ドリーム小説
無色透明 4
羊の船で、向き合うのは麦わら帽子。
周りを囲むのは、その仲間たち。
彼らには、一度だけ会ったことがあった。
砂漠の国。
アラバスタ、と称されたその場所で。
とあるご飯どころにて、海兵と接触したそのときに。
「白髭海賊団、二番隊隊長、ポートガス・D・エース」
なんだかひどくたいそうな肩書きが並んだけれど、理解できるのは彼の名前だということだけで。
「弟を、探しにきてるんだ。」
声をあらげる海兵と、陽気に答える彼と。
その横でもそもそとご飯を租借しながらそのやりとりを眺める。
海兵の意識はこちらに向くことはない。
これ幸い、とばかりに、お店の人にデザートを注文して。
甘いそれらを一口、頬張ったその瞬間。
衝撃音。
何事かと横を見れば、そこに彼の姿はなく。
ついでに海兵の姿もなく。
代わりにあったのは麦わら帽子をかぶった少年の姿。
吹き飛ばされた彼と、吹き飛ばした少年と。
状況を理解できないまま、事は進み。
気がつけば、彼に抱えられて、目の前に煙を受けながら炎の壁ができあがるところだった。
そのままストライカーに乗り込んで、あれよあれよと陸地は離れていく。
そうして目の前に現れるのは一つの大きな船。
羊を模した船首は海賊船には不釣り合いにかわいくて。
そこに乗っている人たちも、海賊とは思えないほど暖かかった。
「出来の悪い弟を持つと、お兄ちゃんは心配なんだ。」
そう告げる彼は、兄の顔で。
故郷にいる兄さんを、思い出すには十分で。
ここが、私の居場所ではないのだと、まじまじと見せられた気がした。
「エース、そいつは?」
麦わら帽子の弟さんに視線を向けられて、自分のことをいわれているのだとようやっと気がつく。
「ん?こいつはだ。」
彼に紹介を受けて、頭を下げる。
「です。ちょっと家に帰る方法を探すために彼と一緒に行動しています。」
「なんだ、迷子か。」
弟さんの言葉に思わず笑みが浮かんだ。
迷子。
それが今の私を表すのに一番適しているのだろう。
世界単位の大きすぎる迷子だけれど。
「ルフィ。俺に何かあったら、のことを頼む。」
彼が私の頭に手を置いて、ぐしゃぐしゃとかきまぜながら告げる。
聞きたくなど、ないよ。そんなことば。
私が家に帰れるまでつきあってくれるって、そういったじゃないか。
足手まといでしかないことは理解していたけれど、一緒にいてもいいといってくれたのはうれしかった。
信じられることが一つもないこの世界で、おいていかれる可能性というものを考えたくはないほどに信頼していた___
「!」
私を呼ぶのは、彼、ではない。
幼さの残る声。
明るく爛漫な姿。
彼の面影を宿しながら、彼ではない弟さんは、それでも私の名前を呼ぶ。
満面の笑みで。
「エースに頼まれたからな、おまえのこと!!」
彼と同じ、周りまで明るくする笑顔で差し出された手を、拒む理由はなくて。
元の世界に帰るため。
自分にそっと言い訳をして、その手を、つかんだ。
そうして、私は麦わら海賊団の一人となった。
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