ドリーム小説
恋というには幼いそれは 11
「すごい、本当に、ずるい」
黄色のボールを追っかけて、縦横無尽に走り回るその姿。
皆輝いて見えて、でも、その中でもひときわ眩しいのは銀色で。
試合が終わって、その興奮でふわふわしていて。
コートの中で握手するテニス部の人たちを見ていれば、少しだけ、羨ましいなあとか言う感情が湧き上がって。
ほお、と浮かれたように眺めていれば、ばちり、目が合う。
「」
近くまで来た若が名前を呼んで、手招きをする。
呼ばれるまま近寄れば、くしゃり、また頭を撫でられて。
「わか」
さらりさらり、風に揺れて、その髪が揺れる。
「どうだった?」
「かっこよかったよ。」
笑って答える。
それに少しだけ目元を緩めて若は笑う。
「あーーー!!日吉、お前またっ!!!」
朝も聞いたような声が辺りに響く。
が声の発信地を見る前に、ひょい、と体が宙に浮く。
「っ、日吉お前っ!!」
見れば若がを抱えあげていて、切原がなぜか若に怒鳴っている。
どうやら、朝のように切原がに触ろうとしたのを若が宙に浮かせることで阻止したようで。
「日吉、何してんだ?」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ切原の声に引き寄せられるように近寄ってくる幾つもの影。
それは立海のものもあれば氷帝のものもあって。
赤い髪が眼鏡の後ろからひょいと顔を出して問う。
「あれ?お前どっかで見たこと・・・?」
そしてをみて微かに悩むような表情。
「あほう。さんやん。中学同じやったやろう?」
ぺしり、忍足が赤い髪を叩く。
「何やってんだよ。」
その後ろから今度は青い帽子と背の高い銀髪がやってくる。
「わ、日吉!女の子をそんな風に扱っちゃ駄目だよ!」
背の高い銀髪が慌てたように若に声をかける。
「〜〜〜っ、俺の話を聞けえっ!!」
見事なまでに切原を無視して進んでいく会話にしびれを切らしたのであろう。
切原が叫んだ。
暴れ出そうとする切原を慌てて走ってきたスキンヘッドが止める。
「」
どうしようかと若の腕の中、悩んでいたの耳に届く、声。
じわりじわり
それはの中に響く。
「。こっち、きんしゃい。」
声の方を見れば、まっすぐにだけに向けられる視線。
熱いそれがじわりに沁み込む。
「」
再び、促すように呼ばれれば、体が勝手に、動こうとして。
「。」
引き止めるような若の声。
幼馴染のそれは、でも、を引き止める要素にはなりえなくて。
自分の体に回っていた手をそっと解く。
「」
名を呼ばれ、手を差し出され、それにあらがうすべなど、は持たない。
「こっち来んしゃい」
まっすぐにその鋭い瞳に見つめられれば動かずに入られなくて。
「何かあったらすぐにいえよ。」
若がふわり、の髪をなでる。
そっとはなされた手が、どことなく寂しげで。
「わか、」
「」
思わず名を呼ぼうとしたを仁王が止めて。
のばされた仁王の手が、を掴む。
ぐ、と引き寄せられて、温もりに包まれる。
ほわり、浮かぶ安心、
速まる鼓動。
ぎゅうぎゅうと痛みを訴える胸。
「いくぜよ。」
ぐっと一度強く抱きしめられたと思ったらそのままぐいと引っ張られて足が動き出す。
さらり、若の鋭い目が仁王とかちあう。
「泣かせたら許しませんから。」
すれ違う際に小さくつぶやかれた若の言葉。
の耳には届かなかったそれ。
が何をいわれたのかと若をみようとする前に仁王によって足は進まされていて。
「泣かせんよ。」
「仁王君?」
再び上からつぶやかれた小さな言葉。
聞き返したにちらりと目を向けた仁王はそのまま何もいわずに学校を出た。
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