ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
” !! ”
ふわり
浮かぶ意識。
遠ざかる夢の景色。
最後に感じた痛みと、私を呼んだ誰かの声。
あれは、誰の物だったのだろうか。
ゆっくりと、目を開いた先、そこには白を基調とした天井が、あって。
「配達ギルド、目が覚めたんです??」
ここはどこだろう、とぼおっと考えていれば、ひょこりのぞき込んできた桃色。
わたしを映したその瞳は、ほっとしたように和らいで。
手に、温もりが宿る。
何事かと目をやれば、彼女の両手によって、わたしの手のひらは拘束されていて。
「聖なる活力、ここへ__ファーストエイド」
同時に春の日差しのように、暖かな光が彼女から生み出される。
柔らかな、彼女そのもののような温もりは、私の体を優しく撫でて。
先ほどから感じていた温もりは、彼女の癒しの力だと、知る。
ゆっくりと起きあがって、彼女に捕まれた手にもう片方の手で触れる。
「もう、大丈夫ですよぅ」
だから、離してください。
わたしの言葉に、彼女は手を握る力を強めて。
「わたし、配達ギルドの大丈夫は信じないって決めてるんです」
なんともひどい。
困ったなぁ、と思いながら、まっすぐに彼女を見つめて、へらりと笑う。
「私、なんかのために、力を使う必要なんて、ないんですよ」
私なんかのために。
あのとき、アレクセイさんのところへあなたを連れて行った私なんかのために。
あのとき、叫ぶあなたを眺めることしかしなかった、私なんかのために。
なのに、彼女は、エステルさんは、怒ったように眉をひそめて。
「私の力は、私の物です__あなたに使う先を決めさせたりなんて、しません」
ぎゅう、と握られた手のひら。
再度浮かぶ術式と光。
「__あなたが、苦しむ私を、自分も苦しい顔をしながら眺めていたことを」
まっすぐな瞳が私を射抜く。
それから逸らす事なんて、できなくて。
「球体の外から、寄り添うようにそばにいてくれたことを、私が知らないだなんて、思わないでください」
困った、なぁ。
強い瞳、激しい感情、まっすぐな言葉。
以前の私ならば、簡単に笑ってごまかせたのに。
この瞳に、思いに、まっすぐな気持ちに、応えなきゃ、だなんて思ってしまう。
空っぽだったこの世界の私に、ゆっくりと物が増えていく。
一つずつ、胸の中。
積み木のように重ねられていく。
いらないと放り出したそれらは、忘れないでと戻ってきて。
ことり、ことりと音を立てて、私の中につもっていく。
こんな感情、いらないのに。
あの世界に戻るためには、足枷でしかないのに。
そのために、いろんな物を切り捨てて、全部自分のためにしか、動いてこなかったのに。
今更、大切な物なんて、作ってはいけない、というのに。
放り出さなきゃ。
大切だ、なんていう感情、胸の中をもう一度空っぽにしなきゃ。
「エステル、配達ギルド__」
「あら、おはよう」
「ギルド姐、起きたのじゃ!」
微かなノックの音。
扉が開いたそこから現れたのは、モルディオさんとジュディスさんにパティちゃん。
私の姿に動きを止めたモルディオさんとは違い、ジュディスさんとパティちゃんは私のそばまでやってきて、にこやかに笑った。
「おはようございます〜」
へらり、笑ってみせれば、寝坊すけさんね、って微笑まれた。
ありがとうございます、めちゃくちゃすてきな笑顔にどきどきしちゃいます。
「ジュディスさん、私あの後どうなったんですかねぇ?」
そういえば、と問いかければ、その綺麗な瞳は一度、瞬いて。
「__アレクセイを庇ったあなたに落ちた魔核を__アレクセイ自身がたたき落としたの。だから、あなたの傷は__ユーリに切られたものだけ・・・・・・深かったから、治るのに時間はかかっていたのよ」
ああ、そうか。
あの時感じた温もりは、私を庇ったアレクセイさんのものだったのか。
「アレクセイさんは?」
「__無事なのじゃ、今は地下牢に拘束されてるらしいの」
「ねえ、あんた」
パティちゃんの言葉に続きを問おうとした私を遮ったのは、モルディオさんのもの。
いつのまにか目の前にやってきていたモルディオさんが、エステルさんに捕まれていた手をぱしりとたたき落として、続けた。
「あんたの捜し物は、アレクセイが持ってるの?」
「アレクセイさんが、一番近いと思うんですよねぇ」
私の捜し物のこと。
彼女が気にかけてくれているなんて、不思議で。
素直に応える。
「それは、魔導器関連のこと?」
「それすら、わかんないんですよぅ」
へらり、また笑う。
ばしり
両側から頬を捕まれた。
痛いわけじゃないけれど、圧迫感がなかなかで。
すごく近い距離で、その瞳を眺める。
「笑うな」
端的な言葉。
その意図が分からなくて、また、へらりと笑うことしかできない。
「痛いのに、しんどいのに、笑わなくてもいいって言ってんの!」
強い口調。
なのに、その瞳は、自分が痛いと言うかのように、揺れていて。
ことり
また、胸に積まれる感情。
いらない、いらない、のに
「痛いなら痛いっていいなさいよ!」
モルディオさんが
「そうね、しんどいなら、しんどいって言ってくれなきゃわからないわ」
ジュディスさんが
「捜し物が見つからないのは、つらいのじゃ」
パティちゃんが
「配達ギルド、私たちを、頼ってください。全部一人で抱え込まないで」
エステルさんが
かたん
暖かなそれが、また増える
私はいろんな事をして、この人たちを傷つけたのに。
自分だけのためにしか、動かなかったのに。
そのために、いろんな物を捨ててきたのに
いまさら、むりだよ
どん、とモルディオさんの胸を強く押す。
そうすれば、小柄な彼女は簡単に転がって。
「リタ姐!」
「リタ!」
パティちゃんが、エステルさんが、モルディオさんに駆け寄る中、ベッドからゆっくりと立ちあがる。
ジュディスさんの視線を受けながら、へらりと笑った。
「だめ、だよ、私には、優しくされる資格なんて、ないもの」
これ以上、近づくのは、だめだと、自分に言い聞かせた。
配達ギルドと優しい言葉
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