ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
戻ったマンタイクはこれまた様子がおかしかった。
外にでている住民たち。
彼らを馬車に放り込むのは少々派手な騎士の制服を纏った男で。
ユーリさんがカロル君に何かを言ったかと思えば、彼は簡単に馬車の車輪を壊して帰ってきた。
うわぁ、将来有望だねぇ・・・・・・
夜、宿屋にて一泊し、明日の朝出発することが決まった。
いつものように、配達ギルドにて部屋を借りて。
そうすれば、また新しい仕事が回ってきたりもするわけで。
頼まれた中の一つ、配達してほしいと頼まれた は、丁度生息地が砂漠だ。
今のうちに調達してしまおう。
すっぽりとマントをかぶって、携帯結界魔導器と温度調節君を身につけて、そうして向かうのは夜の砂漠。
外にでれば昼間とは違うひやっこさが体に伝わってくる。
けれどそれは温度調節君のおかげですぐに適温に変わった。
薄暗い道を、光照魔導器を使い照らしながら進む。
と、耳が誰かの話し声を、拾った。
なんだろう、デジャヴュ。
ゆっくりと近づいていった先、そこにあったのは派手な騎士とそれを見下ろすユーリさんの姿。
あああああやっぱりそういうことかー
また見ちゃった・・・・・・
どうしようか、と動きを止めていれば、誰かが横に立った気配。
そっとそちらを見れば、金色の騎士の姿。
「__今の、見たかい?」
質問をしているが、その声色はまったく質問ではない。
「見ちゃいましたねぇ」
うそをついても何にもならないだろう。
正直に話す。
そうすれば、ユーリさんの方角を見ていた金色がゆっくりと私を見下ろしてきて。
__というかこの騎士、いつのまにこの町にきたんだろうね
「悪人は、法によって裁かれるべきだ」
言い放たれた言葉は正論。
それでも、その正論は今、ユーリさんをそしてこの金色の騎士を傷つける刃でしかない。
「人が人を裁くなんて間違っている」
「それでも、法を作ったのは人なんですよねぇ」
間違ってはいない。
人が人を裁くことが許されないからこそ、法があるのだから
「法は確かに悪人のためにある__でも、それは、決して市民のためにはない」
「__少しでいい、待ってくれれば__」
この人の言いたいことも、十分わかる。
上に行って、この世界を変えようとするその意志は立派なものだろう。
それでも、今を生きる人たちにとって、未来は今じゃない。
「じゃあ、少しって、どれくらいですか?数時間?1日?1ヶ月?それとも__1年?」
金色の騎士が言葉を噤んだ。
「恐ろしい思いを、怖い思いを、苦しい思いをしてるひとの少しって、永遠に思える時間なんですよ」
だからこそ、だからこそ思うのだ
「今を生きている彼らにとっての悪を裁いてくれない法に、どうしてあの人が裁かれなきゃいけないの?」
視界が、暗くなった。
同時に瞼に感じた微かな温もり。
「__ユーリ」
金色の声のおかげで私の視界を塞いだのがユーリさんだとわかった。
名前を呼ばれたユーリさんは何も言わない。
「あとで、話しがある」
ユーリさんは金色のその言葉に小さく同意を返しただけだった。
目の前が開けた。
そのかわりとばかりに温もりは手のひらに移動していて。
ぐいぐいと引っ張りながらユーリさんが向かうのは宿屋の方向だ。
「あ、ユーリさん、ストップストップ!私ちょっと用事あるんでこれから砂漠にいくんですよ!」
私の言葉にぴたりと足を止めた彼は、ゆっくりとこちらに向き直ってつぶやいた。
「だからこんな時間に外にいたのか」
そうなんですよねぇ、だから離してください、そう言いながら手をふりほどこうとしたのに、なぜかそれは許されず。
代わりとばかりに改めて手を強く握られて、そのままぐいぐいと砂漠の方向へ。
「ユーリさーん?」
「それ、やめろ」
「ん??」
どうしようかと名前を呼べば、脈絡のない言葉。
何のことかと先を促せば、ため息。
「ユーリでいい。ずっと敬称つけられてんの気持ちわりいんだ」
なるほど、呼び方か・・・・・・了解、でも今言うことだったか?
「ユーリ」
呼び直せば、満足そうにうなずかれた。
「で、用事は?」
「あ、とある薬草の採取です。夜にしか採取できないものなんですよねぇ」
成り行き上、手をつながれたまま砂漠にでた。
マントも何も羽織っていないユーリは寒くないのだろうか。
「一人で行くつもりだったのか?」
「まあ私のお仕事なんで」
じとりとした目をむけられたけれど、意味が分からずへらりと笑い返すだけだ。
「・・・・・・俺たちを頼ってもかまわねえんだぞ?」
「いやぁ、人様の力を借りるほど困ってないですよぅ」
大きなため息。
ため息つくと幸せ逃げるんですよ〜・・・・・・この世界ではあまりそうは言わないらしいですけど。
「__捜し物が見つからない、って泣く位なのにか??」
「やだなぁ、恥ずかしいんで泣いてたことはもう言わないでくださいねぇ」
人前で泣くのってやっぱり照れるんで!
目的のものを採取している間、ユーリは魔物を警戒していてくれる。
頼もしい。
「__さっきの、見てたんだな」
「また見ちゃってましたねぇ」
こちらを見ないままでユーリは声を上げた。
私も採取に集中しながら答える。
「__何も言わねぇのか?」
「私はあなたの決断に口を出せるほど偉い立場じゃないんで、何も言いたくはないんですけど?」
ユーリが口を閉ざした。
これは、何か言葉がほしいのか。
まとまらないぐちゃぐちゃな頭を、混乱していく一方の思考を、整理するための。
「__法は、確かに人を守るためにあるんでしょうけど__その守るべき人に届くのにとてつもない時間がかかるんですよねぇ・・・・・・私は、今を変えるため、選んだユーリの選択を間違っているとは思わない」
ユーリの答えは、ない。
私も採取の手を止めずに続ける。
「生きにくい生き方をしてるよね、ユーリって」
器用なようで、とても不器用なこの人は。
「自分の選択を正当化しないまま、罪にさいなまれたまま、罰を受けるように生きていくなんて」
他人を守るためならば、自分が茨の道を突き進もうとかまわないのだと。
他人が傷つくくらいなら、自らが紅に染まり痛みを抱き続ければいいのだと。
「さっさと慣れてしまえばいいのに。痛いことにも、しんどいことにも。そうすれば、もっと世界は単純で生きやすくなるのに、ね」
予定数集まった薬草をかごに入れて、ゆっくりと立ち上がればこちらをまっすぐに見てくる夜明け前の瞳が見えた。
「__それは、お前の経験からか?」
にっこりと笑う。
「やだなぁ、私がそんな重たいものを背負っているように見えます〜?」
私の返事に、ユーリは瞳を揺らして、仕方がなさそうに笑った。
配達ギルドと罪を重ねる夜
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