ドリーム小説
赤い色。
あの時とは違うそれは、以前よりもずっと生々しく。
どさりと重量感のある音とともに、地面に放り投げられるいくつもの影。
流れ出るその量はもうこと切れていることを示す。
それを放り投げた人物が、ゆるり、こちらに視線を向けた。
口元を布で覆って。
頭を布で隠して。
瞳だけが何の感情も見せぬかのようにそこにあって。
ゆっくりと、私に向かって足を進めてくる。
音もないそれは、けれども着実に距離を縮めて。
その手に持たれた鈍色に光るそれは、赤く赤く。
これに切られれば、万が一助かってもその傷口から感染症が起こるだろう。
そんな職業病のようなことを思う自分は、思っていたよりもずっと感覚が鈍いようで。
怖いという感情はなく、ただ、もう本当にあの子に会えないのかと、それだけが悲しい、と。
人ひとり分の距離を開けて、立ち止まったその人は、ゆっくりと一度だけ瞳を瞬かせて。
そうして振り下ろされる鈍色を瞳を閉じることで甘受した。
閉じた瞼の裏。
浮かんだのはあの瞳。
キィン
けれども予想していた痛みはなく、そのかわりにふわりと温もりに包まれた。
ゆっくりと瞳を開ければ、そこには紫色。
時代錯誤なそれは、しかし目の前の人物によく似合っていて。
状況把握が追いつかない頭でも、何かに守られたということだけは理解できて。
「お怪我はないですか?」
かけられた声。
見上げた先。
そこには銀色のふわふわとした髪をなびかせた少年。
柔らかく微笑む顔は、先ほどまでの非日常をあっさりと塗り替えるかのよう。
「だ、れ、」
自分を守ってくれたのであろう相手だというのに、今の頭ではそんな阿呆な問いかけしかできなくて。
「僕は時友四郎兵衛、だよ。」
ふわり、その笑みは柔らかくこちらの感情を溶かすように。
今まで隠れていた恐怖がぶわり溢れだす。
今さらにがたがたと震える体。
なだめるように回された腕が背をなでる。
「こわ、かった、」
「し、ぬと、おもった」
一つ一つ、溢れるそれを、まだ幼いであろう少年はあっさりと受け止めてくれる。
自分よりも小さなそれにすがるのはひどく滑稽だと、わかってはいたけれど、それでも、いま自分が縋れる相手はこの子だけで。
あの子もそうだったのだろうか。
張りつめていた何かが切れるように薄れる意識の中、そんなことを考えた。
成長四郎兵衛。
というか、みんな成長してる。+2年。
back/
next
戻る