ドリーム小説
「ねえ、彼女。暇なんでしょ?よかったら俺たちと一緒に回らない?」
「いえ、人を待ってますから・・・」
柔らかな日差しが差し込む穏やかな日。
それを遮るのはそんな声。
「そんなこと言わないで。さっきからずっと一人じゃん?」
ずっと見てるとか。あんたたち、暇人か?
「大丈夫大丈夫そこらへんのお店、一緒に回るだけだしさ。」
何がいったいどう大丈夫なのか、わかりやすく5文字くらいで教えてくれ。
「そうそう。待ち合わせの相手が来るまででいいからさ。」
「いえ、困りますっ・・・!」
そんな短時間でいいなら、自分たちだけで回ればいいだろうが。
えらく他人事だと思われるかもしれないが、実際すごく他人事だ。
なぜならばそれは自分の身に降りかかっているわけではなく、目の前で繰り広げられているからだ。
絡まれている女性はふわりとした亜麻色の髪をゆらして必死に抵抗している。
大きな眼も、可愛らしい声も、ふわふわしたスカートも。
それらはどれも男を誘発する材料にしかならない。
女である自分から見ても、可愛らしいと思うのだから。
絡んでいる男たちはいかにも、な風貌。
周りの人々はちらちらと見ながらも我が身の可愛さから助ける気配は見られず。
そして周りを見渡すと同時に待ち合わせの相手を探したがまだまだ姿が見られる様子はなくて。
自由奔放な彼のことだ。
今日のことも忘れている可能性は無きにしも非ず。
まあ暇つぶしの道具は色々持ってきているから別にかまわないけれど。
「っ、本当に、やめてくださっいっ!」
少しばかり思考を飛ばしていればますます泣きそうな声が響いた。
そちらをみれば、ぐいぐいと手を引っ張られていく彼女。
うん。これはさすがに。
かぶっていた帽子をぐっと深くかぶりこんで一歩足を踏み出す。
引っ張られていきそうになるその彼女をつかむ腕をつかむ。
「っ、」
「ああ?!なんだ手前は!」
怯えた視線を向けてきた彼女に柔らかく微笑んで。
さりげなく男から彼女を隠すように立つ。
「お兄さんたち。そんなに強くつかんだら彼女の手、赤くなっちゃう。」
ゆっくりとその手を辿って男を見上げる。
にっこり、笑って見せればその表情がいらりとしたのがわかった。
ぐっ、と力を込めてみるけれど、さすがに男女の差があるからだろう。
残念ながらその男は微かに眉をひそめただけでその手を離してはくれなかった。
「なんだおまえ、小せえうえに弱いのかよ。そんなんでしゃしゃり出てくんじゃねえよ!」
うーん。どうしたものか。
後ろの彼女は震えながら服を握っているし、目の前の男は私の胸倉をつかみ上げてメンチきってくるし。
困ったなあ。
「何してんね。」
ざわざわと事の成り行きを見守っていた周りから助けの手が来ることはないと思っていたのに。
響いたのは低い声。
いつもはほわりと穏やかな声のそれは、今はどことなく怒りにも似た何かが含まれていて。
「ああ?!」
目の前の男は私の胸倉をつかんだまんまでその声の方向に目を向けて・・・そしてぎょっとしてた。
その原因がわかっているから私はそちらを見ることはなく。
「そろそろ、放してほしいかな?」
ちょっと苦しくなってきたため掴まれている手をぱしぱしと叩く。
「わ、」
それが勘に触ったのか、掴まれていた手が持ち上げられる。
残念ながらそんなに背があるわけではないので持ち上げられればそのまま足が地面から離れて。
あ、これはまじで苦しい。
その動作のせいで彼女から手が離れたことにホッとしながらもさてここからどうしようかと思案する。
と、
「何してんね、聞いちょるんに聞こえんかったかんね?」
手が、横から伸ばされて、目の前で男の腕がひねりあげられるのが見えた。
「っ」
痛みで顔をしかめた男。
だが、横からのその手は放す気配を見せなくて。
「俺ん女になにしちょるん?だぎゃん覚悟できとるんちゅうね」
ぎしり、何かがきしむ音。
「ちょ、ストップストップ。腕折るのは駄目だよ。」
慌ててその手をつかめば、ようやっとその腕が外されて。
だらしなく地面に落ちた男は仲間を連れて慌てて走っていく。
その後ろを見送っていれば、くい、と引かれた服。
振り向けば、先ほど後ろにかばっていた彼女がいて。
「あ、の、ありがとう、ございます・・・!」
先ほどまで泣きそうだったその瞳は、未だに潤んでいれど、少しだけ笑顔が見えて。
・・・だがしかし、その視線はなぜか私の横に。
かなり上の方に向かっている。
いや、まあ、理解はできるけど、助けだしたのは一応私なんだけどなあ。
「あ、の、よければお礼などしたいんですけど・・・?」
おいおい、先ほどまでの嫌がりはどこに行った?
待ち合わせ相手は?
顔を真っ赤にしながらつぶやく彼女。
くそう、可愛い。
「俺んちごうてこっちにやっけ?」
なんだかもう、私は圏外のようだ。
視線は横に釘付けだ。
・・・ちょっとさみしい。
「えと、お二人共に・・・」
控え目に、それでも主張を止める気配は見せない。
ちらり、見た腕時計の針はすでに2時半をさしている。
今日の待ち合わせは1時だったから、まあ、いつもよりは早い方だなあ。
そんな風に現実逃避をしていれば響いた声。
「っ、なら、携帯のアドレスとか、教えてもらえませんかっ!!」
おやおや、助けただけで携帯アドレスとは・・・、普通か。
うん、どうやら私は隣のこいつが絡むとすこしばかり心が狭くなるようだ。
まるっと私の存在が見えていないであろう彼女を見て小さくため息をついた。
と、
「すまんばいね。俺んアドレス教えてもよか。ばってん」
隣からの声はそこで途絶えて、同時にぐいと、引っ張られた腕。
同時に背中に走る温もり。
引き寄せられた動作で帽子がパタリ、地面に落ちる。
耳元で響いた低い低い、声。
「大事なこん子が嫉妬しよるばってん」
帽子の中に入れていた髪が、ふわり、肩に落ちる。
目の前で目を見開く彼女にあははと苦笑い。
「千歳、離してほしいかな。」
ぺしぺし、腕をたたく。
見上げるけれど、残念ながら高い背のせいでその顔に出会えない。
くつくつと頭の上からの声。
それにも一つため息。
「怪我はない?」
離れる様子がないのでしかたなし彼女に声をかければこくこくと顔を真っ赤にしながらも頷く姿。
「なら、よかった。」
ふわり、笑って見せる。
「・・・。そん笑顔、俺以外にみせんでねいうたに・・」
少しすねたような声を放ったまま、ほら行きな、彼女に手を振る。
ぺこりと頭を下げて慌てたように走っていく彼女。
後ろから離れる気配を見せない大事な大事な彼に少しだけ笑みを漏らして。
「千歳、おはよう。今日はいつもより早いから、ゆっくり遊べるな。」
その回る温もりに心の底から安心しながら、ゆるり、その手を握る。
「な、千歳。」
そっとその腕から抜け出して、下から覗き込む。
「・・・まったく、ほんにはむぞらしかねえ。」
すれば、今度は目の前から抱きしめられて。
「デート、するちね。」
ふわり、陽だまりみたいなぬくもりが離れて、手が、握られる。
にっこり、とてもとても楽しそうなその表情に、同じように笑い返して、むぞらしか、と呟かれるそれを赤い顔で受け取った。
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