼もしかった。
アイスバーグさんが整備した海列車に続々と乗り込んでいく仲間たち。
彼らの名前を呼んで、呼び止めれば4対の瞳が私を映す。
「___私はここで、まってます。」
私の言葉に変な顔を浮かべたのは船長さん。
「何でだ?一緒に行くぞ。」
彼はその言葉を裏付けるように、手を伸ばして___
私に触れて、へにゃりと効力を失った。
「忘れてた、使えねえんだったな。に触れてたら。」
むう、と頬を膨らまして、帽子を片手で押さえて。
不満の色を前面に押し出した。
「行かないのか?・・・」
眉を下げて私を呼んだ船医さんに小さく笑って。
「でも、一人でここに置いていくのも・・・」
航海士さんはどこか迷ったように。
「わかった」
けれど剣士さんはしっかりとうなずいた。
「えーなんでだよ、ゾロ!!」
剣士さんの言葉にぶうぶうと文句を発する船長は、けれども私の言葉に口を閉ざした。
「サンジさんと約束しました。」
4対の目が私をまっすぐに射ぬく。
「帰ってきたら、お帰りって言うって。」
そうすれば、船長はぱくり、不満を飲み込んで。
「私にちゃんと、お帰りの言葉を言わせてくれるって___」
きらきらとした瞳を瞬かせた。
「信じてますから」
航海士さんは小さく笑って。
「あなたたちが帰ってくるのを待ってる人がいることを」
チョッパーは一つうなずいて。
「どうか忘れないで。」
剣士さんは何も言わずにひらりと手を振って列車へと足を進めた。
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