ドリーム小説




















「腹減ったああああ!!!」



ここは四天宝寺中学最寄駅。

さてさて本日は彼氏、である千里の所属するテニス部で練習試合があるらしい。

と、いうことでぜひとも見に来てくれと、にこにこしながらお願いされて、今私はここにいる。

そして、目の前で赤い髪のおかっぱがぴょんぴょん跳ねながら青い髪の眼鏡にだだをこねている様子、に道をふさがれている状態だ。


「・・・」

「なあなあ、ゆーし!腹減った!!」

「そないなこと言うたかて、今は我慢しい。」

ギャーギャーごねるおかっぱに対し、眼鏡はえらく冷たくて。

「岳人。俺跡部達見てくるさかい、ここでおとなしいしとき。」

それどころか赤いおかっぱ一人をそのままに、どこかに歩き出した。

「ゆーしのばーか!!」

むすり、表情をすねたものに変えたおかっぱがふらり、視線をさまよわせて、あろうことか私と合致した。


「・・・」

「・・・」


びしり

完璧にかちあった視線。

お互いに外すこともできず、しばし流れる無言の沈黙。

「・・・あ」

そういえば、そう思いごそごそとポケットを探る。

手に当たるころころとしたいくつかの包み紙。

それを取り出して確認すれば、飴玉が五つ。

声をあげたこちらに怪訝そうな表情をしたおかっぱに、ひょい、とそれらの飴玉をなげてやる。

「うお!?」

慌てながらもそれを一つも落とすことなくキャッチしたのを見届けて、ちらり、腕時計の時間に目をやって、思っていたよりも時間を食っていたことに驚き慌てて動き出す。

「え、あ、ちょ、」


後ろから聞こえた謎の声をそのままに、学校に向かって走り出した。














「だからバスで行くぞ、って言ったんだ。」

「まあまあ、ええやんか、たまにはな?」

「お前らうるせえよ。」

「あれ、向日先輩、どうしたんですか?」

「・・・すげえ、今のやつ、格好いい・・・!」

「あれ?岳人。その飴どないしたんや?」


だから、そんな会話が後ろでなされていたとか、私は全く知らなかった。
















「・・・千里いないとか」


なぜか正門に立っていた忍足をスル―して、慌ててテニスコートに向かう。

が、予想はしていたが、そこに千里の姿は見えず。

「・・・ちゃん、なんでおるん?」

変わりに私の姿を見つけて近づいてきたのは光。

帽子を深くかぶって、髪の毛を中に入れていて、


いつもよりもずっと、誰だかわからない格好をしているにもかかわらず、簡単に光は私を判断する。

先ほどまで向けられていた、誰だこいつ、の視線にもめげずぼおっと、その場所で突っ立っていたにもかかわらず、だ。


「あれ?さん、やったん?!」

光の声に反応して、白石が驚いたようにすっとんできた。


「部長、気がつかんかったんですか?」

光がなんてことないように告げるそれに近くまでやってきた白石がまじまじと覗き込んでくる。


「本間やなあ、ようみたらさんやわ。」

「・・・部長、見すぎっすわ。」

しげしげと私を見てくる白石、との間になぜか光が割り込む。


「ええと、千里は?」


姿が見えない千里の行方を問えば、苦笑いを返される。


「またふらふらどっかいかはりましたわ。」

光があっさり、そう答えて。

想像したのと寸分たがわぬそれに、こちらも苦笑いだ。

さん、悪いんやけど、千歳探してきてくれへん?」

「し〜ら〜い〜し〜!!」

本当に仕方がなさそうに言葉を発する白石、を呼ぶ声が辺りに響く。

「・・・なんや金ちゃん。」

「おなかすいたあああ!!」

なんか、デジャブ。

その声とともにちいさい赤色が白石に向かって突撃してきた。

「しいら〜い〜し〜!!」

白石に飛びついたそれは遠慮なく全力で空腹を訴える。

と、ぴたり、こちらに向かった視線が不思議そうに傾く。

「誰や?姉ちゃん。」

おお、一発で女の子だと見抜かれた。

別に隠しているわけでもないのだが、結構こういう格好しているときは男に間違えられるからちょっと嬉しい。

ごそごそと先ほど駅で探ったポケットとは逆を探る。


「あ、」


小さく上げた声に、赤髪がこちらを見てきて。

「飴やけど、はい。」

出したそれを小さなその手にころんと乗せてやる。

きょとりとした赤髪はすぐににぱり、とても嬉しそうに笑った。

「おおきに!姉ちゃん!」

うん、可愛い。


ほのぼのと癒されていると、正門の方からがやがやとしたにぎやかな声が近づいてきた。



「お、来よったみたいやな。」

白石が金ちゃんと呼んだ赤髪の子の頭をなでながら正門の方を見る。

同じようにそちらに視線を向けた光に続いてそちらを見ればがやがやと近づいてくる水色の集団。

なんか、みたことあるような気がする。

ちなみに先頭には忍足がいる。

どうやら彼は彼らを待っていたようで。

「白石!」

楽しそうに青髪の眼鏡と会話をしていた忍足はこちらに気がついて大きく手を振った。

「・・・あ!」

それと同時に向こうの水色の視線がこちらに向けられて、そうして、その中の一人、赤いおかっぱが大きく声をあげた。

それにぎょっとしたのは向こうの水色。

「なんや岳人、いきなり大声出して。」

「向日先輩、うるさいです。」

大声をあげた彼に丸眼鏡が声をかけ、それにうっとうしそうに茶髪のきのこヘアが言葉を投げる。



「ゆーしゆーし!!あれあれ、あいつが俺に飴くれた!」

人を指差してはいけないと、習わなかったのだろうか。

ぴっちりとこちらに向けられた人差し指は間違うことなく私に向けられている。


「・・・なんや、氷帝と知り合いなん?さん。」

不思議そうに白石が問いかけてくる。

氷帝。

聞き慣れないそれではあるが、この状況から見たらおそらく彼らのことを指しているのだろう。

「いや、まったく。たださっきおなかがすいてると駄々をこねていた赤いおかっぱに飴玉をあげたくらい。」

そう答えればからからと楽しそうに白石が笑う。

「え?!お前か!?」

白石との会話を聞いていた忍足が驚いたように私の名前を呼ぶ。

まあ、気がつかないとそんなものだよね。

「おはよう、忍足」

あっさり、挨拶を返せば、これまたあっさりとおはようと返される。


「お前、さっきはありがとうな!」

いつの間にかすぐ目の前まで来ていたおかっぱが私の手を握ってぶんぶんと上下に振る。

「いや、どういたしまして。」

それにそう返してやればにぱにぱと可愛らしい笑顔が返された。

「本間、勘忍な。」

まるで保護者のように丸眼鏡が近くまでやってきて声をかけてくる。

「俺は忍足侑士や。こっちは向日岳人。よろしゅうな。」

偶然なのか、何なのか、その名前。

まあいいかとこちらもよろしくと返す。

「・・・名前は、教えてくれへんのかいな、・・・お嬢ちゃん。」

特に必要性を感じなかったので、そのように挨拶だけ返せば怪訝そうに、楽しそうに小さな声で問われて。

少々驚く。

先ほども言った通り、あまりすぐに女だとわかってもらえないことが多いからだ。

。」

まあ、隠す必要性も感じないからあっさりそう返せば、えらく楽しそうな表情。

「そうか、ちゃん、いうんか。改めてよろしゅう。」

く、と至近距離に近づかれて少々驚く、が、それより先に、くい、と首元を引っ張られて。


「なんばしよっと?」


せなかにあたるぬくもりが、その香が、その声の持ち主を明確に示唆する。

「まったく、本間に無防備すぎますわ。」

小さく横から聞こえた光の声。

微かに息が上がってるそれは、どうやら後ろの彼を探しに行ってくれていたようで。


「千歳やないか。久しぶりやなあ。」


にこにことした表情を崩さない忍足(氷帝)にこれまたにぱりとした笑みを返す。

と、

「うわわ、」

ぐい、と突然腹辺りに温もり、後、浮上感。

驚いて、近くにあったもの、結果的には千里の頭だったのだが。


は俺の女ばい。手、だすんは許さんとよ。」


下から響く声に、かあ、と顔が赤くなるのを自分で感じる。


「なんや、それは残念。」


くつくつとこれまた楽しそうな忍足(氷帝)の声にそちらを見れば、ぽかん、と驚いた表情をする水色ユニフォームの皆さん。

「え?女だったのか?」

赤色おかっぱのその反応は実に正しい。

ちなみに、白石は苦笑して、光は苦々しげにこちらを見てた。


、挨拶。」

高い場所。

皆を見下ろしながら促されたから、大人しく帽子を外して、もう一度辺りを見渡した。


「ええと、始めまして?、だ。」

にこにこにこにこ、下からのプレッシャー。

彼が言いたいことは理解しているが、いかんせん恥ずかしい。

だが、言わなければこの状況は元にならないのも理解しているわけで


「・・・千歳、千里の、彼、女、やらして、っもらってますっ」


ぶわあ、と赤くなってるであろう顔を、いつもより近い千里の髪で隠して。


言葉を紡ぐ。


めちゃくちゃ、機嫌のいい千里のあやすような手を感じながら体中に溢れる羞恥に必死で耐えた。



































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