ドリーム小説
あの子にあえたから、もう満足だ。
死にたいとは思わないけれど、死んでしまっても悔いはない、わたしは忌まそう思っている。
「仕事については後ほど述べる。この場所で着替えて待っていなさい。」
外と中を隔てる大きな門。
その扉が閉まった瞬間、もう、あの場所には戻れないのだと、どこか心の中が凍った気がした。
戻りたいわけではない。
自分が生まれたあの場所に戻れるとは思っていない。
いつのまにかきてしまったこの世界。
ここで私は残りの生を生きて、そして誰にも看取られることなく一人で死んでいくのだ。
それでも、私は、あの子に会うことを望んだ。
何一つ、後悔はない。
門を抜けてから案内をしてくれたその人は、とある一室に私を連れていくと一言だけけ述べてでていった。
その部屋は小さな個室で、壁に一つ着物がかけてあった。
学園内でもぶっちゃけほとんどちゃんと着物を着ていなかった自分にとって着替えるというのはなかなか難関だったりする。
だがまあ、見ているだけでは何も変わらないので、仕方なしに袖を通し、気付けに挑戦することにする。
女中の仕事だと聞いていたのだが、それにしてはえらくきれいな着物だなあ、と重いながらも四苦八苦する。
・・・みれないことはない、と思いたい。
着替えた自分の姿を部屋にあった姿見に映せばなんとも悲惨な格好だ。
あんまりなそれに落ち込んでいればしめた扉の奥からかかる声。
返事を返せば開かれるふすま。
そこにいたのは一人の女の人で。
ふわり、笑ったその人は一つの大きな箱と共に部屋にはいってきた。
「まあ、おひどい格好ですこと。」
ころころときれいに笑うくせに言葉が突き刺さる。
「お顔もちょっとさわらせていただきますよ。」
そういうやいなやていっ、と服をはがれ、あれよあれよというまにきれいに着物を着せられる。
そして持ってきた箱を開けて様々なものを取り出した。
手にとって広げて、私の顔と見比べて。
どうやらそれは化粧道具のようだ。
呆気にとられる私をそのままに、気がつけば姿見に映るのはなんというか、誰これ、という人がいた。
「ええと、女中、だって、聞いたんですけど・・・」
「あら、まあ。ということは、何も知らずにきたのねえ。」
「・・・え?」
「仕事は女中ににてるかもしれないけれど、少し違うわねえ。」
「・・・え?」
ふわり、この部屋にはいってきたときと同じ笑みを魅せてその人は口を閉じた。
「時間がくるまでこの場所で待っていなさい。」
その言葉だけを残してこの場所から去っていくその人を、ただ見ていることしかできなくて。
結局ここは何なのか、何の仕事をするために呼ばれたのか。
何一つわからないままただ小さな窓から日が暮れていくのを見ていることしかできなかった。
部屋が闇色に染まる。
明かりの付け方さえよく知らない自分にとって、その
暗闇はひどく恐ろしいもののように感じて。
あの場所は、自分の場所ではなかったあの学園は、それでも渡しを守ってくれる場所だったのだと改めて実感して。
小さな窓。
そこから見える月は満月にはほど遠い。
「摂津の、きり丸」
自分の中、深く深く刻み込まれていたあの瞳、あの姿。
それがようやっと名前というものを伴って実現日を帯びてきて。
ゆっくりと自分の姿を見下ろす。
きれいな着物。
結われた髪。
施された化粧。
いくらこの世界の勝手が分かっていない自分であっても、これが女中に向けられるものではないとわかっていた。
おそらくこの場所は男の人を相手にする場所。
そういう関連のお店なのだろう。
からり
開かれた襖の先。
とてもきれいな身なりをした男の人が立っていて。
「お主、名前は?」
低く問われたそれに、偽るすべなど持たぬ自分は、ただありのままを告げるだけ。
「、 ともうします。」
彼が渡しをだまそうとしたのであろうと、そうでなかろうと。
それでも生きていくすべをくれたかれに、感謝を。
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