ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
「__ただいま、首領」
薄暗い陰気な町、アスピオ。
そこにほど近い森の中に、その家はあった。
鬱蒼とした茂みが原因となり、知っている人しかその場所にはたどり着けない、だけでなく。
許可された者しか入れないように設定された結界魔導器があるのだ。
ゆっくりと声をかけて中に入れば、柔らかに香る、焼きたてのパンと何かを煮込んでいるスープの匂い。
私の声に反応してゆっくりとこちらを振り向いた一人の男。
片目にはバングル。
漆黒の髪は、後ろで緩やかに束ねられていて。
「なんや、今回は遅かったな」
冷たさを醸し出す彼の瞳は私を映して微かにほころぶ。
我が配達ギルド”黒猫の足”の首領である彼は、滅多なことで表には出ることはない。
人間不信やら、気まぐれ、偏屈、いろんな事を言われているが、なんてことはなく。
__ただの外にでるのが面倒なものぐさ魔導器バカなだけである。
「頼んでたもん、もってきてくれたん?」
キャスターのついた動くイスをがらがらと動かして、私の前に来るとひょい、とその両手を差し出した。
ため息をつきながらその手に頼まれていたものをおけば、それはそれは楽しそうな表情を返されて。
「首領__ドン・ホワイトホースが、死にました」
私の言葉に、首領はうん、と軽くうなずいて。
へらり、笑った。
「__イエガー君からもう聞いてる」
イエガー君。
その名前はよく知っている。
というかむしろ、私は首領に頼まれて、イエガーさんへのお届け物を今もなおこの鞄に持ち続けているわけで__少し待った、この首領が、面倒なことをとりあえずやりたくない首領が、料理をするなんて事、あり得ないのだ。
つまり、この生活感あふれるこの料理の香りは__
「お久しぶりデスねー!配達ギルド!」
台所から楽しそうにお玉を持って登場するのは噂をしていたイエガーさん。
その胸元のウサギさん柄エプロンがいやに似合っている。
にこにこと満面の笑みを浮かべながら姿を現した彼は、もう片方の手に平たいお皿を持っていて。
「首領、デリシャスなランチでーす!」
首領の前に置かれたそれは、とてもおいしそうなにおいをたてるスープとパンだ。
うわ、おいしそう。
「イエガーさん、なんでここに?っていうか、うちの首領からのお手紙、届ける前に本人同士があってるって・・・・・・どうよ」
そうつぶやきながらも鞄の中に入れていたイエガーさん宛の郵便物を取り出した。
礼を言って受け取ったそれを差出人である首領の目の前であけて中身を確認する。
なかなかやるよなぁこの人。
そのまますっ、とペンを出すと、手紙の裏にさらさらと何か文字を書き出した。
「一つ、プリーズがあるんデース」
書き終えたそれを、ゆっくりと畳むと私に向けた差し出した。
受け取れば、読むように促されて。
そこにあったのは__
「__うちの二人の少女を、匿ってくれ」
”黒猫の足ギルドへの依頼
海凶の爪に所属する二人の少女を、当分の間匿ってほしい”
「ちょっと人質に取られそうな状態でね__方法はそちらに任せる」
そこにいたのは、いつものイエガーではなく、どこか焦った表情を浮かべる一人の保護者だった。
配達ギルドと”海凶の爪”
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