ドリーム小説
ご
「ちゃん?」
久しぶりに聞いた声は、じいんと胸の奥深くを擽る。
ゆるり、向けた視線の先、やわりと微笑むその姿に、涙が出そうなくらい嬉しくなった。
いつもはお弁当を作るようにしているが、今日は寝坊をしてしまって向かった学食。
高校の敷地内にあるが、大学生も使用することができるそこ。
友人と共に、何にするかと迷っていればふわり、感じたにおい。
佐助兄さんの香水とよく似ているそれに、ぎゅう、と胸が痛くなるのを無視して、メニューを選ぶ。
そうして選んだご飯をもって席を探して入れば、ふいに呼ばれた名前。
柔らかなその笑顔は、ほんの少し見なかっただけで、さらにかっこよく見えた。
「久しぶり、ごめんね?最近行けなくて。ちゃんとご飯は食べてる?」
「うん、久しぶり。ちゃんと食べてるよ。」
久しぶりの会話。
内容はどうであれ、気にかけてもらえていることが嬉しかった。
「佐助、ご友人か?」
佐助兄さんだけを見ていたからか、そのそばにいる他の人たちに気がつけなくて。
「ん、ほら、いつも話してるでしょ?隣の家の子。可愛いでしょ?」
私から外された視線。
楽しそうに言葉を紡ぐその唇。
何気なく放たれたその言葉が、ぎゅうとさらに心臓の痛みを増す原因となって。
隣の家の子。
その言い方に何ら問題はない。
あっている。
何も私が言うことなどない。
でも、胸は痛い。
隣の赤い人に向けられる視線は一度も私が見たことないもの。
あったかくて、信頼に満ちていて。
「なんだ?お前。」
後ろから突如かけられた声。
振り向けば蒼い人。
それだけでなく、ぞくぞくと彼に続くように現れる新たな人たち。
「おそいよ伊達の旦那。もう食べ出してるよ〜。小太郎も。」
威圧感たっぷりのその目に見つめられて、思わず後ずさった。
私の前にそっと立ってくれた佐助兄さんが、その人の視線から遮ってくれて。
ほっと、した。
「この子は俺様のお隣の子。可愛いからって、手出さないでよね。」
そっと、佐助兄さんの服の裾をつかむ。
それだけの動作で、安心する。
それだけのことで、幸せになる。
ふにゃ、と緩む自分の顔を自覚しながら目をあげれば、じいっと周りから集まる視線視線視線。
「っ、」
びっくりして慌てて佐助兄さんの後ろに隠れれば、くつりくつり笑う蒼い人。
赤い人は楽しげにほおを緩ませていて。
もう一人、蒼い人の後ろにいた赤褐色の髪色の人はふわり、微かに笑った。
「確かにこれは、可愛いな。」
「まるで兎みたいだな。」
周りから言われる言葉は賛辞なのか何なのか。
理解できずに佐助兄さんを見上げれば、こちらはこちらで幸せそうに笑っていた。
あまり見ないその表情に赤くなりそうな顔。
慌てて視線をさまよわせれば、ぴたり、一つのところに吸いつけられる。
佐助兄さんの視線の先に。
とある一人の女の人を見て。
「猿飛、お前教授に頼まれていたのを忘れているだろう。」
金色色に輝く髪。
そのスタイル抜群の体は周り中の視線を集め。
けれどもその人はそれらの視線をものともせず、長い脚を歩ませる。
「ごめんごめん、かすがちゃん。代わりにやってくれたの?」
「課題一回分で手を打とう。」
入って行けない会話に、明らかに今までとは違う佐助兄さんの姿に
地面が崩れるような感覚に陥った。
いままでの距離が、ずっととおくにかんじたのです
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