ドリーム小説





towa 31












「卿は何をしにここに来たのだ」

放たれた言葉は存外低く、びりびりと辺りの空気を震わせる。

その姿は在りし日の 松永久秀 であった。


を迎えに」

鋭いタカのようなその瞳をまっすぐと睨み返し答える。

「ほう、迎えに?」

顎に手をやってゆるり首を傾けて、松永は問う。

「そう」

再び返せばくつりくつり笑い声。

楽しそうに、愉快そうに俺をその瞳に宿しながら口を開く。


「あの子を泣かせたというのにか?」


どくん


大きく胸が音を立てた


「あの子を傷つけたというのにか?」


どくん


胸の奥が痛みを訴えるように


「あの子を忘れていたというのにか?」



どくん


ひときわ大きく胸が痛んだ




確かに


俺はを泣かせて

傷つけて


そして


彼女のことを忘れていた




だけど、だけど、



「たし、かに、俺は彼女を泣かせた、」


ほろりほろり流れる涙は美しく、俺の心を揺さぶった

そしてその原因は俺でもあって


「確かに、俺は彼女を傷つけた」


覚えていないにもかかわらず、彼女に不用意に近づいた。

曖昧な笑顔は、俺をどう思っていたのだろうか


「っ、確かに、俺は彼女を忘れていた!」


記憶の中の彼女はあんなにも俺を求めていてくれたのに、

記憶の中の俺はあんなにも彼女を求めていたのに



俺はという存在を覚えていなかった



「だからっ!!」


いつもでは出さないような大声。

松永は俺を乾いた目で見つめていて。




「だからこそっ、を迎えに来た!」





忘れていた時間を埋めるように


俺という存在を焼き付けるために



  もう一度俺のそばで笑ってほしいから





だから



ふわり

風が吹いたと同時に体に走った温もり。

柔らかなそれは腹部から。

目を向ければ黒髪がふわり揺れて肩に落ちたところだった。






back/ next
戻る