ドリーム小説












「勘右衛門。おまえに母と妹ができる。」



父から聞かされたその言葉。

そのうれしそうなその表情に思ったのはようやっとか、そんな言葉で。



いずれ妻となってほしい存在だと。

初めてその人を紹介されたとき、そう告げられていたから。


いつになれば母として紹介してくれるのか。

そう思いながら早二年。


だらしない笑みを浮かべる父に、素直におめでとうと言葉を紡いだ。





そして同時に「妹」という存在ができるということに言いようのない感情を覚えた。







現れたその存在は、小さくてかわいくて、自分が守らなければいけないものだとそう感じた。







名前を呼べば驚いた表情をして緊張したように返事する。

手を伸ばせば体を揺らして戸惑うように後ずさる。

好きに呼んでと言葉を発せば困ったように先輩呼び。




「うまくいかないなあ・・・」

朝起きれば朝ご飯ができていて、控えめにお弁当を渡されて。

あまりにもうれしくて朝一緒に自転車で学校に行って。

そのままの勢いでお昼を一緒に食べて。



けれどもあの子は一度も俺のことを呼んではくれなかった。

笑うことはなく、向けられるのは苦笑にも似たもの。


名前を呼ぶたびにおびえられればどのように接すればいいのかわからなくなる。



「勘右衛門?」


前の席の兵助が何してるんだという目で見てくるから笑う。

「どうやったらあの子はなついてくれるかなあって。」

「まだ出会って二日目だろう。先は長いんだから気長にやれ。」


兵助のもっともな言葉に苦笑して、それでもやっぱり早く俺の名前を呼んでほしいと思うんだ。












五、お兄ちゃんの憂鬱。



















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