ドリーム小説







 宵闇 拾






食堂のおばちゃんにつめてもらったご飯をゆっくりと口に運ぶ。

天気は快晴。

時は昼。

場所は木の上。

今日は授業は午前で終わりだ。
そのためいつも以上にゆっくりとできるのだ。

ゆったりとした休み時間独特の雰囲気が辺りを占める。
その時間がは好きだ。

人はいなくても確実に人がいるから。

1人ではないのだと実感できるから。


がいる木は運動場のすぐ側である。
故に運動場がよく見渡せる。

きゃいきゃいとしたかわいらしい声が辺りに広がる。

(この声は・・・)

「庄。」

その声の持ち主、否、そのクラスの中の一人であり委員会の可愛い後輩を見つけ声を掛ける。


先輩!」


木の上から降り立ったに少し驚いた雰囲気を見せた後、庄左ヱ門はにぱりと笑った。

「庄ちゃん、誰?その人。」

その声にそちらを見れば見慣れない子供たち。
1年は組の子達の中で知り合いは庄左ヱ門、それから同じ4年生が所属している委員会の各後輩たちだけしか知らない。
(といっても庄以外は一方的なものではあるが。)

「この人は、先輩!」

「始めまして。は組の諸君。俺は4年の、だ。庄の所属する学級委員長委員会の先輩だよ。」

にこにことしたまま説明してくれる庄左ヱ門に思わず笑みを零しながら改めては組の子達にあいさつする。


「「「「「はじめまして〜先輩!」」」」」

声をそろえて言ってくる様がどうにも可愛い。

「先輩!蛞蝓さんは好きですかぁ〜?」
「ん?嫌いではないよ。」
梅干を付けるような壷を持った子が聞いてくる。
「先輩、おいしそうなにおいがする!」
「ああ、今昼を食べ終わったところだったからな。」
少しぽっちゃりとした体つきの子に聞かれそう返す。
「4年生ってことは、滝夜叉丸先輩と一緒ですか?」
「ああ。一緒だよ。」
「滝夜叉丸先輩のあの自慢話をいつも聞いてるんですか?!」
「ん?そうだね、話し出したら相槌だけを打って聞き流している。」
「すごーい!」
尊敬のまなざしを向けてくる眼鏡の子と・・・たぶん生物委員の子であろう(以前竹谷先輩と虫を追いかけていたのを見てことがある。)二人の子。
「滝がよっぽど迷惑をかけてるみたいだな。言っておくよ。」
そういえばさらにみんなきらきらとした目で見てくる。
いや、一人おどおどとしている子がいるが。
たぶんこの子は
「君は滝のところの委員会の子だね?」
それに彷徨わせていた視線をぱっとこちらに向けた。
その目はどことなく泣き出しそうで。

「滝夜叉丸先輩は、その、・・・。」

再び視線を彷徨わせ始めた彼にやはり口元は緩む。
「いつも自慢されるんだ、君の事。七松先輩の過酷な委員会活動にも一生懸命についてきてるってね。」
それにその子はばっと上げ一瞬でその顔を朱に染めた。
「いいな、金吾!先輩、先輩!僕は?僕は?田村先輩僕のことなんか言ってましたか?!」
「君は三木のとこの子なんだね?そうだねえ・・・字が汚い。それを解読するのに時間がかかる。夜はすぐに駄目になる。」
それらの言葉に衝撃を受けたのであろう、がん、という効果音が聞こえてきそうなほど仰け反った。
それにくくっと喉で笑い、最後に告げる。
「でもとても頑張りやさんで、いつも一生懸命している。最近は漢字の勉強をしているおかげか以前よりは読みやすくなってきたって、さ。」
その言葉にその子は先程とは一転してひまわりみたいにぱあっと笑った。

くん、と後ろから衣服が引っ張られる感覚がした。
それに振り向けば控えめに服を引っ張る子がいた。
(ああ、この子は、喜八郎の・・・)
「綾部先輩は・・・」
先程の子達より幾分か落ち着いた雰囲気。
それでも瞳に覗く好奇心は押さえられず。
「ん〜・・・喜八郎はね、あまり話さないのだよ、委員会のこと。」
そういえばどことなく落ち込んだ雰囲気に変わって。
「でも、以前に一度だけ話してくれたんだ。君の事。」
そう言えば上目づかいで見上げてきて。
「罠をかけるのがすごくうまくて、上級生でもかかることがあるって。将来有望だって言ってたよ。」
にこり、そんな効果音を付けて笑われてしまっては、こちらも笑わないわけにはいけない。






「ところで君たちはどうしたんだ?今日はもう授業終わっただろう?」

ふと浮かんだ疑問。
それを口に出す。

「今日はこの後に雅さんに遊んでもらうんです!」

『雅さん』何となくそんな気はしていた。
昨日の夜のことを思い出し、微かに苦笑をもらす。

自分の中でこのあいだの夜からくすぶっている黒い何か。
それを表に出さないようにむりやり笑顔に転換する。



大丈夫。
この子たちに気づかれるほどまだ落ちぶれてはいない。



「先輩?」

黙ってしまったを気にするかのように庄左ヱ門が除き込んでくる。

「庄、気にすることなどないよ、何も。」

ふわり何とか笑ってそういってやればほっとした顔があって。


(俺はこんなにも恵まれているのだから。)



「ほらお前ら。あの人と遊んでもらうならば食堂の後片付けを手伝ってきた方が早いだろ。」

意識をすり替え子供らを促す。
そうすれば子供たちははた、と気がついたように動き出す。

「確かに雅さんのお手伝いをすれば私たちと早く遊べるね!」

「ほめてもらえるかも!」

「食堂に向おう!」

「僕も行く!」


子供らしい純粋な欲求に今度は自然な笑みが出せたと思う。

「先輩っ!失礼します!」

そういってばたばたと駆け出した子供らを見送る。


最後に残ったのは庄と、

切れ目が印象的な紺に近い黒髪を持つ男の子。


先輩、それでは、失礼します。また委員会で!」

「ああ。気をつけてな。」

最後に庄左ヱ門が手を振って仲間の後を追う。
その後ろを歩くその男の子。
その子がふいに振り向いて。


   目 が 合 っ た


その目に浮かんでいるのは複雑すぎる色。
子供には似合わない、すさんだ色。
達観しているその瞳は、あまりにも自分と似ていて。


目があったのは一瞬。

すぐに目を逸らすとその子は何も言わずに庄左ヱ門のあとをついていった。




その印象的な目が頭から離れなかった。

















※※※
はぐみとお話です。

___補足______
 
上級生は結構多くがのことに気づいてたりします。
ですが、何かしら理由があるのだろう、ということで黙認してたりします。  
・・・というか興味なかったりもします。
自分たちに害がなければ〜みたいなのですかね。
(・・・上級生といっても5,6年です。)






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