ドリーム小説






恋というには幼いそれは 10





















『スポーツしてる人への差し入れって、何がいいん?』

『無難にスポーツドリンク。』


スポーツをしてる幼馴染にメールで聞けば、そんな返事。

そのためはスーパーでいくつかのスポーツドリンク(ちなみに1?だ)を購入。

一緒に紙コップも持って、学校へ向かっていた。


「思ってたより、重たかった・・・。」

というよりも、思っていた以上に自分がひ弱だったのだが。

ほいせほいせと重たい荷物を必死に持ちながら(冷やすためにと保冷ボックスにめいいっぱい保冷剤やら入れたからさらに重い。)ついた学校。

そこではすでに軽やかな音を立てて黄色いボールが飛び交っていて。

フェンスの周りには朝はやくからご苦労なことに幾人もの女子生徒。


さてさて、どうやってフェンスの中をのぞこうか。

仁王に差し入れを渡そうか。

そう思いながらも、やはり多い人にうんざりして、以前と同じ場所に立ち止まる。


「どないしようかな・・・え?」



ふ、と近くを通った人物に目が行く。

この立海の黄色のユニフォームと違うそれ。

それはにとって懐かしいもので。


「・・・え?」


ふわり、風が舞って、そのユニフォームが揺れる。

鮮やかな水色が、踊る。

そしてその持ち主の、色素の薄い髪がさらり、動いて、


その中から切れ目の、鋭い瞳が、現れる。


「・・・わか・・・?」

思わずつぶやいたその名前。

呼ばれた彼が滅多に変えない表情を微かに驚きでいろどる。


、か・・・?」


ゆっくりと、じんわりと、噛みしめるみたいに呼ばれた名前。

愛想のないその表情が、を映すことで少しだけ和らいで。


「わあ、久しぶりやねえ、わか。」


ほてほてと、保冷ボックスをそのままに、その少年の元へと歩み寄る。


「そうだな。久しぶり。」


よっていったの頭に手をやりふわふわとしたその髪をそっと撫でる。

それにまるで猫のように表情を緩める

それをまるでいつものことだとでも言うように無言でなで続ける少年。


「ところで、なんでわか、ここにいんのん?」

ほてほてと、温かな手を甘んじて受け入れていればそういえばと浮かんだ疑問。

それに目の前の少年は、若は呆れたようなため息。


「いまさらだろう・・・練習試合だ。」


呆れながらもしっかりと返される返事。

若は愛想のないなんともいえないひねくれた性格をしてはいるが、その実とても優しい。


「そっか。頑張ってな。」


「当たり前だ。・・・はなぜここにいるんだ?」

ふ、と不敵な笑み。

後、疑問。

「だって、私高校ここやし。」

「そうじゃない。なんで今日ここに来たんだ?」

何を当たり前な。

そんな返事を返せば再び呆れたような若。

ほてほてと撫でる手が頭に乗せられたまま止まる。

見上げれば、さらさらな髪の毛の間から見える瞳が、まっすぐにを見ていて。

「ああ、今日は___」






答えようとしたのに、それは違う声によって遮られる。


最近よく聞く、温かな声。

柔らかく、耳に響くそれが、なぜかいまは冷たく聞こえて。


「仁王君!」


今日の目的の人物であるその声の持ち主。


「仁王、君・・・?」


振り向いた先、銀色が、何の表情も映さない色を携えて、ただそこにいて。


無言でに近寄ってきて、ぱしりとの頭に乗っていた若の手が払い落される。


「・・・へ?」


何が起こったのか、理解できないままきょとりとしていれば、ぐい、と引っ張られる腕。


「・・・?」


ぐるり、視界が変わって、目の前にいたのは先ほどよりもずっと怖い顔をした銀色。

見上げればそこにはこちらをみない若。


「どうしたん?わか。」


状況判断できないまま戸惑って若の名前を呼べば、びくり、目の前の銀色が驚いたように目を見開いて。

「・・・」

「・・・」


無言で見つめ合う二人になんだかいたたまれなくなって。


「あ、仁王君。そこの保冷ボックス、差し入れにってもってきたんよ。よかったら、テニス部の人たちと飲んで?」


今日来た目的の一つであるそれを慌てて指示す。

すると、仁王はちらり、その保冷ボックスに目をやって、どことなく戸惑ったような表情。


「仁王君?」


あまり見たことのない表情に、驚くよりも何よりも、心配になって。


「なんかあったん?大丈夫?」


いくつか声をかける。

するとそれに、なんだか何とも言えない表情。


「別に、なんもなか。・・・重かったやろ?ありがとな。」


いつもみたいに口の端をあげて、にやりと笑って見せるけど、何処となく違和感。


「どうし___」


「日吉〜?何しとんねん。」

どうしたん?

そう尋ねようとした言葉はまた新たな人物によって遮られた。


「・・・ん?あれ?仁王やないか。」


若の後ろからその声は聞こえてきて。

でも若の体にいますっぽり入ってるから、誰なのかとかわからなくて。

だけど、聞いたことのある声。


「なにしとんの?二人して見つめ合って。」


けたけたと楽しそうに近づいてきて、そして、若と仁王の間に立った。

瞬間、ぱちり、かちあう視線。


「・・・」

「・・・」


思わず見つめ合うこと、数秒。


「うわ、びっくりした!?」


慌てた声を上げる眼鏡。

もとい


「久しぶりやねえ、忍足君。」


元、クラスメイト。


さんやないか。」


ぱちくりと目を瞬かせる様子は、年相応のもので。

を見ていた目をそのまま上にずらして、若を見る。

そしてその向かいの仁王を見る。

そして何かしらを悟ったみたいににやりと笑った。


「日吉、さんに久しぶりに会えてうれしいんはわかるけど、はよういかんと跡部が怒りよるで?」


それはそれは楽しそうに笑う忍足。


「ほら、仁王も、幸村が探しとったで?」


仁王にも同じように声をかける。


ちなみになぜか仁王の表情は不機嫌だ。


「・・・。」


「ん?何?仁王君。」


呼ばれた自分の名前。

まっすぐに自分を射抜く鋭い瞳。


それが、どれもが、の鼓動を速める。


「日吉と___」


「あーーーー!!日吉!お前先輩に何してるんだよ!」


仁王の声は現れたわかめ頭に遮られ、仁王の表情はますます不機嫌なものへと変化して。


「・・・切原。」


ぱたぱたと走ってきた切原ががしりとをつかんで若から引き離す。

まるで忠犬のようなその姿に忍足が笑う。

若がため息をつく。


「日吉、お前先輩のなんだっう、わ?!」


を腕に抱えたまま若を鋭く睨みつけて問う切原。

の頭に乗せられる誰かの手。


「赤也俺は仁王を探して来いと言ったと思うんだけど?」


ぎちぎちぎち

そんな音が微かに聞こえてくる。

切原の腕の中から見上げた先には立海のユニフォームに身を包んだ、青い髪。

ぱちり、あった視線に一拍後、ふわり、笑う彼。


「さ、仁王、赤也行くよ。」

未だに切原の頭をつかんだまま彼はふわり、肩から掛けたユニフォームをなびかせて足をコートへと向ける。

「忍足たちも、早く戻った方がいいんじゃないかな?跡部がコートで切れてたから。」

それにさあ、と顔を青くした忍足。

若はそれにぺこりと頭を下げて、一度だけを見て、コートへと走り出した。


「ええ、と・・・」


一人残された

ちなみに差し入れはまだ残されたままで。


まあ、休憩のときとかでもいいか、そう思ってまたその場所からコートへと目を映す。


きらきらきらきら


コートで輝く少年たちは本当に生き生きとしていて、綺麗だ。


「、。」


目を向けていたコートから、ひとつ、に近づいてくる影。

おや、と思いながら見続ければそれは銀色で。


目の前に立って、名前を呼ばれて、見上げたその顔。


困ったような情けないような、そんな不思議な表情。


「話したいことがあるき。・・・終わったらまっちょってくれるかのう・・・?」


いつもの自信満々な彼はどこにもいなくて、さりげなく視線がそらされて。


そんな始めてみる姿が、嬉しい。


一つ、頷けば、ほっとした顔をして、そのまま持ってきていた差し入れはさりげなく仁王に持っていかれて、があんなにも四苦八苦しながら持ってきたあの重い荷物も、彼の手にかかればまるでとても軽いかのよう。



銀色の髪が、ぴよぴよと跳ねる。

それに、どうしようもなく、呼吸が苦しくなって。



同時に自分の不可解な感情が、少し、怖かった。



















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