ドリーム小説




帰ってきた学園。

そこにいたのは、懐かしくて大切な先輩だった。








「バイト紹介してくれてありがとうございます。」

いつもいつも、俺のために、俺が危険な忍務をしなくてすむようにと割の良い仕事を先輩方は持ってきてくれる。

それは雷蔵先輩たちだけではなくて、中在家先輩も、委員会などであまり関わりがあったわけではない立花先輩たちも、持ってきてくれる。

とても優しく、尊敬できる先輩ばかりだ。

どういたしまして、そう優しい返事をもらう。

「あ、そういえばこの間のアルバイト、どうなった?」

ふわふわと、後輩である俺たちにとってはとてもとても優しい笑みで問われる。

これが忍務になった時はひどくやっかいなものへと変貌するわけだけど。

「せっかく持ってきてもらったんですけどごめんなさい。長期すぎたんで、俺は受けてないです。」


俺は。その言葉を知らぬうちに力を入れて言っていたらしく、それに答える先輩の声も途中でこわばった。

「そっか。ちょっときな臭い噂を聞いたものだから___」


心臓が、警鐘をならすかのように大きく一つ音を立てた。


「ちょっとまて。俺はってことは___」

固まった雷蔵先輩の続きを紡いだのは三郎先輩で。

その先を紡げずにいる俺を手伝ってくれたのはいつものように出迎えてくれていた乱太郎で、庄左ヱ門で、大事なは組のみんなで。


「それってあの女中の仕事ですよね?」

「長期住み込みの。」

庄左ヱ門の言葉を伊助がつないで。

「きり丸がさんに紹介した奴じゃないの?」

それをまた兵太夫が受け取る。

さん?」

でてきた見知らぬ名前に問いかけてきた雷蔵先輩に、金吾が、虎若が、三治郎が続ける。

「時友先輩が山の中からつれてきたんです。」

「体調を崩していらっしゃって。」

「しばらく医務室で暮らしてたんだよね。」

「へぇ・・・」

小さく声を上げた三郎先輩の瞳は、警戒心がありありと見えていて。それに思わず苦笑したのは乱太郎。そのままことのあらましを続ける。

「そんなときにちょうど三反田先輩がすごい怪我をして戻ってらして。」

「それを助けてくれたんです。」

「もう少し学園にいるっておっしゃってたんですけど、なんだか会いたかった人に会えたからって。」

しんべヱが、喜三太が続けてくれた言葉を最後に俺自身が言葉にして締める。

「ちょうど今日、俺がつれていったんです。」

じわり、浮かぶ不安を隠すようにみせぬように。


「三郎先輩。その噂とやらをお聞きしても?」


緊張感あふれるその場所を穏やかに鎮めたのはあいも変わらず冷静な庄左ヱ門だった。

かつての先輩に問いかけて、答えを促す。

「そうだな。」

はたり、一度瞬きして開かれた先。

その瞳は、もう感情のない忍であった。






募集をかけだして結構な時間がたつにも関わらず、募集はまだ続いている。
割のいい仕事だというのにこんなにも集まらないわけはない。
結構多くの人を雇い入れているにも関わらず、あの場所からでてきた人を見たことはない。
商屋ではあるから多くの人が出入りするが、行きに持たぬ荷物を多く持ち去る。
だが、そんな大きな荷物をが入っていく様子はどこにもない。

いくらなんでもおかしいということで少し入ってみれば尋常ではあり得ないほどの警備の数。
行き届いた警備のため、少人数では無理があったがどうやら地下があるとのこと。


近所の人に話を聞けば、主は人の良い優しい人。
多くから好かれる好人間。
評判は上々。

逆に感じる違和感。





_泣いてないでくれて、ありがとう。_


頭に浮かぶのはあの感情を綯い交ぜにしたかのような笑顔。


_どうか、生きて。_


そういった強い瞳が、かちり、頭の中でかぶる。




「きり丸、どうしたい?」

先輩方の話を聞いて、固まる俺に声をかけるのはもちろん乱太郎で。

ゆるり、まとまらない考えのままそちらをみれば、大好きな笑顔。

それにじわり、心臓が落ち着いてきて。


「きり丸。」

「まさかとは思うけど、僕たちに頼らないはずはないよね。」

「三反田先輩を助けてくださった方を助けないわけには行かないよ。」


「俺たちはまだ卵だからな、」

「まだ自分たちの感情で動いても怒られるだけ。」

「怒られるときは一緒だよう。」


兵太夫が、三治郎が、団蔵が、伊助が、喜三太が俺に告げる。

「みんな、」

呼べばこちらに向く顔。

どれもが優しい目で俺を見てくれている。

「助けて。」

ぎゅう、両端からの圧迫。

しんべヱが、乱太郎が俺をその両手で抱きしめてくる。

「さて、三年は組、出動しようか。」

二年前と何一つ変わらない表情で庄左ヱ門は笑った。




「きり丸。」

闇色に包まれたその時間。

準備を終えて、いつも首に巻いているその布で忍らしく口元を隠して。

手持ちの道具を確認していればそっと現れた気配。

俺にとってたった一人の保護者で家族。

その人は柔らかく笑って俺の頭を撫でる。

「あの人に聞いたんだ。」

このときに名前を出される人物がわからないほど鈍くはない。

「なぜ、その人に会いたいのか。」

「自分が今この自分になるきっかけをくれた子だから。




とても感謝していると。



そんなこと、どうしてあなたが思う。
俺が、俺こそが、その言葉を、あなたに。

_泣かないで居てくれてありがとう_

あの言葉を聞いてからじわじわと思い出されるあのときのこと。

あのとき、あの焼け落ちた場所。

確かに生き残っていたのは俺一人で、

なのに、あなたがいた。

誰一人生きることを放棄せざるを得なかったあの世界で、ただ、君がいた。


呆然と、泣くと言うことすら忘れてしまっていた俺に、温もりをくれた。

泣いてもいいのだと、居場所をくれた。

俺が今この場所で生きることができる、力をくれた


医務室で、とてもとても綺麗に泣いたあの人を、

俺を助けてくれたあの人を。



今度は俺が___



「いっておいで、きり丸。」




土井先生の声に押されるように俺たち11人は動き出した。









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