ドリーム小説







配達ギルドのあれこれ 












たぁっっぷり休んだ結果、なぜか丸一日寝倒したらしい。
とてつもなく驚いた。
借りた部屋に入ったのは確か昼頃だったというのに。
外は真っ暗だ。

部屋を出て顔見知りのギルド員に声をかければよく寝ていたな、と笑われた。
眠ってから約1日半まったく起きなかったらしい。
その間になんかいろんなことが起こっていたとのことだが、寝ていた私にはもちろん覚えがない。
なんてこったい。
まったく気づかなかった。
予定では昼頃から行動を開始して、ヘリオードあたりで一泊。
明日にはノードポリカに向けて舟にのっているはずだったというのに。

さて、どうしようか。

明日までまって動いてもいいが__正直寝過ぎて眠たさが皆無だ。
なれば、ゆっくりヘリオードにでも向かうか。
思い立ったらすぐ行動。

荷物を片づけて、ギルド員に挨拶をして、宿の外へ。
皆が寝静まりつく深夜だが、まあ魔物がよってこない魔導器は正常に作用しているから大丈夫だろう。

人気のない道を、一人ぶらぶら歩いていた__だけだったのに。
聞こえてきたのは人の声

「あ、あな・は・・・・・・。私に手を出す___ですかっ?___人間ですよ!」

夜に大声は響くんだけどなぁ。
何の気なしにその声の方向へ足を向ける。
内容なんて、気にしてなくて。
ただ、声が聞こえただけだった。

「あなたなど簡単につぶせるのです。無事では、す、すみませんよ」

近づいた結果、先ほどよりもずっと明確になった言葉。
あれ、これ、なんかあまりよくないやつじゃないですか?

「法や評議会がおまえを許してもオレはおまえを許さねえ」

それは、最近本当によく聞く声。

「ひぃ、く、くるな!」

対するのは、私が何度も届け物をしたことがある相手。

響いたのはくぐもった声。
見るな、と警告する頭とは裏腹に、体はその音の方向へと進んでいって。

「ぐっ、あと少しで宙の戒典を・・・・・・がふっ」

漆黒の闇に銀色の刃、そして鮮やかな紅が、そこにあった。
振り払われた刃の滴。

その漆黒はいつ気づいたのか、ゆっくりとこちらに視線を向けてきて。

常とは違い、爛々と輝く瞳はどこか暗く。
纏う空気は尖っていて。
ぴりぴりとした感覚があたりに広がる。

「・・・・・・配達ギルドか」

落とされた言葉。
それは答えを必要とはしていないつぶやき。

「今の、みたか?」

疑問文なのに、問いかけてはいないそれ。
ここで嘘をつく意味など、どこにもないだろう。

「__そうですねぇ、見ちゃいましたね」

にっこりと、笑ってみせる。
いつもの営業スマイルのように。

「・・・・・・へぇ」

そうすれば、整った顔がどこかいびつに歪む。
ゆっくりと、こちらに向かって進んでくる黒髪。
後ろに下がることなく、それを待つ。
至近距離、見下ろしてくる彼。
黒髪のせいで、彼の表情は読めない。

「何を、見た?」

なにを?__それはきっと

「あなたの刃が振り下ろされるのを」

あなたが人の命を奪うのを。

「俺の刃が紅に染まってたのも?」

「はい」

問いかけはひどく淡々としていて。
なのに、どこか空々しく。

「俺が誰を殺したのかも?」

「はい。__配達終わったあとでよかったです」

また、届け先不在の状態になるところだった。
彼が何を望んでいるのか、わからないから。
ただ思ったままに、いつものように言葉を交わす。

「何か、俺に言うことはないのか?」

彼の手が、私の頬に触れた。
ひんやりとしたそれは、外の空気に晒されたからか。
それとも__

「__手が冷たい人は、心が温かいっていいますよねぇ」

この口は深く思考することなく言葉をこぼす。
今どう考えてもそんなことを言うタイミングでもなかっただろうに。
でもまあ口からでてしまった物は仕方がない。

「__人を殺したばかりの俺が、あたたかいってか?」

くつり、その笑い声は私にではなく、きっと自らに向けたものだろう。
ああ、そうか。
わかった。
この人が求めている言葉が。

「人を殺すなんて、間違っている、とでも言った方がいいですか?」

責めてほしいのか。
自らの行為を、正しいことだと思えないからこそ、誰かに糾弾してほしいのか。
そのタイミングで、たまたまいたのが私だったのだろう。

「__正直、私にはあなたを責める権利がない。だって、私は私の目的を阻む物があればどうやってでもそれを排除しようとします。__たとえそれが誰かを殺める結果になったとしても」

私が求めるものを持っている人がいるならば、どこにだって走っていく。
私が求める方法を知っている人がいるならば、いくらだってお金をつむ。
誰かを殺せと命じられたならば、その通りに従うだろう。

うつむいたままの彼の表情はいまだに読めない
そして何も声を発さない。

「あなたはあたたかい人ですね」

私は知っていた。
殺められたこの人が、何をしていたか。
どんなにたくさんの人を傷つけてきたか。
けれど、それを咎めることも、誰かに伝えることも、何一つしなかった。
だって、それは私の目的とは関係ない物だったから。

「その刃を振り下ろしたのは、これ以上傷ついていく人を増やさないためでしょう?」

私は、彼が帝国の評議会の人間だと知っていた。
捕らえられようとも、簡単に抜け出すであろうことも。
けれど、そんなことどうでもよかった。
関係のない、ことだった。
私は私が生きていれば、それ以上を望まない。

「違う、俺は、俺のために殺した」

ぽつり、落とされた言葉。
先ほどまでの激情を秘めた音ではなく、ただ心情をそのまま落としたかのような。

「”いつか”がくることはわかっていた。あいつがその時をもたらすことも信じてる。でも__」

私の頬にふれていた手のひらが離れて、それは彼自身の顔を覆うものになった。
先ほどまで以上に表情はわからないというのに、先ほどよりもずっとわかりやすい感情が伝わってくる。

「今苦しんでる奴らに、”いつか”裁かれるまで耐えろだとか__言えるわけねえじゃねえか」

苦しんでいるのだ
葛藤しているのだ
自らが犯した罪を、罪だとわかっているからこそ。

「やっぱり、君はあたたかいよ」

手を伸ばして、その顔を覆っている手に、触れた。
やっぱり冷たいそれに、小さく笑いが漏れる。
私の笑い声が不快だとばかりに歪んだ顔。
それはさらに私の感情を揺らす物になって。

「自らの行いを、正義であるとふりかざすこともせず」

自分があいつをやっつけたのだと。
正義の味方のように口にすることもなく。

「自ら救った命をに自分のおかげだと言いふらすこともせず」

自らでその状態を脱却することを諦めていた人たちが、いつの間にか手にした自由を喜ぶとしても。
それは誰かの犠牲の上に成り立っているだなんて、想像もしていないのだ。

「皆を救った俺はすごい、そう驕るのではなく、罪を犯したのだと認めるなんて、できることじゃないよ」

両手で掴んだ顔を、ぐっ、と引き寄せた。
至近距離まで近づいたその顔は、整っていて、ようやっとその顔をきちんとみれた気がした。

「背負うことを決めたんでしょう?」

自らの行いを、罪と認めて。

「その罪と共に生きることを、自分の中に刻みつけたんでしょう?」

誰にも言わず、その心に秘めたまま抱えて生きていくのだと。

「見てしまったから、私だけは覚えておくね。彼らの平穏は、あなたの犠牲の上にあるのだと」

きれいな瞳が、ぐしゃり、泣きそうに歪んだ。

「とてもあたたかい、きみの上にあるのだと」







配達ギルドと罪を犯す夜














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