ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
白い光に包まれて、そうしてたどり着いた先。
私の世界だと思っていたそこは、どこか他人じみた表情をしていた。
よく知っていたはずの道は、どこか記憶とは違って見えて。
私を見て、両親は、家族は、どちら様ですか?と声をかけた。
もうおぼろげだった家族の記憶は、声を聞いたところで懐かしいと思うことはなく。
ああ、そういえば、こんな顔だったかもしれない、と感じるだけで。
大好きだった友人たちのなかに、私の居場所はもはやなく。
すれ違うときだって、なにを言われることもなかった。
彼女たちの中に、もう私は存在していなくて。
__否、彼女たちが、本当に私の友人だったのかどうか、それすら定かではない。
私は、この世界の記憶から、失われたのだ。
けれど、なぜか、悲しくは、なくて。
寂しくも、なくて。
それはきっと私が大事なものを抱えきれずに、ぼろぼろと落としていったから。
落としたことにも気づかずなかったそれらは、拾われることもなく、ただ消えていくしかなくて。
これはきっと、私があの世界で、自分のためだけにしか動かなかった、その代償なのだろう。
仕方がない。
もう、どうしようもないのだ。
この世界でどうやって生きていこうかという不安よりも__彼らに、彼女たちに二度と会えないのか、という事実の方が、切なくて。
いろんなところを回ったけれど、やっぱり、私の世界だったこの場所は、もう私を受け入れてくれる気は、ないようで。
たどり着いた公園で、ぼおっと空を見上げていれば、かちゃり、腕が何かの存在を感じ取った。
視線をおろせばそこにあったのは、アレクセイさんに渡されたバングル。
そういえば、これは何だったのだろうか。
腕からはずして目線の高さまで持ち上げれば、そこには言葉がつづられていて。
「__転移、魔導器、の、使い方・・・・・・?」
転移魔導器。
かかれている残りの文字を夢中で読んだ。
”向こうの世界で唯一稼働しいているであろう、レイヴンの魔導器を、転移先にしている。選ぶのはおまえだ”
思わず、笑ってしまった。
アレクセイさんは、どんな表情をしてこれを書いたのだろうか。
書いてある手順に従って、ゆっくりと操作を進めて。
そうして浮かび上がった術式に、躊躇なく、飛び込んだんだ。
__たどり着いた先はどこかの森の中で、この世界での再スタートが戦闘からだとは思わなかったけれど。
武器魔導器、でもあるらしいそれ。
使ったことはなかったのだけれども、アレクセイさんの短いメモがとてつもなくわかりやすくて__なんか使ってみたら、使えた。
リタたちの詠唱をまねするべきなのはわかっていたけれど、まあ、覚えているわけもなく!
適当に言葉を紡いだら、ふつうに術式が展開されたのでいいことにしよう。
そうやって獣道を進んでいけば、大きな魔物がみえて。
その足下にいたのは__紫色、だった
「せーのっ」
なんでもいいから、でっかいの。
「吹っ飛んでー切り刻めー」
とりあえず倒せるくらいのでかいやつ
「ついでに倒して、圧しちゃえー」
リタが使ってたすっごいやつよこい!
「最後に皆を癒しちゃえー」
皆の痛みが和らいだらいいなぁ
私の姿に驚いて、飛びついてきてくれたり、笑ってくれたり。
そうして、再会した先、繰り広げられるやりとり。
ああ、帰ってきたんだ
その言葉が、すとん、と胸の中に落ちた。
帰ってきた、と、私の場所は、今の場所は、ここなのだと。
今更ながらに、それを理解して。
「__戻れなかったのか?」
「__ううん、戻ったよ、私の世界に」
ユーリの言葉に、場が静寂に包まれる。
ゆっくりと口に出した言葉に、皆が息をのむ。
「でもね、あの世界のことを、私が忘れていくと同時に、向こうの世界も、私を忘れて行くみたいでね」
でもね、もういいよ
「あの世界で、私を知っている人は、もう、いなかった、よ」
だって、だってね。
ゆっくりと、手が、温もりに包まれた。
がっしりとした大きな、レイヴンの手。
暖かいなぁ、と思いながらへらりと笑う。
「お嬢」
「久しぶりだねぇ、レイヴン」
レイヴンが、どこか痛そうな表情をするものだから、どうしようかと、思う。
「ん〜そんな顔、しなくていいですよぅ」
少しでも、慰めになれればいい。
伸ばした手でその頬をなぞる。
「もうね、だいぶん記憶が曖昧だから、悲しい、っていう感覚もあまりなくてね」
あのね、聞いて、そう続けるつもりだったのに。
気がつけば一面紫。
ぎゅう、と体に感じる圧迫感は抱きしめられているのだろう。
距離をとろうにも難しそうで。
「あのね、寂しくないの、本当だよ」
だから、そのまま伝えた。
私の今の、思いを、気持ちを。
「だって、皆がいるから」
皆がいる、ここが、居場所だと。
「ここが帰る場所って、わかったから」
レイヴンもいる、この場所が__居場所だと思っても良いかな?
「__おかえり、」
「っただいま!」
呼ばれた名前。
この世界では異質だと思っていたその名前。
なのに、この人に呼ばれた瞬間、そんなに悪いものでもないように思えてしまって。
レイヴンを見上げて笑う__
「お嬢!?」
わら、って、たんだけど・・・・・・ぐらり、世界が、揺れて。
レイヴンがあわてたように私を支えてくれた。
皆が走り寄ってくる気配。
その中でもリタは私の腕に注目して。
「これ、武器魔導器ね__え、なにこれ、自立式の転移装置が兼用されてる!・・・・・・しかもおっさんのところに転移する設定なんだけど??・・・・・・まって、おっさんのと違って生命力がエネルギーじゃなくて__は、なに、装着者の食事?」
ああ、そうか。
このふらふらするのは、おなか減ったからか。
「食事がエネルギー・・・・・・だからめちゃくちゃおなかへるんですねぇ」
私の言葉に皆がほっとしたように息をついて。
「__じゃあ俺が腕によりをかけて、なんか作ってやるよ」
「じゃあ僕も「フレンは座ってろ」・・・・・・」
「もうちょっと魔導器さわるわよ・・・・・・はぁ?なにこの術式の量・・・・・・アレクセイほんっとばけもんだわ・・・・・・」
フレンとリタ、それから私を支えるレイヴン以外がユーリと共に作ったご飯は、今まで食べたどのご飯よりもおいしかったです。
配達ギルドとお帰りの言葉
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