ドリーム小説







配達ギルドのあれこれ 












ユニオンの中を、一つの目的地を目指して歩く。
何度もこの場所を訪れたことはあれど、今目指している部屋に行くのは__初めてだ。

目的の部屋の前。
息を吸って、吐いて。

ゆっくりと扉をたたく。
そうすれば、少しの間を空けて、扉は開かれた。

私がここにいることに怪訝そうな表情を繕うことのない彼は、やはり今回のことに大きな衝撃を受けているのだろう。

そんな彼に、私は、追い打ちをかけなければいけないのだ。


「毎度お世話になっております〜配達ギルド、黒猫の足です〜」

へらり、笑ってゆっくりと手紙を取り出す。

「__お嬢、これ俺宛じゃないかな」

宛名をさらりと眺めたあと、へらり、レイヴンさんはいつものように笑った。
だから、私も笑い返す。

「いいえ、間違っていないはずです__これはあなた宛ですよね」

ゆっくりと手紙を彼の手の中に押しやる。

「シュヴァーン・オルトレイン様?」

その言葉を言い終わるよりも早く、私の体は拘束されて、彼の部屋の中に引きずり込まれていた。
首もとに冷たい感覚。
彼が常に持っている短剣だろう。
目の前には感情のない瞳。
私にまたがり見下ろすその表情は、何の表情も浮かんでおらず。
まるで道ばたにある石に向けるかのような無関心さでこちらを見ていた。

__少し前に同じように彼の腕の中にいたときとはけた違いの冷たさだ。

そんな見当違いなことを思っていれば、ゆっくりと目の前の彼は口をひらいた。

「いつからだ」

常のお茶らけた雰囲気などどこにもなく、堅く鋭いそれ。
この人の本当はどっちなのだろうか。
そんなことを考えながら言葉を探す。

「__私お得意さまの一人がアレクセイさんなんですよねぇ」

時折私を呼び出しては、重要書類を渡されて。
届ける代わりに私はあの人から、一般市民では手に入らない情報をもらっていて。

「彼が、シュヴァーンを探して、届けろ、と」

はじめはわからなかった。
遠目に一度しか見たことのなかったシュヴァーンという人物に届けろと言われても。

けれど、いくら他人になっていたとしても、ふとした仕草や、動作。
変わらないものは、もちろんあるわけで。

もしかして、と思っていただけだった。
真実に近いところにいるだけだった。
それを確信に変えたのは__カドスの喉笛。


騎士に向けられた声色は以前聞いたシュヴァーンのものと一致して。


「ドン・ホワイトホースが命を落とした後、届けろ、と」

私に敵意がないことを理解したのだろう。
ゆっくりと彼は私から降りて。
代わりに渡されたばかりの手紙を躊躇なく破った。

さらり、目を通した彼の表情が、歪んでいく。
ぐしゃり、手紙を握りつぶすと、レイヴンは声を上げて笑い出して。
机に、イスに、壁に、体中をぶつけながら笑うその様は気が狂ったとしか言いようがなく。
それでも、その体に手を伸ばしたのは無意識だった。
体に触れるかと思われた手は、振り払われて。
代わりとばかりにその腕に捕まれた。
この間とは違い、痛いくらいに引き寄せられた胸の中は息苦しくて、接している面を通して、彼の笑い声が、慟哭が響く。
心臓のある場所、どくりどくりと響く心音は、どこか冷たく。
彼の生を否定するかのようで。


増していく腕の強さ。
比例して強い痛みを感じていく体。

なのに、離してほしい、ともいえなくて。



この人の痛みが、少しでも軽くなるなら、それでもいいかもしれない、だなんて。



あの世界に帰るためには必要ない感情が、浮かんだ。




「俺は死人だ。死人に意志はない」


どういう意味か、そんなことを聞けるほど、私はこの人の中には存在していない。


存在しては、いけない。









配達ギルドと届けた手紙















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