ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
星喰みを倒して、世界から魔導器は失われた。
今、この世界は、魔導器のない、新たな歴史を歩んでいる。
嬢ちゃんは、副帝として帝都にて活動していて。
ハルルにリタっちと共に住居を構えているため、ハルルから帝都に通っている、と言った方が正しいか。
リタっちは先ほども言ったとおり、ハルルにて嬢ちゃんと一緒に住んでいて。
魔導器のなくなった世界の精霊について研究をしている。
なんだかんだで仲良くやっているようだ。
少年と青年、ジュディスちゃん、ラピードはなんでもギルドとして様々な町に出没し、知名度をぐんぐんとあげている。
少年的にはオルニアンにギルド本部を構えたいらしく、その資金集めに翻弄する日々のようだ。
__青年がお金にならない仕事ばかりもぎ取ってくるせいで。
パティちゃんはもう一度ギルドを作り上げたい、と自らの船を持ち、勧誘に忙しいとのこと。
ただし、青年愛は健在のようで、青年に頼まれたらすぐに船を動かしている。
それから、フレンちゃんは騎士団長として、ヨーデル殿下に仕えている__部下にアレクセイをひっさげて。
__タルカロンにてあの子を元の世界へ帰したアレクセイは、大人しく帝都へ連行された。
罪人ではあるが、その知識、失わせるには惜しい、と。
研究員、及び騎士団員としてフレンちゃんの監視の元復帰することを命ぜられたようだ。
ちなみに俺はギルドと騎士団の間を取り持っている__まあ以前と変わらない。
そして、今、俺たちは久しぶりの再会を、果たして__戦いを繰り広げていた。
「ちょっと、誰よここ待ち合わせ場所に指定したの!」
「ごめんね、レイヴン!僕たち!」
「魔物討伐の依頼が入っててな」
「ちょうど良いかと思って」
俺の言葉に、身長が伸び、声も低くなった少年がにこやかに答える。
ふてぶてしくなったのは、青年の影響か。
青年悪いと思っているなら、もう少し顔に出したらどうだ。
ジュディスちゃんはそのままでいいからね。
「精霊よ、大地より力を分け与えよ、ストーンブラスト!」
「えいや、なのじゃ」
リタっちが編み出した精霊術の詠唱が響き、発動する。
まだ編み出したばかりだというのに、もうすでに安定して聞こえるのはさすが天才魔導士だ。
パティちゃんは変わらず獲物の銃をぶっ放す
魔導器のなくなった世界__つまり、武力魔導器もない戦いは、
やはり以前に比べると格段に難易度が上がった。
青年たちは元々の能力が高かったため、なんとかなっているが、魔導器を失って武器をおいた者もすくなくはない。
「ユーリ、後ろだ」
「フレンは上な」
フレンちゃんが、青年が、共に相手に迫っていた驚異を切り捨てる。
「聖なる活力、ここへ、ファーストエイド」
唯一、魔導器なしで術の使える嬢ちゃんが皆を回復して。
「いつも心はピンク色、喰らえ恋心!吹っ飛んじまいなぁ!」
魔導器という心臓を持つ俺が、最後の後始末、とばかりに技を放って。
「いっちょあがり」
ゆっくりと、武器をしまった__と、
「おっさん、後ろ!!」
「レイヴン!!」
気配なく、現れた魔物は、旅の途中何度か遭遇したギガントモンスターと呼ばれるほどの大きさで。
皆が武器を、構えるけれど、それよりもはやく魔物の攻撃は発動し、辺り一帯を巻き込んだ。
「きゃあ!」
「エステル!」
回復の嬢ちゃんが吹っ飛ばされたため、すぐに全体への回復が行えない。
これ、もしかしてやばいかな。
とりあえず、ないよりはましだろう。
愛の回針を__
放つよりも、先に、声が、聞こえた。
「せーのっ」
それは、聞いたことのある声で。
「吹っ飛んでー切り刻めー」
やる気のないそれはここで聞くはずのない声で
「ついでに倒して、圧しちゃえー」
皆の耳にも届いたのか、信じられない、とばかりに声の方向をみる。
「最後に皆を癒しちゃえー」
なんとも雑な詠唱。
それでいて、確かにギガントモンスターは倒れ伏し、俺たちの体は回復して。
魔導器が失われたこの世界で、精霊術ではない術を使える人なんて、俺と嬢ちゃん以外、もう、いないはずだったのに。
がさり、声の主はゆっくりと姿を現した。
「毎度おおきに、配達ギルド、黒猫の足です〜」
あのときと同じへらりとした笑みで
「ご用命とあれば、例え火の中水の中。ただし配達物の安全は保障しかねます〜燃えない紙、濡れない紙でどうぞ〜」
あのときと同じやる気のなさそうな口調で
「天の上地の下、はたまた砂漠の中だって。運んで見せます」
あのときと同じめんどくさそうな棒読みで
「運ぶのは、荷物だけにあらず。信用も一緒にお届けします〜どうぞ配達ギルド黒猫の足をご贔屓に〜」
あのときと変わらぬ姿で、そこにいた。
「あんった、なによそれ、その適当な詠唱!!」
「わー、リタ相変わらずぐいぐい来るねぇ」
リタっちが彼女に詰め寄る。
「えー!!ほんとに?本物??」
「久しぶりだねぇカロル君。そうそう、本物本物、君のお姉ちゃんだよ〜」
少年が彼女に飛びつく。
「あらあら、お久しぶりね」
「久しぶり〜ジュディス〜相変わらずのぼんきゅぼんですねぇ」
ジュディスちゃんと朗らかに笑いあう。
「姐、なんで魔術が使えるのじゃ?」
「あ〜まあいろいろあったんだよねぇ」
パティちゃんの質問をへらりとかわして。
「元気そうで何よりだ」
「フレンも、元気そうでよかったです〜」
フレンちゃんと手をたたき合って。
「本当になんです??」
「そうなんですよ、本当なんですよ」
不思議そうな表情を浮かべた嬢ちゃんをぎゅう、と抱きしめて。
「__戻れなかったのか?」
「__ううん、戻ったよ、私の世界に」
ユーリの言葉に、場が静寂に包まれる。
ふわり、今まで見たことのない程大人びた表情で彼女は笑った。
「でもね、あの世界のことを、私が忘れていくと同時に、向こうの世界も、私を忘れて行くみたいでね」
困ったように、あきらめたように。
けれど、もういいのだと、いうように。
「あの世界で、私を知っている人は、もう、いなかった、よ」
どうしようもないと、笑うから、彼女に、手を伸ばした。
そっと手に取った手のひらは、柔らかくて暖かくて。
これは現実なのだと、示す。
「お嬢」
「久しぶりだねぇ、レイヴン」
俺の言葉に、へらりと笑う。
「ん〜そんな顔、しなくていいですよぅ」
触れていない方の手が、俺の頬にのびて。
慰めるように優しくなでてくる。
__慰めるべきは、こちらだというのに。
「もうね、だいぶん記憶が曖昧だから、悲しい、っていう感覚もあまりなくてね」
へらり、困ったような笑顔は、この子の自らを守る癖だと、知っている。
ぐっ、とその体を引き寄せて、腕の中に閉じこめた。
「っ、レイヴン、なに?急に」
間に入った手が、俺を引き離すように動くけれど、離すつもりはない。
「おっさん、セクハラだぞ」
青年、ちょっとだまってて。
「あら、うらやましい」
ジュディスちゃんがやってほしいならいつでもやったげるけど。
「いやぁ、たぶん羨ましいの対象、そっちじゃないと思うなー」
やかましい、少年。
「__その前に私が吹っ飛ばしたげるわ」
リタっち、やめて!!
「ユーリ、うちも抱きしめてもいいんじゃぞ!?」
ぶれないね、パティちゃん!
「エステリーゼ様、なにをそんなにきらきらとした目でレイヴンさんを・・・・・・」
嬢ちゃん、無言できらきらした目で見てくるのやめて!
わんこ、あきれた目もうれしくない!!
そんなやりとりを、腕の中から見ていた彼女は、ふにゃりと、ようやっと気が抜けたように、笑ったんだ。
それがきっと彼女本来の笑顔。
「あのね、寂しくないの、本当だよ」
にこにこと、今まで見たこともないくらいに柔らかい表情で。
「だって、皆がいるから」
うれしくて仕方がない、とばかりに。
「ここが帰る場所って、わかったから」
ここ、といいながら、腰にぎゅう、と抱きついてくる。
俺の胸に顔を埋めた彼女は、小さな声で、俺にだけ聞こえるように、つぶやいた。
「ここを、帰る場所だって、思っても良い・・・よね・・・?」
だめだと、言うわけがない。
ぎゅう、と力を入れてもう一度抱きしめて。
その耳元でつぶやいた
「__おかえり、」
「っただいま!」
俺を見上げたその表情は、今までみた中で一番綺麗だと、思った。
烏の独り言3
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