ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
「毎度お世話になっております〜配達ギルド、黒猫の足です〜ラゴウさーん、お届け物でーす!」
何故か倒れている門番。
中から聞こえてくるのはなんか、やかましい音。
それでも私は自分の仕事をまっとうするだけだ。
しかしながら、それはまさかの騎士に邪魔をされるとは思わなかった。
「きみ、ここで何を?」
突如後ろからかけられた声。
びっくりした。
飛び上がって振り向けば、そこにいたのは天気の悪いこの場所でもきらきらと輝く金色の髪。
穏やかな表情に、険悪な瞳。
ミスマッチなそれだけれど、如実に現されている警戒感は良いと思います。
こほん、と咳をして、のどの調子を整えて。
ゆるりと斜に構えながら右手は腰に結わえた鞄に、左手は胸元に。
軽くお辞儀をして、我がギルドの謳い文句を口にする。
「毎度おおきに、配達ギルド、黒猫の足です〜。ご用命とあれば、例え火の中水の中。ただし配達物の安全は保障しかねます〜燃えない紙、濡れない紙でどうぞ〜。天の上地の下、はたまた砂漠の中だって。運んで見せます。運ぶのは、荷物だけにあらず。信用も一緒にお届けします〜どうぞ配達ギルド黒猫の足をご贔屓に〜」
めざせボーナスアップ。
一通り口にして満足したので騎士の言葉を待つ。
長台詞に驚いたようだっけれど、それはすぐさま取り繕われて。
「ここは今から危険だ。すぐに離れることを推進する」
「危険だと言われたら逃げたいのは山々なんですが、残念なことに、お届け先がこの屋敷のラゴウさんでして」
そういうと、金色の騎士は困ったように眉をひそめた。
「__たとえば僕が代わりにそれを渡しておく、というのはできないかな?」
「我がギルドの信用にかかわるので、できかねますねぇ」
気持ちはとてつもなくありがたいけれども。
「フレン隊長!」
金色騎士の後ろにいた女性騎士がせかすように声を上げた。
ちらりと彼女をみた金色騎士は、一つうなずいて。
「すまないが、今この屋敷に君を入れるわけには行かない」
「ああ、大丈夫です。勝手に探しますんで」
届け人を見つけだすまでが私のお仕事だから。
もう一度謝ると、金色騎士は幾人かの騎士を引き連れて屋敷へと入っていった。
さて、どうしようか。少しだけ待てばもしかしたらラゴウさんは出てきたりするだろうか。
でも騎士が入っていったってことは、なにかやらかしたのか?ラゴウさん。
まあ確かに良い噂は聞かなかったけれど、この人宛の手紙はものっすごく多いもので。
考えを巡らせていれば、控えめにおなかが空腹を訴えてきた。
腹が減っては、なんとやら。
外見と中身が釣り合わない、異次元鞄__当ギルドのお抱え魔導士の力作の一つだ__からサンドイッチを取り出して、門から入って左手側、海が見える桟橋に腰を下ろす。
いずれ出てくるだろうから、それまで軽食でも食べよう。
天気は最悪だが、雨は嫌いじゃない。
__湿った雨のにおいは、私が知っているそれと何一つ変わらないから__
海を眺めて租借を続けていれば、ざわざわと後ろから喧噪が近づいてきて。
何事かとそちらを見やれば、
「あ、ラゴウさん〜」
そこにいたのは、小さな体躯に長細い帽子をかぶった目的の人物。
とてつもなく急いだ様子でこちらに走ってくるが何事だろうか。
私は自分の仕事をこなすだけだけれども。
「毎度おおきに〜配達ギルド、黒猫の足です〜ラゴウさん、サインお願いします〜」
鞄からはがきを数通と小包を取り出して、サイン欄を書きやすいようにラゴウさんに向けて走ってくるラゴウさんの元へ向かう
「なんですか!この忙しいときに!」
「お手間とらせて申し訳ないです〜受け取って、ちゃちゃっとサインしてくださればいいんで!」
ぶつぶつ言われても気にしない。
とりあえず、サインがもらえればこちらの仕事は終了なのだ。
はやく、よこせ、サイン
「後にしなさい!」
だというのにラゴウさんは私が持っていたペンをたたき落とすと、さっそうと舟に乗り込んで。
さすがに舟に乗るわけには行かない、思わず躊躇すれば、その舟は簡単に海に出て行くわけで。
仕事、達成できなかったなぁ、と思いつつ舟を見送る。
と、
「あー!船がでちゃう!」
すっげぇデジャビュ。
でも振り向かない、振り向かないぞ。
「配達ギルド!」
なんだ、そのよばれ方をしては、振り向かないわけには行かないじゃないか。
嫌々ながらに振り向けば、そこには案の定、カラフルな彼らが。
私を呼んでおきながら、視線は全員海上の舟にある。
その中の一人、黒髪が一瞬だけこちらを向いた。
「おまえの用事は終わったのか?」
それが終わってないんですよねぇ。
へらり、笑ってみせればにやりとあがる口角。
「船に乗り込むぞ」
その言葉と同時にぐ、っと腹に圧迫感。
次いでやってくるのはとてつもなく気持ちが悪い浮遊感。
そしてすぐに体全体に走った振動。
ぽいっと放り出された先は、木目調の床、揺れる世界。
あれ、これ、舟じゃない??
「まって、なんで、私を、一緒につれてきた!?」
「・・・・・・仕事、終わってねえんだろ?」
いや、確かにそうなんだけど!?
飛び乗った私たちに、因縁を付けてくるラゴウさん。
それをさりげなく無視しながら。そそそっとその横に移動すると、改めて荷物を押しつける。
「サインしてください」
「しつこいですねぇ!!」
にっこり笑って告げれば、少々怒りを醸し出しながらもラゴウさんはサインをくれた。
よし、任務コンプリート!!
と、突如舟の上で始まる謎の戦い。
巻き込まれてはたまらないので、中に入る扉の近くへと避難する。
と、
「・・・・・・誰かいるんですか?」
扉の中から聞こえてきた声。
少し高めで、どこか堅い緊張をはらんだ声。
誰かいるかと聞かれたならば、答えないわけにはいかないでしょう。
「毎度おおきに、配達ギルド、黒猫の足です〜。ご用命とあれば、例え火の中水の中。ただし配達物の安全は保障しかねます〜燃えない紙、濡れない紙でどうぞ〜。天の上地の下、はたまた砂漠の中だって。運んで見せます。運ぶのは、荷物だけにあらず。信用も一緒にお届けします〜どうぞ配達ギルド黒猫の足をご贔屓に〜」
少々控えめな声色で、中に向かって言葉を紡ぐ。
そうすると、中から微かに笑う気配。
「じゃあ、配達ギルドさんにお願いをしても良いですか?」
「ご用命であれば、なんなりと」
朗らかだった声が、静かに、重々しく響いた。
「__僕を、ここから連れ出して、帝国騎士団の元へ連れていってください」
「ご依頼、承りました」
眼前で行われる戦いは総無視をして、くるりと扉へ向き直る。
あの子供のように鍵あけができる訳じゃないけれど、物理的になら手段はある。
異次元鞄に手を突っ込んで、取り出すは小さな小型の鋸だ。
少し離れているように中へと告げて、ぎこぎこと扉と壁の接着面を切るように動かす。
と、地面がとてつもなく揺れてきた。
なんか多きな音も聞こえる。
やかましい、仕事中だ、静かにしろ!!
がたん、音を立ててはずれた扉。
開いた先、一つの影。
「お待たせしました、それじゃっ」
今までと比べものにならないほどの揺れ。
あと、今気づいたけど、なんか煙ひどくない??
げほ、とのどが異常を訴えてきた。
ちょっとまって、いろいろもしかしてやばい???
中にいた影の腕を掴み外に飛び出そうと、
「配達ギルド、なにしてんだ!」
ぐ、っと逆側の手が引かれた。
その先にあったのは、どこか安心をもたらす、黒。
私の手を引いたそれに、抱えこまれて。
腕の先にあった人も、同じように抱えられて。
そのまま数十分前にも感じた浮遊感。
ただし、最後は着地の衝撃ではなく、びっくりするくらい冷たい水の中だったけれど!!!
配達ギルドと金色
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