ドリーム小説
「お主、名を何という?」
はじめて出たその部屋の外。
触れる空気は知らないもの。
映る世界は異質なもの。
自分がこの場所にいるという証明さえできぬまま、ただそこにあった。
唯一あの場所で見たことのあった大人は新野先生といった。
ふわり、柔らかな笑みで連れて行かれた先、そこはこの場所の最高権力者が、いた。
白い髪の奥から鋭い瞳がこちらに向けられ、一つたりとも嘘をつけばすぐに見抜かれてしまうであろうことが容易に知れて。
かけられる言葉は優しく、柔らかく。
向けられる笑みは穏やかで、さりげなく。
「伍流、と申します。」
ゆるりと簡単にまるで誘導されるかのように言葉を紡がせられる。
微かに震えた声を、きっとこの人は理解していて。
そうして笑うのだ。
嘲るのでも、見下すでもなく、ただただ、慈愛をたっぷりに詰め込んだかのような柔らかな笑みで。
「この場所が、何を行う場所か知っているかのう?」
先ほどまでの鋭い視線は和らぎ、純粋なる興味が見え隠れ。
それによってゆったりとこわばっていた体から力が抜けた。
「残念ながら、何も。」
「そうかそうか。・・・気を悪くせんでくだされ。」
首を振って否と答えれば帰ってくる苦笑。
何も教えられず、何も知らされず。
そうしてこの場所にあった理由は何となく、理解していた。
きっと、知られてはいけない場所で、知られてはいけないことをしているのだと。
「あの子たちには守りたいものが多くある。其れだけなのじゃ。」
慈愛に満ちたその瞳、映るのはきっとあの子たち。
ふわり
空気が変化した。
サッ、と目の前の人の姿勢が正される。
まっすぐにこちらを見る瞳に、色はなく。
ゆるり、その頭が床へと近づけられて。
「大事な生徒の一人を助けてくださったこと、感謝しておる。」
目の前で、ゆっくりとさげられた頭。
ぴんと伸びた姿勢はひどく美しく。
思わず目を見開いた私に、その老人はふわり、笑って見せた。
「この場所は忍びを育成する学び屋なのだよ。」
想像していなかったわけではないけれどそれでも多少なりとも驚きはあった。
back/
next
戻る