ドリーム小説
ろく
「今日の晩御飯はグラタンにしたんだけどよかった?」
久しぶりに佐助兄さんが私の家に来た。
手っ取り早くご飯を作ってくれて、気がつけばもう目の前には色とりどりの料理が並んでいた。
「高校はどんな感じ?」
目の前に座って、近況報告を聞きたがる佐助兄さん。
それはまるで妹に構う兄の姿で。
「楽しいよ。授業は難しいけど、やりがいはある。」
ずくんずくんと痛みを訴える心臓。
日常茶飯事になったその痛みを、笑ってやり過ごす。
「・・・そっか、ならよかった。」
一瞬眉をひそめて、だけどすぐにその表情はいつものものに変わった。
「先生が個性的で面白い。」
見なかったふりをしてくれるのだから、それを貫き通そう。
口の中でじわり味が染みわたる料理を食べながら言葉をはっせれば、ちょっと考えた後に佐助兄さんは口を開いて。
「日本史の先生って、もしかして武田先生?」
「ん。赤い人。確かそんな名前だった気がする。」
「・・・授業中騒がしくない?」
「たまに赤い人が乱入して、・・・あ、うん。この間食堂であったひと。その人が来る。」
いつもは頼りがいがあるおじいちゃん先生みたいなんだけど、赤い人が乱入してきたらなんか、こう、めんどくさい人になる気がする。
もごもごと口の中の美味しさをかみしめていれば、ふと感じた視線。
そっとそちらに目をやれば柔らかく、とろけそうな笑みが、そこにはあって。
どくんどくん
今までの中で最大級の痛さかもしれない。
ぎゅう、と締め付けられる胸。
その痛みで涙が出そうになる。
でも、そんなことをしたら佐助兄さんは困ったように私を慰めるのでしょう?
なんにもわかってないくせに。
なんだか佐助兄さんの前で、これ以上子供っぽいところを見せるのが嫌で嫌で。
うつむいて、ご飯に集中するように視線を外す。
未だに突き刺さる柔らかな視線をシャットダウンするように。
やめてやめてやめて、勘違い、しそうになってしまうでしょう?
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