ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
「__なんでここにいるんだ?」
「ごめん、それは私も疑問に思ってるんだ、ユーリ」
ぽかん、と口を開きながらユーリが
「しかも楽しそうね」
「楽しくなんてないんだけど、ジュディス」
ころころと笑いながらジュディスが
「大将、なにしてんの・・・・・・?」
「私の力が必要だろう?」
呆気にとられたようなレイヴンの言葉にアレクセイさんが答える。
「あんた、の力とか、お呼び、じゃないわ、よ・・・・・・」
「リタ、なんで揺れてるの?」
アレクセイさんの知識に興味を抱いたリタの言葉。
カロル君がそれにつっこんで。
「ひさしぶりじゃのう、姐」
「久しぶりだねぇ、パティちゃん」
にこにことこちらに全力で手を振るパティちゃん。
その足下、ラピードがあきれたような表情を浮かべている。
「あなたが脱獄したと、城からは連絡が入っていました__なぜ彼女と共に?」
フレンの問いかけに、アレクセイさんはしっかりと言葉を紡いだ。
「ここが一番、彼女の願いに近いからだ」
古代都市タルカロン。
あのとき、首領の家で会って以来、私はアレクセイさんと行動を共にしていて。
この場所にもあっさりとつれてこられたのだ。
道中、アレクセイさんが見事なまでに敵を殲滅していったために全く持って危険はなかった。
長い時間をかけてたどり着いた最上階と思わしきところ。
銀色の長髪をなびかせるデューク。
彼と対峙する皆に、ようやっと追いついたのだ。
そうして、冒頭の会話に戻る。
私がアレクセイさんに荷物のように担がれているのを見て、向けられる様々な言葉たち。
いったいどういうことですかねぇ、何してるのか、私もわからないんですよねぇ。
ただ、この場所に、いかないといけない、そうアレクセイさんが言ったから、ついてきただけで__担がれてきただけで?
「こちらのことは気にしないでくれ。デュークとの会話を続けるがいい」
「いや、気にするなって・・・・・・」
「無理があるよね」
「大将、お嬢に変なことする気じゃないでしょうね?」
「安心しろ、私の好みはもっと落ち着いた女性だ」
「私が落ち着いてないってか?このやろう」
アレクセイさん、ねえ、さっきからなんでこっちを全くみないのかな?ねえ。
「__アレクセイ、そうか・・・・・・」
かわりにデュークがこちらをみて小さくつぶやく。
一つ頷くと、ユーリたちに向き直り、アレクセイさんと私の存在を全力で空気のように扱いだした。
「彼ら始祖の隷長の選択に口を挟むことはすまい。だが私には私の選択がある」
「さらっと元の流れに戻しやがった!」
ユーリたちがあわててデュークに向き直るのを、アレクセイさんと共に、離れたところから眺める。
そうして始まる戦い。
皆が傷ついていくのを眺めることしかできない歯がゆさ。
彼らがどうして戦っているのか、そういったことも何一つちゃんと理解していない私にできることは、何一つ、ない。
「現時点でを元の世界に戻す方法が、ここだ」
そんな中、突如落とされるアレクセイさんの言葉。
どういうことかと横の長身を見上げれば、その瞳はこちらではなく、戦いを見ていて。
「デュークはこの”世界”を救うために、人の命を代償に選んだ」
アレクセイさんの視線の先を追い、一人で剣を振るうデュークを見る。
「そして彼らは、その命の代わりに、魔導器を使うことにたどり着いた。”この世界”だけでなく”この世界に生きる人々”をも助ける、ために」
次いでデュークと相対するユーリを、ジュディスを。
「この戦いが終われば__、魔導器は失われる」
理解できない単語の中、一つだけ、引っかかった。
魔導器が、失われる、と。
それは、それはつまり__
「まって、」
「そうなると、おまえの帰る方法は」
「まって、」
「また振り出しに戻る」
「まって、アレクセイさん。魔導器が失われるって__」
言葉を遮られたことにか、いささか不満そうな表情だ。
けれど、そんなことよりも、知りたいのは、知らなきゃいけないのは__
「あの人の__レイヴンの、心臓は?大丈夫です、よね?」
あれも魔導器だったはずだ。
赤く輝く、あの心臓は、魔導器だった、はずだ。
あの人の心臓が、止まってしまう、なんてこと、ないと思いたいのに
私の質問に、アレクセイさんはこちらをみてあきれたように笑った。
「自分の心配ではなく、先にあいつの心配か。なるほど、十分この世界に馴染んだようだな__大丈夫だこの私が作った魔導器だ。安心しろ」
アレクセイさんの大きな手が、頭に乗せられて、くしゃりとかき回される。
どこか不器用なそれは、この場所に似合わなくて。
柔らかな笑みは、ゆっくりと真剣な物に変わっていく。
「だが、そこまでにしておけ。これ以上、この世界に心を砕けば、おまえはこの世界から離れることができなくなる」
くしゃり、もう一度かき混ぜた手のひらがゆっくりと離れて私の手を取った。
そうしてどこからか、取り出された大きな石のついたバングルが、はめられて。
「魔導器がなくなる以上、おまえに猶予は残されていない」
バングルへの説明はないまま、離れた手が、戦いを終えたユーリたちへと向けられる。
「、あのエネルギーに近づけ。そうすれば座標は併せてやる」
言われたままに一歩進む。
彼が宙を指でなぞったかと思えば、突如展開されて広がっていく何かのパネル。
「ちょっと、あんたなにしてんのよ!?」
リタの声が、響く。私に走り寄ろうとしてくれたのか、けれど何かに阻まれたように足を止めて。
帰り方を、見つけてくれるって、いったのに。
ごめんね、リタ。
すごくうれしかったよ。
あのとき、リタの言葉のおかげで、一人で抱えなくて良いって、気づいたんだ。
「!痛いとこはありませんか!?」
エステル、自分も戦いが終わったばかりでぼろぼろだろうに。
人の心配ばかりをする優しすぎるお姫様。
私しか手をさしのべられなかったあのときに、見捨ててしまったというのに。
あなたはいつだって私を温もりで包んでくれた。
「アレクセイ!を離して!」
感情豊かで、怖いことだってたくさんあるだろうに、いつだって、まっすぐに前を見ていたカロル君。
私の家族になると胸を張っていってくれたこと、どうしようもないくらいに、うれしかった。
この世界で一人じゃない、ってそう思えたのは、あなたのおかげだよ。
「それは、あなたの意志なの?」
ジュディスは、今アレクセイが何をしているのか、わかるのかな。うん、そうだよ。
私の意志だよ、これは。
綺麗で、優しくて、自分から進んでて貧乏くじをひこうとするジュディス。
強い言葉を口にしながら、その瞳はいつだって心配する色を浮かべているのに、気づいていたよ。
「姐!」
私を姐、と慕ってくれたかわいいかわいいパティちゃん。
自分が傷ついていることを、知らないふりをして、平気だと笑う意地っ張りな子供。
抱きしめた体は小さくて、私の手を握った手は柔らかくて。
守ってあげなきゃと思ってたのに、いつだって守ってくれるのはパティちゃんだった。
「アレクセイ、彼女に何をするつもりです」
金色の騎士様__フレン、という名前を知ってはいるけれど、ついぞ呼ぶことはなかった。
絵本から飛び出た王子様みたいな綺麗な人。
それでいて、強情で、意志を曲げぬ強い人。
弱き民衆の為にあろうとする彼は、きっとこれからの世界をかえる。
「を、元の世界に帰してやるだけだ」
アレクセイさんの言葉に、皆が息をのむ。
「__帰し方を知っていたのか?」
ユーリの言葉はどこか鋭い。
ああ、知っていたのに、知らないふりをしていた、とかじゃないよ、この人は。
だって__なんだかんだいって、この人はいつだって私に切実であろうとした。
私を帰すための力が足りなかっただけで。
__ばさり、長く美しい黒髪が風に揺れる。
まっすぐと瞳が私に向けられる。
”未来”を願い、”現状”を選んだこの人の瞳が、告げる。
これでいいのか、と。
私にできるのは、へらりと笑うことだけ。
また一歩。
前へ進んだ。
「お嬢」
前へ、進んでいきたいのに。
遮るは紫。
真剣な表情。
けれど、見え隠れする困惑。
「ごめんなさい、レイヴン」
待ってると、約束したのは私だったのに。
どうやら、こちらから破ってしまうようだ。
私の言葉に、レイヴンは仕方がないとばかりに、わらう。
「__元気でね」
あなたから、この世界から逃げ出す私にかけるにしては優しすぎるそれ。
この世界にきたばかりの頃は帰りたくてしかたなかった。
けれど、いつしか人に解されて、けれどそれに気がつかないふりをして。
強固に作ったはずの壁は、からっぽだったはずの心は簡単に壊されて、開かれて。
いつしかこの世界から離れがたく思う私がいた。
でも、ここで帰らなきゃ、私は、私のためだけに生きたこの世界から__逃げなきゃ。
私の、ために。
鞄から、彼に宛てられた手紙の束を取り出して、また一歩、前へ。
どうしてか、それ以上近づくことができないから。
ゆっくりと足下においた。
私を慰めてくれた腕も
脈打つ心臓も
朗らかに笑う表情も
冷たく変わる瞳も
撫でてくれた大きな手のひらも
私に歩調を合わせてくれる足も
あなたが、すきでした。
ぶわり、何かの力が流れ込んできて、呼吸が乱れる。
キィンと、耳鳴りが中りに広がって、誰の声も聞こえなくなる。
目の前がゆっくりと白く染まっていって、辺り一面真っ白になって、そうして__そうして__
配達ギルドと別れの時
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