ドリーム小説







towa 32










頭がぐちゃぐちゃになって、何も考えたくなくて、あの二人から逃げ出して

気づいたら、ここにいた。



「松永さん松永さん」


あの時の呼び方で、必死にその体に縋りついた。

ごめんなさい、口から洩れるそれは自分の言葉なのに意味がわからなくて。


忘れていてごめんなさい


そう思いながらも怖くて怖くて


この人はずっと覚えていたのだろうか。

という存在のことを。



「これでも飲んでなさい。」


渡されたカップには温かな湯気。

それを受け取れば微かに笑んで(久しぶりに見たこんな笑み)そのまま外へと出ていった。



あの世界で幾度となくあたしを欲した人。

その意味はわからなかったけど、今では安心できる親戚として存在していて。

あんなにも傍に寄りたくないと思っていたはずなのに、こう言う時だけ頼ってる。

そんな自分が嫌だなあとぼんやりと思いながら渡された紅茶を口に含んだ。





微かにざわめく校内は、生徒の登校を意味していて。


入り口で感じた気配は

慣れ親しんだその気配は

愛しい人のものだと、わかってしまった。



微かに耳を集中させれば聞こえてくる声に


胸が

体が

心が


彼を欲するのがわかった。


  卿は何をしにここに来たのだ


その問いの答えに感情が歓喜を知らせる。

    を迎えに


「あの子を泣かせたというのにか?」

「あの子を傷つけたというのにか?」

「あの子を忘れていたというのにか?」



「たし、かに、俺は彼女を泣かせた、」



ゆっくりともらされる返事。



「確かに、俺は彼女を傷つけた」


いつもはそんなに焦ったような感情をむき出しにしたりしないのに


「っ、確かに、俺は彼女を忘れていた!」


いつもは声を張り上げたりしないのに




「だからこそっ、を迎えに来た!」



全力の訴えは


心に深く突き刺さった。



気づいたら扉を開けて橙色の彼の胸に飛び込んでいた。









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