ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
黄昏時の街、ギルドの巣窟ダングレスト
我が配達ギルド、黒猫の足、はここを拠点にしているわけでは、ない。
けれど、ギルド関連の情報はここにくれば集まるし、この街に支店ももちろんある。
配達ギルドの仕事もこの場所には多いので重宝している街だ。
一歩足を踏み入れれば、意気揚々と住民達が闊歩している。
そう__いつもであれば。
今日はどことなく落ち着かない雰囲気で。
幾人かが地面に横たわってその側で治療に当たる人たちもいる。
ふむ、なにか襲撃にでもあったのか?
でも結界魔導器はいつもと変わらず空にある。
この街にいる友人達の安否をしりたいところだが、鞄の中にはドンあての書状が入っているわけで。
とにもかくにも、首領であるドンに会いに行かねば。
「毎度おおきに〜」
「お疲れさまです」
ドンが普段いるその建物。
いつもは朗らかなギルドの皆もどこかぴりぴりとしていて。
この中にも幾人か、怪我をしている人たちもいるようだ。
なにがあったのか、ドンに会ったら聞いてみよう。
そう思いながら進む建物の中。
我が配達ギルド員はこの建物には顔パスだ。
見知った顔に挨拶を告げながら進んでいれば、前から見知った色が近づいてきた。
「お嬢」
紫羽織に猫背気味のぼさぼさ頭。
へらり浮かべる軽薄な表情が__時折ひどく剣呑に細められるのを私は知っている。
そしてその瞳を始めてみたときから__私はこの人が苦手だ。
「レイヴンさんじゃないですかー毎度おおきにー」
「いつも思うけど、もう少しやる気を出してもいいんじゃない?」
私の前に立ち止まった彼、レイヴンさんはひらひらと手を振りながら、笑った。
「ええー?やる気いっぱい胸いっぱいですよー」
「せめて棒読みはやめて__ドンに用事?」
溜息を一つ落とした後、レイヴンさんは、ゆっくりと首を傾けて聞いてきた。
「ドンさん宛のお届け物がいろいろと」
「うーん、これから来客なんだけど、ま、いいか」
少し考えたようなレイヴンさんは、するり、私の背後に回ると腰あたりに腕をあてて誘導するように動き出す。
あまりにも自然になされたそれに、抵抗するタイミングなどつかめず。
今レイヴンさんが歩いてきたばかりの道をエスコートされるがまま歩む。
もしかして、迎えにきてくれたのだろうか。
まさか、と思いながらも拒否する必要はないわけで。
彼の側に寄り添って、前へと足を進めていく。
「ちょーっと来客が立て込んでるから、時間かかっちゃうかも」
少しだけ眉をひそめながら、ごめんね、と軽く言葉は落とされる。
「代理受け取りはだめだったもんね、確か」
よくご存じで。
猫背であろうと私より背が高いこの人は、この距離ならば見上げなければならない。
下から見上げるのはどこか新鮮で、思わずその顔をじいっと眺める。
「__おっさんの顔になにかついてる?」
視線に耐えきれなくなったのか、ちらり、こちらに視線を向けられた。
こんなにも感情が豊かなはずなこの人の瞳は、いつだってどこか冷たくて重い。
近い距離でみたところでその感覚は拭えなくて。
「レイヴンさんの顔、整ってて好きだなぁ、と思いまして」
へらり、笑って、心の中と正反対の言葉を告げる。
「あら、おっさんの好きなとこは顔だけ?」
拗ねたような表情。
でも瞳の色は変わらぬまま。
「もちろん、それ以外も大好きですよ〜」
私の言葉に、レイヴンさんもへらりと笑った。
__へらりと、笑ったように見せた。
私は、この人が苦手だ。
笑顔で全てを隠して、騙すことに長けたこの人が。
いったい何にどれくらい騙されているのか、わからなくなるから。
でも__わからないこの人をわかりたいと思う私も、いたりして。
軽薄そうな笑みの裏、秘められた感情を私は全部を知らないけれど。
笑顔という仮面で、全て飲み込んだままのこの人の激情に、触れてみたいと、時折思う。
「そういえば、何があったんですか?」
常とは違う街について、世間話の体で問いかければ困ったような表情が返される。
「結界魔導器の調子がちょーっと悪くなっちゃって、タイミング悪く魔物が街に入ってきちゃったんだよねぇ」
魔物が街の中に入ってきたのならば、この街の惨状もうなずける。
今現在もざわついてはいるが、ざわめきの程度的に被害は少ないのだろう。
「そこまでの被害がなさそうでよかったです」
へらり、笑ってみせれば、にぱり、レイヴンも明るい表情に。
「なになに?おっさんのこと、心配してくれたの〜?」
からかうような声色。
ころころと変化するこの人はいつだって真実を掴ませはしない。
「もちろん、レイヴンさんのこと、心配だったに決まってるじゃないですかぁ」
私の返しが意外だったのか、レイヴンさんが一瞬だけ応えに詰まった。
と、
「おっさん、どこ行ってたんだよ」
穏やかに見せかけていた空気を破ったのは一つの声。
それは本当に最近なんだかよく聞く声で。
ゆるり、視線を声の方向へ向ければ、そこにあったのは見慣れた黒髪に桃色、子供にモルディオさんに、犬。
「あ、配達ギルドだ」
子供が私を呼ぶ。
喚ばれたら、答えてあげましょ。
「はいはーい、毎度おなじみ__「その口上聞き飽きたわ」」
モルディオさん、ひどい。
するり、温もりが、離れる。
「いやー、悪い悪い青年」
へらへらと笑うレイヴンさんは、どうやらこの黒髪たちと知り合いのようで。
「うち御用達の配達ギルドを見つけたもんで、ドンのところに連れていこうかと」
いいでしょ?
へらり笑って許可を求めるレイヴンに、黒髪たちは仕方がないなと頷いた。
__それ、私の許可はとらないの??
配達ギルドと胡散臭いおっさん
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