ドリーム小説
はち
こたせんぱい。
それがあの赤褐色の髪を持った先輩の名前でした。
まるで、子供みたいに大声で、こたせんぱいの腕に縋って泣いた。
それが恥ずかしくて、恥ずかしくて。
ろくにおれいもいえないまま、一週間が終わって。
今日は、日曜日。
あの日から、佐助兄さんは相変わらず私の家には来てくれなくて。
忙しくってさ、って困ったように笑うの。
もう、胸の痛みが通常装備みたいになってきた。
いたい。
佐助兄さんに用事があるわけじゃなくて、こたせんぱいが、兄さんの家に遊びに来てるって、そう聞いたから。
あの日のお礼、したいなと思って。
そう自分に言い訳しながら、勝手知ったる隣の家、曰く佐助兄さんの家にお邪魔する。
ベルをならしたかったのだが、なぜか破壊されていたのだ。
そういえば、朝
「ちょ、旦那っ!?それベル、ただの呼び鈴だから!!」
「おお、これがか!俺の家と形が違うのだな!ためしに押してもいいだろうか!?」
「いや、ま、旦那あああ!!あんった、自分の馬鹿時からを理解してっ、ああ、呼び鈴が・・・」
なんて声が聞こえてきてはいたが、まさか本当に壊されているとは・・・
旦那って、どの人のことなんだろう。
そんなことを思いながら、入った佐助兄さんの家。
階段を上がって一番奥のつき当たりの部屋。
そこが佐助兄さんの部屋。
ドアの前で深呼吸。
こたせんぱいに、お礼にって作ってきたお菓子をぎゅっと、抱えて。
あの日ぶりの佐助兄さんの顔を見て、動揺しないように。
一度眼を閉じて、開けて。
手を伸ばしてドアをたたく、一歩手前。
衝撃と共に目の前のドアは開かれて。
額に感じた鈍い痛み。
耐えきれずしゃがみこめば、慌てたような声。
「sory!大丈夫か!?」
じんじんする額を抑えながら見上げれば蒼い人。
片目を眼帯で隠したそのひとは、会うのは二回目でも威圧感がすごくて。
じわり、痛み以上のものがにじむ。
「ちょ、旦那!うちのちゃんに何してくれんの!?」
部屋の中から慌てて出てくる橙色。
そっと傍にしゃがみこんで私の顔を心配そうにのぞいてきて。
「大丈夫?どこうったの?」
額に優しく手のひらが当てられる。
ゆっくりと痛みを緩和させるように撫でられて。
その手に、あったかさに、やっぱり、安心して。
「佐助、にいさん・・・」
ポロリこぼれた声。
はっとして口元を押さえても時すでに遅し。
目の前の彼の気配は一気に氷点下。
私を見る瞳はひどく冷めていて。
はあ、とこぼされる大きなため息。
「やっぱり、ちゃんにとって俺はただのお隣のお兄さんなんだね。」
今何て言ったの?
そう聞き返す前に、彼は立ち上がっていて。
上から見下ろされるその感覚は怖くて。
目が、ちっとも笑ってないのに、顔だけ笑みを形づくっている。
「なんかようだったの?ちゃん。」
笑ってない目で問われる。
「、あ、こた、先輩に、この間お世話、なって、」
始めて向けられたその視線が、痛くて。
怖くて。
しどろもどろで答えれば、さらに、冷たい瞳を向けられて。
「こた、先輩、ね。」
まって、そう発する前に、兄さんは部屋の中に戻っていて。
「小太郎。用事があるんだってさ。」
きょとりとした彼が出てきても、佐助兄さんはもう出て来てくれなくて。
「これ、あの時お世話になりました。」
どうしたの、そういいながら首をかしげるこた先輩に泣きそうになりながら渡す。
そうすれば、へちょり、先輩の眉が下がって。
ぽんぽん、って優しく頭をなでられる。
あったかいそれに、少しだけ勇気をもらって。
きっと、佐助兄さんには今の私は必要ないんだろう。
兄さんってよばれるのを嫌がるってことは、この関係が嫌なんだろう。
つまりそれは___
あの人に誤解されたくないからでしょう?
「佐助、兄さん。」
久しぶりに、再びよんだその名前。
なに。そう言って向けられる視線はひどく冷たい。
「あの、ね。最近忙しいでしょ?私、一人で大丈夫、だから。」
ぎゅう、と俯きそうになる視線を必死で兄さんに向けて。
「もう、私のこと、せわしなくても大丈夫だから。」
それだけ告げて、笑う。
ごめんなさい
もう嫌だから
だから自分から逃げました。
あなたから逃げ出しました。
だって、もうこんな痛み、耐えられないから。
佐助兄さんの家から飛び出て。自分の家に向かう。
でも、それはふわりあったかい何かに包まれて。
見上げれば赤褐色。
その持ち主であるこた先輩は、私なんかよりよっぽど泣きそうに見えて。
「ごめんなさい、こた先輩。」
ぽろりぽろり
「ま、たっ、先輩に、」
溢れるそれらを
「ごめ、な、さっ、」
忘れるから、忘れてしまうから。
「っうえぇ、」
だから、どうか
「うわあああん」
今だけ泣かせてください
この涙がとまることには、きっとあなたへのおもいもきえてるはずだから
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