ドリーム小説







配達ギルドのあれこれ 

















目の前で繰り広げられていく戦いを距離をとったところで眺める。
彼らは決して私に攻撃をしてくることはない。
私が戦えないのはもうわかっているからだ。
かつて共に手を引いてくれた人たちの戦いを、思った以上に穏やかな心で見てられるのはなんでだろうか。

シュヴァーンは強い。
一人であの人数と戦えるくらいに。
けれど、最期は一瞬だった。

ユーリの剣を、シュヴァーンは刀ではなくその身で、受けたのだ。

「っ」

でそうになった言葉をかみしめることで耐える。
ユーリが、シュヴァーンを、殺めることなどないと、なぜ信じ切っていたのか。
どくどくと音を早めた心臓を抑えて彼らを見守る。

結果、倒れ伏すように見えたシュヴァーンは__切られたその場所を抑えたままその場所に立ち続けた。
切れたシュヴァーンの胸元に輝くのは、禍々しくも美しい光。

「魔導器・・・・・・?」

命を燃やすかのように光り輝くそれがあるのは、確かに心臓の場所だ。



彼の、心臓が、ある、はずの場所だ。



ようやっと、理解した。

彼が、自分を死人だと言った理由も。
アレクセイさんが、彼の心臓を持ち帰れと言った理由も。

自前のは、10年前になくした。
その言葉の意味が分からないほど無知ではない。



理解はしたけれど、理性が追いつくはずもなく。



冷たい気はしたんだ、あの胸に顔を埋めたとき。
そんな、機械的な冷たさだなんて、思わなかったけれど。

ゆっくりと立ち上がって、シュヴァーンの目の前に。
皆の声が、右から左へと通り抜けていく。
手のひらでその心臓に触れれば、確かに鼓動を刻んでいて。


”その心臓は、お前が元の世界へ戻るための鍵になるやもしれん”


「と、れるわけ、ないじゃ、ん」

この心臓が、アレクセイさんの言うとおりの心臓であれば、やっていたかもしれない。
この人が誰か別の人の手で終わらせられるくらいならば、私が殺してみてもいいかもしれない、だなんて。
バカみたいなこと思って。

でも、彼は__この人は、もうすでに、一度死んでいるのだ。
この人の心臓は、この場所にあったはずの心臓は、もう失われて。
そのときにこの人は、確かに、心臓を、呼吸を、動きを、生を、未来を、失っているのだ。

もう一度死んでくれだなんて、私のために死んでだなんて、いえるわけがない

何でもするつもりだったのに。
誰の命を奪ってでも、帰るつもりだったのに。



この人の、この世界で、ぬくもりをかんじたこのひとの、これからをうばってまでかえるの__?



私がこの世界でしてきたことはすべて
私がこの世界で犯してきた罪はすべて
私がこの世界で殺めてきた事はすべて

私があの世界に帰るためだというのに。

__あの世界に帰るためにすべてを犠牲にしてきた自分の、存在意義をなくすわけにはいかない

なくすわけにはいかない、ならば、この心臓を持ち帰れば、もしかしたら、そんな可能性は__

この人を、もう一度、殺すの?

それが、できるの??

できるわけが、ないのに?

私がしてきたすべてが、無駄になってしまうならば、それは、私がしてきたすべての、いみは、なんだったの?

「っ、」

どん、とシュヴァーンを押せば、私の方がふらりとよろけて。
それでも彼を押しのけて、アレクセイさんが向かった先へと足を向ける。

まて、と呼び止める声。
手が捕まりそうになったそのときに、ぐらり、地面が揺れた。
アレクセイさんのせいだろう。
ここで生き埋めにする気なのだろう。
シュヴァーンを、彼らを、私を。


それでも、あらがわずにはいられない。


走って走って、たどり着いた先、アレクセイさんが、生きていたのか、とつぶやいたとしても。
私は、あの世界に帰るためにこの人を失うわけには、この人から離れるわけには、行かないのだ。






配達ギルドと彼の心臓



「アレクセイさん、私ごときにあの人数かき分けてあの人の心臓とってこいとか、死ねとか言ってるようなものじゃないですか?」

アレクセイさんに向けて、へらりと笑って見せた














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