ドリーム小説







配達ギルドのあれこれ 













「お前を世界へ返す術式がないわけではない」

「ただ、今のままだとエネルギーが足りない上に、足りぬ状態で行えば目標地点が定まらずどこにたどり着くかわからない」

そのためのエネルギーの一部として、ザウデを起動させなければならない、そう彼は言った。
その鍵が、お姫様なのだ、とも。






帝都ザーフィアス

帝都を守るため展開されていた結界は失われ、そこらじゅうから放出されるエアルによって、空気は淀み、植物や魔物は異常な成長を遂げている。
その中を、アレクセイさんと共に城へと向かう。
__もちろん、お姫様は球状の結界に閉じこめられたままだ。

「__ところで、

この世界で私の名前を知るのは、この人と首領だけになってしまった。
まああの世界に帰れるのならば、別にかまわないのだけれど。

「なんですかぁ」

へらり、笑って返事をする。
彼の視線がこちらに向くことがないのと同じで、私も彼を見ることはない。
__様子の違う帝都をみるのに忙しいからだ。

「お前の世界の便利なものを、以前聞いたことがあっただろう?」
「ありましたねぇ。飛行機とか電車、車とか、電子レンジにテレビ、は、なんだかんだでもうすぐ似たようなのできそう、って我がギルドの首領が言ってましたけどねぇ」

私の世界で当たり前にあった、便利なもの。
それを話の種にこの人と我がギルドの首領には話していたわけで。
その結果、我がギルドの首領は私の話だけで、電話に似たものなどを作り上げたのだ。
どうなっているのか意味が分からないけれど。

「相変わらず君のところの首領は優秀だな」
「騎士団長閣下に誉められたーって今度報告しておきますねぇ」

へらへら笑いながら城へとはいり、彼が向かうのは城の一番上、らしい。
すべてが見下ろせる場所だと、彼は笑う。

時折お姫様が球体の中で目を覚まして、苦しそうに喘ぐ声から目をそらしながら同じように進んでいった。





てっぺんから見下ろす景色は、すべてがちっぽけで。
そして、やっぱりここは私の世界ではないと実感するには十分で。

お姫様の力を使いザウデというものをこじ開ける準備をするアレクセイさん。

それをただぼんやりと眺める。

と、空の向こうから何かが近づいてくるのが、見えた。
それはゆっくりと、でも確実に大きくなってきて。

「ふん、こりないな、奴らも」

アレクセイさんもそれに気がついたのだろう。
視線を向かってくるもの__バウルに向けた。

ぶわり、お姫様の結界が大きく膨れ上がると同時に、絶叫をあげるお姫様。

「エステル!!」

叫んだのは、ユーリ。
彼は船からあっさりと身を投げて、こちらに向かって飛んできた。

「エステル!!」

モルディオさんが、カロル君が、口々にお姫様の名前を呼ぶ。

「てめぇアレクセイ!!」
「いや、力が抑えられない!怖い!」
「弱気になるな、エステル!今助けてやる!」

お姫様に届くかに見えたその腕は、再度アレクセイが力を行使することで吹っ飛ばされて。

「ユーリ!!」

カロル君の叫び声。
間一髪、ユーリは船に掴まった。
けれど不安定なそれに、再度こちらに飛んでくることも叶わず。

「エステル・・・・・・」

悔しそうにお姫様をみる。
ほかの皆も歯がゆそうにお姫様を見ていて__否、一つだけ、私を見ている目が、あった。

かち合った翡翠色の瞳は、私を見つめてゆっくりと瞬いて。

「 お嬢 」

その口はゆっくりとその名を形どった。

「__待ってろ」

ぶわり、またふくれあがる力。
絶叫するお姫様。
ぼろぼろとあふれていく涙をそのままに、お姫様が、つぶやいた。

「・・・・・・これ以上誰かを傷つける前に、お願い、」



「  殺して  」



決して大きくはなかったその言葉。
なのに、それは、酷く深く心臓に突き刺さった。






配達ギルドと囚われのお姫様

















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