ドリーム小説







配達ギルドのあれこれ 
















海底から現れたザウデ不落城。
ついて行っても足手まといになるのはわかっていたのだけれど、行ったことのない場所なれば、行く必要が、あるわけで。

「おっさんが面倒見るから」

というまるで拾ってきたペットに向けるような言葉で、レイヴンは反対する皆を丸め込んだ。


「ブラボー、ブラボー!」

一人だけ結界魔導器に守られながら戦闘に参加することなく進んだ先。
そこには、探していた人物が、いた。

多数に無勢。
蒼をまとったその人は、レイヴンさんと同じ魔導器を心臓部に埋め込まれたその人は、ゆっくりと地面に倒れ伏して。

「油断しちゃだめ。まだなんか隠してるかもしれないわ」

とどめを刺す、そういったレイヴンさんにモルディオさんの忠告が飛ぶ。

「ノンノン。もうなにもありません。最後、そう最後です」

苦しそうに喘ぐそれは、彼の先が短いことを示していて。

「その胸・・・・・・あなたもアレクセイに?」
「さあどうでしょう、ネヴァマインド」

ジュディスさんの質問への返事も、弱々しい。

「どうして?ひとりで戦ったんです?仲間も、何の用意もなしに」
「ふ・・・・・・グッバイ」

お姫さまの問いかけに応えることなく目を閉じようとした彼の前に、ずずい、と進んでその顔をのぞき込んだ。

「毎度おなじみ配達ギルド”黒猫の足”です〜」

閉じられようとしていたその瞳が微かに驚いたように開かれて。

「イエガーさんみーっけた」

へらり、思わず笑ってしまった。

「すーぐ神出鬼没になるせいで、依頼達成報告させてもらえないんですもん。困るじゃないですかぁ」

私の言葉に、その瞳は柔らかく細められて。

「あなたの依頼は無事に達成しています__あの子たちは大丈夫。我がギルドの首領が、面倒を見てますから」

「__あれに、面倒が、みれるんですか?」

困ったように笑ったから、へらり、笑いかえす。
取り繕うのも苦しいからだろう、彼、本来の話し方で。

「たぶん無理ですね」

でも、大丈夫。
あの人は、あんなんでもあの首領は、突然現れて身寄りもなにもない私を簡単に懐にいれるような、不用心な人だけれど、心に留め置いた存在を、放り出せるような非情な人ではないから。

「そんなんじゃ、しに、きれない、じゃ、ないです、か」

けほり、吐かれた声はもう途切れ途切れで。
紅が彼を染めていく。



「なら、生き」



一つ、短く響いた言葉。
突然の見知らぬ声に、皆が瞬時に戦闘態勢へと移る。

声の発生源に目を向ければ、こんなところにいるはずのない、モノクルの黒髪が、一人。

「首領・・・・・・?」
「え、配達ギルドの首領!?」

ぽつり、つぶやいた声は思った以上にあたりに響いて。
一番に反応したのはカロル君。

「__気配がなにもなかったんだが?」
「そうね、私も感じなかったわ」

いつでも動き出せる体勢をとったユーリが、ジュディスさんが不思議そうに。

「ああ、気配遮断魔導器、新しくできたんうまくいったんやな」
「ちょ、なによそれ」
「ふむ、気になるのじゃ!」

首領の言葉に食いついたのは、魔導器関連でモルディオさん。
楽しそうに目をきらきらさせるのはパティちゃん。

「「イエガー様!!」」
「お嬢!!」

イエガーさんのすぐそばに降りてきたのは、どこからきたのかイエガーに頼まれていた二人の少女で。
彼女たちが地面に降り立つよりも数秒速く、私はレイヴンさんの腕の中にひきこまれていたけれど。

金色の騎士が、ラピードが、咄嗟に二人の少女に向けて刃を構えて。

「はい、イエガー君、おとなしくしてな」

そんな中、首領はイエガーさんのそばへ足を進めた。

「面倒がりのあなたがなんでここにいるですかねぇ」

レイヴンの腕の中に入れてもらいながら問いかければ、ちらり、こちらに一瞬だけ向けられた視線。

「こんな楽しそうな魔導器関連の物があるのに、じっとしとるわけないやろ?」

この魔導器ばかめ。
首領は傍目にはわからないがどこかわくわくとした様子で、懐から何かを取り出した。
そのままイエガーさんの胸元にその魔導器__おそらく回復魔導器__をおいて。

「お前何を!」

ユーリの問いかけに振り向いた首領は煩わしそうに言葉を紡ぐ。

「こいつ死んだら俺の面倒見る奴いいひんくなって困るんや」
「悪いけど、ドンの敵でね。生かすわけにはいかんのよ」

私を腕の中に引き込んだまま、レイヴンはユーリの言葉に続けた。

「それはそっちの事情やろ?俺には関係あらへん」

鬱陶しい、とばかりに首領は手をひらりと振る。
そうすれば、首領を守るかのように二人の少女が立ちふさがって。

「ここは通さない」
「イエガー様は私たちが守るのよん」

「ふたり、とも・・・・・・」

小さく響いたイエガーさんの声に二つの声が応えるように叫ぶ

「イエガー様!この人、まったく私たちの面倒なんて見てません!」
「むしろ私たちが面倒見たようなものだし〜」

首領、案の定ですか。

「大事なときに私たちを遠ざけたこと、後で怒りますからね」
「ちゃんと元気になってもらわないと困るのん」

二人の表情が今にも泣きそうなのがこちらからは見えて。
けれど強がる二人にイエガーさんは困ったように笑うだけ。

「__ドンの命と見合うのは、私の命、しかないでしょう?」

魔導器のおかげか、少し呼吸がましになった彼は、諭すようにそう言った。
ゆっくりと、レイヴンをその瞳に映して。



「__なぁ、ダミュロン」




世界の、音が、消えた気がした。











配達ギルドと見慣れた名前













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