ドリーム小説
距離が縮まった。
そう思ったのは錯覚だったのか
「そうだよね、ただの知り合いだもんね。安心して。もう君に関わらないから。もうお弁当も何も作らなくていいよ。」
それでも浴びせたその言葉にゆがんだ表情にどうしようもないくらいの罪悪感が浮かんだ
謝ることも謝られることも望まない
「勘右衛門、家に帰らなくていいのか?」
「ん〜。」
一人暮らしをしている兵助の家。
学校からほど近いその場所は俺たちのたまり場にもなっていて。
ごんろごんろと兵助のベッドで転がりながら生返事を返す。
ため息を返されながらも追い出さない優しい共に小さく笑みをこぼす。
思い出すのは泣きそうなあの表情。
でもそれを上回ったのは怒りで。
「いつになったらお兄ちゃんって呼んでくれるんだろうねえ。」
小さく漏らした言葉に兵助は答えることなく。
「晩ご飯、なんか作れよ。」
「ん、了解。ありがとう。」
言葉少なにこの場所に留まることを許されて。
お礼に兵助の好きな豆腐でも出してやろうと考える。
鞄の中に入れたままのお弁当箱を思い出して、少し憂鬱な気分になる。
何気ないその味は確かにおいしいと、そう感じるもので。
はじめ恐る恐る差し出してきたそのお弁当。
少しずつ時間がたつにつれて、お弁当は当たり前のようになっていって。
今日は何を詰めただとか、明日は何にするとか。
何が嫌いとか好きとか。
少しずつ、少しずつではあったけれど確かに距離は縮まっていたのに。
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