ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
「面倒や。イエガー君死なへんかわりに、イエガー君のギルドを解散、それでええやろ?」
我が配達ギルドの首領の言葉により、ひとまずその場は幕を閉じた。
イエガーさんと首領、二人の少女をそこに残して一行は先へと進む。
「お嬢、なんで”ダミュロン”のこと知ってたの?」
道中レイヴンからの問いかけには、へらりと笑ってごまかして。
そうして、たどり着くのはザウデの一番奥と見られる場所。
道すがら多くの親衛隊がいたその先に、彼が、アレクセイさんがいるのは当然のことでもあって。
武器を向けたこちらに、彼はゆるりと一礼した。
「揃い踏みだな。はるばるこんな海の底にようこそ」
皮肉気にそうのたまった。
「そこまでです、アレクセイ。これ以上、罪を重ねないで」
「これはエステリーゼ姫、ご機嫌うるわしゅう。その分ではイエガーは役に立たなかったようだな」
お姫さまの言葉に、仰々しく言葉を紡ぐ。
その内容に、思わず口を挟む。
「__今頃我が配達ギルドの首領の手によって、生き長らえてるころじゃないですかねぇ」
「__配達ギルドか」
「毎度おおきに〜配達ギルド”黒猫の足”ですよ〜」
私の口上に、彼はゆっくりと頷いて。
「頼んだ品は」
「もちろんこちらに〜」
へらり、笑って彼の元に一歩、近づいた、というのに。
足が次の地面を踏みしめることはなかった。
代わりに腕に感じた圧迫感。
ゆるり、それをたどれば紫の羽織。
「お嬢」
「__レイヴンさん、私のお仕事、とらないでくださいね」
へらり、笑ってその手に触れれば、困ったように彼は眉をひそめて。
「__そのお仕事、後じゃだめなの?」
「受け取り先不明のものが、一番困るんですよねぇ」
あなたたちと戦った後、この人が無事でいるかどうかなんてわからないから。
「__ほんと、お仕事熱心よね」
私の言葉に、ため息をついた彼は、背中を押すように一度ふれて、柔らかく笑った。
「無理しちゃだめよ」
じわり、熱が灯る。
大切な物を作らないように、私はこの世界で生きてきた。
いつか消えるこの場所だから、深入りしないように。
けれど、だけれども、
ああ、このひとが、すきだなぁ
浮かんだそれは、形になる前に、心から放り出したけれど。
「__レイヴンさん、次会ったとき渡したい物があるんです。覚えておいて、くださいね」
へらり、笑ってその熱から距離をとる。
次、がいつか、だなんてわからないけれど。
あの世界に戻るために毎日を生きる私が、誰かに何かを届けることを支えに生きているだなんて、なんとも滑稽な話だ。
皆の複雑な視線をかわしながら、アレクセイさんのところへ。
持たされていた魔導器を取り出して、彼へと手渡す。
名目上は”私が元の世界に戻るために必要”だと。
それが真実かはわからないのだけれど。
この人と別れてから起こった魔導器関連のものを記録するその装置。
「__相変わらず、おまえのところの首領はよくわからぬものを作るな」
気配を遮断していた魔導器のことだろう。
その装置を操作しながら発せられた声に、へらり、笑う。
「__まあいい。配達ギルド、下がっていなさい」
一通り調べきったのか、彼は私に下がるように指示する。
従わない理由もないので、彼に指示されたように移動して。
彼の瞳はゆっくりと、ユーリたちへと向けられた。
それを皮切りに始まる言葉の応酬。
ぼんやりと聞き流しながら、宙に浮かぶ操作版を眺める。
「なにも変わってなどいない。やり方を変えただけだ。腐敗し閉鎖しきった帝国を、いや世界を再生させるには、絶対的な力が必要なのだ」
理想は、今も昔も同じなのだとこの人は言う。
至る過程が異なるだけだと。
そして__そのために罪人の汚名すら喜んで受けるのだと__今の行いを、罪だと理解しているこの人は、私たちでは想像しきれないほど、幾度となく葛藤を続けたのだろう。
この人も、ある意味ユーリと同じ。
自らを犠牲に、世界を変えようとする人。
そして、ある意味ではフレンと同じ。
未来のために、今を犠牲にしようとする人
そして知識が経験が、地位があったからこそ、見つけだしてしまった方法を、実行しようとする人。
ぶわり
私とアレクセイさんがいる場所が上昇する感覚。
すぐさまこちらに飛び乗ってくるユーリたち。
そのまま、刃が重ねられていく。
アレクセイさんは、強い。
人数差など気にもとめない、とばかりに。
幾度となく傷ついていくユーリたち。
そのたびにお姫さまによって傷は治されて。
私の世界では考えられないその治療方法は、何度も私を異質なものだと示す。
戦いの収束は、床が止まったのと同時だった。
ゆっくりと、見上げた先。
そこにあったのは大きな、大きな魔核。
きらきらと光るその翡翠色は___中に、私の世界の景色を、抱いていた。
時間が、止まったかと、思った。
次の瞬間、目の前にフレンが転がるのを見て。
ユーリが、アレクセイさんに向かっていって。
アレクセイさんの剣とユーリの剣が拮抗する。
そして同時に二人は弾き飛ばされて。
「だが。見るがいい!」
響く声。
空を見上げたその瞬間、空が、割れて
禍々しい何かが、空を引き裂いて、現れた。
「あれがザウデの力だと?そんなはずは、まさか・・・・・・」
「どうなってんだ?!」
「星喰みは、ずっといたのだ、すぐそこに」
「打ち砕かれてなどいなかったんだわ。ただ封じられていただけ、遠ざけられていたにすぎなかった」
「そうだ、それがいま還ってきた。古代にもたらすはずだった破滅をひっさげて!よりにもよってこの私の手でか!これは傑作だ!」
「今までザウデが封じていたっていうの!?」
続く言葉のやりとり、その中身のなにも理解することはできない。
ただ、その黒い世界に、私の世界はないかと必死に目を凝らす。
私が知りたいのは、私に必要なのは、
この世界の命運なんかじゃなくて
レイヴンや、ユーリ、カロル君やモルディオさん、ジュディスさんにお姫さま、ラピードに首領
彼らが生きる世界の、行く末なんかじゃ、なくて、
あの世界に、戻るほうほう、なんだ
「我らは災厄の前で踊る虫けらにすぎなかった。絶対的な死が来る。誰も逃れられん」
「いい加減、黙っときな」
ユーリの言葉。
アレクセイさんに剣を構えて走っていくユーリを見た瞬間、私の体が、動いた。
「っ、配達、ギルド・・・・・・?」
体に感じたのは、燃えたぎるような熱さ。
すぐ後に、痛み。
目の前のユーリが呆然とつぶやくのを耳に入れながら、後ろへと傾いでいく。
がしゃり
耳元で音が鳴る。
微かに開いた先には赤に近い色。
驚いた瞳に、私が確かに映っていて。
彼の後ろ、翡翠色の魔核の中に、もう私の世界は見えない。
ただ禍々しい黒を、見せつけるだけ。
けれど、確かに、さっきは目にしたのだ。
私の、世界を。
「・・・・・・?」
どうして、と言外に込められた意味に、いつものように笑って。
「あなたが、死んだら、私は、戻れない、もの・・・・・・」
落ちてくる翡翠色を目にして、咄嗟にアレクセイさんを、突き飛ばした。
「!!」
叫んだその声が誰の物だったか、なんて知らないけれど。
衝撃とともに、温もりに触れた体は、意識はのまれた
配達ギルドと焦がれる世界
あの世界に戻りたい、けれど、この世界に大切な物を、作ってしまった。
知っていたけれど、知らないふりをしたかった
わかっていたけれど、わからないふりをしたかった。
気づいていたけれど、気がつかないままでいたかった。
この痛みは、きっとその代償
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