ドリーム小説
「すごく派手にやってるねえ。」
兵太夫がそれはそれは楽しげにつぶやく。
その言葉の通り、今きり丸たちが潜んでいる場所の反対側がひどく騒がしい。
撹乱のため一足早くは組の特攻隊が暴れているのだ。
「今のうちに動こうか。」
三治郎の言葉に頷いて乱太郎と共にその屋敷の中に入り込む。
「さすが、伊助たち。正確な地図。」
伊助としんべエが集めてきた情報は正確だ。
それを図面に書き起されたこれも、ひどく完全に近いもので。
「この経路を使ってきり丸。帰りはこっちを。経路の確保は任せて。」
無駄のない計画性。
は組の参謀は庄左衛門ではあるけれど、罠からくりを交えた頭脳戦は兵太夫も負けてはいない。
兵太夫と三治郎に見送られながら、乱太郎と共に侵入をはかる。
「きりちゃん。焦らないでね。」
小さくつぶやかれたそれ。
自分の心の中が見透かされるかのような感覚。
隠したいその感覚はそれは乱太郎にはばれているようで。
「・・・ごめん乱太郎。」
小さく謝罪の言葉を口にすれば、ふわり、笑った乱太郎の気配。
それに少しだけ心落ち着かせながら彼女をさがす。
感じない気配。
何処にいるのか、それすら分からない。
焦る気持ちをぐっと抑え込んで、ゆっくりと足を進めて。
「っ、」
突如後ろに現れた気配。
懐に入れていたくないを咄嗟に出して、その気配から離れるように跳躍する。
乱太郎も咄嗟に懐から薬を仕込んだ扇を取り出していた。
「あ、れ、」
向けた視線の先、たおやかな四肢を惜しげもなくさらしながら黒髪を艶やかに風に揺らす一人の女性。
「・・・お前たち、何をしている。」
否、一人の___
「立花先輩・・・?」
黒髪をたなびかせるはかつて学園一のサラストの名をほしいままにしていた彼のお人。
赤い着物が肩にかかり、男だとわかっているのに艶やかな雰囲気を醸し出す。
「きり丸に乱太郎。何をしてるんだ。」
「先輩こそ、こちらで何を?」
「答えるとでも?」
「まさか。」
忍者は秘密厳守。
それは卵であろうと同じもので。
にやり、お互いに笑いあう。
互いの心内を探るかのように。
「外が騒がしいと思っていたが、お前たちか。どうせは組のみんないるのだろう?」
くつくつとどこか楽しげに笑う立花先輩。
「・・・立花先輩。私たちはここに一人の人を探しに来ているのです。」
乱太郎が見かねて口をはさむ。
それにきょとりとした表情をしながら立花先輩は答える。
「ん?探し人か。・・・どんな忍務かは教えられないが協力することはできるぞ。」
ゆるり、視線でその人物の特徴を求められる。
「・・・一人の女性です。今日この場所に来た。」
少しでも早く見つけなければ。
その思いから簡単に説明を述べれば心当たりがあったのだろう。
視線をさまよわせて辺りをつけたように言葉を紡ぐ。
「・・・あの気配が感じられない奴だろう。」
それは彼女の外観を説明するよりもずっと正確な特徴であった。
『どうやら私の忍務の邪魔にはならなさそうだな。お前たちのおかげで動きやすくなった。ま、気をつけて行けよ。』
赤い着物を艶やかに着こなし、妖艶な笑みを浮かべて、その人はひらり、一度だけ手を振って姿を消した。
彼女がいるであろう場所を教えられて、それにしたがって向かう先。
かなり奥まった場所、それも地下にあったため外の騒ぎはここまで聞こえていないのか、ひっそりとした空間だ。
だがそれと同時に広がる異質な空気。
それはまったくもって好ましくないもので。
地下であるため天井裏にも入り込めず、気配を消しながら廊下を歩むしかなくて。
部屋を通り過ぎるたび小さく響いてくるのは聞きたくもない甘ったるい声。
乱太郎と共に無表情でそれらを聞き流し、たったひとつの気配だけを求めて神経を張る。
といっても気配のない彼女のこと。
逆に何の気配もない場所に彼女がいるという確信を持って。
この場所で何が行われているのか。
そんなこと考えるまでもなく想像できて。
おそらく彼女も。
じわり浮かぶ感情を掌を強く握ることで押し殺す。
「っ、」
微かに聞こえてきた声。
それは、探し求めている人物のもので。
「きりちゃ、」
止める乱太郎の声。
でも、俺の中でその言葉は脳へと到達することなく。
彼女の上に覆いかぶさるその存在。
それを認めた瞬間、体は勝手に動いていて。
手刀を落として、その存在を放りだして。
そっと手を伸ばした彼女。
大きな瞳にいっぱいの雫をためて。
ただ、虚ろにこちらを見てきて。
思わず、手を伸ばして、その体を腕の中に閉じ込めて。
その柔らかさにどくりと心臓が音を立てた。
「さん。遅くなってしまってごめんなさい。」
少しでもあなたが安心してくれるように。
がたがたと震える体を強く強く抱きしめて。
名前を呼ぶ。
装束の胸元が濡れていくのを感じながら
そんなぬくもりが愛しいと感じた。
そして、じわりじわり、感じるのは、懐かしさ。
その温もりを、ずっとずっと昔に感じたことがあるような。
まるで、幼いあの日の、ように
かちり
全てがうまく作用したように。
かみあったように浮かぶ情景。
俺が、あの日、あの場所で、たったひとり置き去りにされた時。
見たことない人が、知らないはずの人が。
俺をその腕で抱きしめてくれた。
優しい腕が、温もりが、揺れる揺れる
浮かび上がる記憶。
たった一人、俺が泣いていたことを、知っている人。
ずっと、探していた、人。
「帰ろう。あの場所に。」
俺を守ってくれたこの人を、今度は俺が守りたい。
「」
一気にあふれた愛しさをこめて再び抱きしめれば、その体は力をなくして。
「っ」
慌てて腕の中を覗き込めば、目元を濡らして意識をなくす彼女の姿。
「きりちゃん。」
乱太郎の声に頷いて。
彼女の体を持ち上げる。
思っていたよりもずっと軽いそれに驚いて。
それでも確かな重さに心のそこから安心して。
目指すのは、学園。
俺たちの、家。
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