ドリーム小説
本当に人の数が多い。
商談にしては異常すぎる。
その上警備の数も尋常ではない。
どちらかというと、人身売買してるかな。
夜中に大きな布袋をかぶったものが連れ出されてるみたいだから。
それが、伊助としんべえの報告だった。
ぞわりとした感情。
もうあの場所にいなかったら?
あの人は、確かに誰もが振り返るような美人、というわけではなかった。
ただ、雰囲気が、あの人を取り囲む空気が、ひどく綺麗で。
こちらの警戒を解くように、とても優しい色をしていた。
あまり感情を感じさせない黒々とした瞳がこちらに向けられると、ひぢく焦燥感に駆られたように、なる。
気配に聡いものであれば、きっと彼女をほおってはおかないだろう。
その最悪を、頭からはずして考えることはできない。
忍とはそういうものだから。
「あのねえ、先輩がいらっしゃったよ。」
しんべえがとてもとても嬉しそうに言うもので、しかも集めている女の人の中に、ということで、その先輩が誰か、瞬時にわかった。
伊助としんべえが作り上げた地図を元に乱太郎、兵太夫、三治郎とともに進入経路を確認する。
団蔵、金吾、喜三太、虎若の動き出すのを待っているのだ。
合図があればすぐさま行動に移すために。
「兵太夫、三治郎、乱太郎___」
「ごめんとか言ったらいくら私でも怒るよきりちゃん。」
「そうそう。謝るくらいなら意地はるなっての。」
「さっさと終わらせて、みんなで帰るよ。」
目の前に見えるのはこの部屋にいた男。
そして天井。
気がついたときにはその状態で、押し倒されたのだと気がつくのもひどく遅かった。
目の前の男が「何か」を口にしているのはわかるが、私の耳はそれを言葉として受け入れてはくれないらしい。
ぼおっとそれを見上げて。
よくわからないが何かお気に召したのか。
その男の人はしごく満足そうに笑った。
体の線に触れられて、ぞわり、体中が拒否を示すかのように悪寒を走らせる。
触れれらたその箇所から汚れていくように。
頭の中では何も考えられない。
それでも体は正直で、ぞくりぞくりと恐怖が広がる。
こんな場所で、誰ともしれぬ人に。
それがこんなにも怖いことだとは思わなかった。
でも頭のどこか冷静なところに反抗することはよいことではないと戒める自分が居て。
頭の中に、あのこの顔が広がった。
こんな時だというのに、私がこの世界で望むのはあの子だけで、手を伸ばしたいと、伸ばしてほしいと思うのも彼だけで。
ぶわり、あふれだした涙。
それを楽しむようになめられて。
広がる嫌悪に、恐ろしい感覚に、すべてを放棄してしまいたいと感じる感情に
すべてに蓋をするかのように目を、閉じた。
どうかどうか、あの子は汚れることなきままで。
ふわり、小さく風が吹いたその瞬間。
小さな音と共に、
体に触れていた熱が消えて。
同時に重たいそれも離れて。
小さく香るにおい。
それはとてもとても安心できるもの。
「さん。遅くなってしまってごめんなさい。」
先ほどは違う、柔らかな温もり。
耳元で聞こえてきた声は、まだ幼い声。
感情を隠すように紡がれる言葉は、それでも安心したと告げるように。
その声が、温もりが、優しさが、じわり、固まっていた体を溶かすように。
ここにいることを証明するかのように。
ぶわり、限界に達した、感情が
とめどなく、こぼれて、あふれて
涙となって零れだす。
ごめんごめん、私よりもずっとずっと幼い君に頼ってしまって。
今だけ、今だけでいいから、ごめん、縋らせて。
震える手を、体を、その小さな体に縋りつくことで押さえて。
「帰ろう。あの場所に。」
なだめるように、穏やかな声。
この場所に似合わない、落ち着いた声。
帰る場所が、ある。
それがゆっくりと、自分の中で広がって。
じわりじわり
「・・・」
久しぶりに呼ばれた自分の名前はとても輝いて聞こえた。
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