ドリーム小説
宵闇 拾壱
庄左ヱ門の側にいきなり現れた4年の先輩。
4年にしては小柄な気がするその体。
でも、それよりも何よりもその人の顔に驚いた。
だってその顔は、昨日の夜雅さんのところに現れて彼女を泣かした張本人だったから。
あの日はいつもよりも無性に人恋しくて。
先に寝てしまった二人を起こすのも忍びなくて。
どうしようかと考えれば、ふと頭に雅さんが浮かんで。
『寂しいときがあったら、泣きたいときがあったら私のところにおいで?きり丸くんならいつでも大歓迎よ。』
その言葉に突き動かされるように雅さんのところへ忍んで行った。
そこで見た彼女は月明かりのしたとても綺麗で幻想的で。
見とれたんだ。
そして声を掛けるのを躊躇った。
「____」
しんとした真夜中独特の空気の中彼女の声が小さく聞こえた。
それはとても小さな声で。
それでも聞くには十分で、
胸がずくりと痛んだ。
か え り た い
(雅さん、は、・・・)
確かにそういった彼女の声はあまりにも悲痛で、弱弱しくて。
ぎゅうと胸の辺りを握る。
そして 気配が増えた。
その知らない気配に咄嗟にそこから飛び出そうとした。
でも___
「ご、ごめんなさい、うるさかった、よね?」
それより先に彼女が声を発して。
目元をこすりながら必死で声を絞り出すその姿は彷徨い子。
10になる自分よりも小さく思えて。
「えと、始めまして、だよね?あなたとは、私は___「帰れるわけ、ない。」
「・・・え?」
彼女の笑顔が曇った。
(今、あいつ、なんてった・・・?)
頭の中で今の言葉が繰り返される。
___ 帰 れ る わ け 、 な い ___
「君は帰れはしない。もとの世界には。」
それを再び肯定する言葉。
頭に血が上るような感覚。
(この人、何言ってんだ?)
そんな根拠のないことを。
ただ彼女を苦しませるだけのものを。
「なん、で?」
雅さんも思ったのだろう。
出された声は先程以上に擦れていて。
その気配は、虚無。
能面のように表情を変えない。
「じゃあ聞こうか。何で君は帰れると思ってる?」
「っ、」
彼女が息を詰める。
(じゃ、逆になんであんたは帰れないと思ってんだ?!)
熱くなる体に、出そうになる声を抑える。
「確かに、帰れないなんて根拠はないかもしれない。でも、帰れる根拠はもっと、ない。」
其れは確かなのかもしれない。
でも、それでも、そんな言い方は
卑怯だ
彼女の頬に再び雫が流れる。
「だから、さっさとこの世界で生きていく覚悟を決めなよ。」
「・・っ、・」
ぐあん
頭を殴られたような気がした。
それは忠告にも似て。
錯覚を起こす。
そんなわけないのに。
あの人は雅さんを思って言ったんじゃないのか、とか。
そんなわけ、ない。
「じゃあね。」
遠ざかる気配に、こっちもゆっくりと体を緩和させる。
「___」
彼女の気配が揺れる揺れる。
それに耐えられなくなって、俺は全力でそこから逃げ出したんだ。
雅さんの名がでた瞬間に変わった先輩の雰囲気。
必死で何かを押し殺すかのような。
周りの乱太郎たちが気づかないであろうそれは、俺だけが感じたことのあるものか___
庄左ヱ門の後をついて歩き出して、そうしてふと何の気なしに振り向いてしまった。
目 が 合 っ て し ま っ た
闇色の目。
虚ろな瞳。
それなのにその顔前面に愛おしさを浮かべていて。
胸がきしりと音を立てた。
心の奥にもやもやとしたものが生まれる。
あんなよくわかんない人、雅さんを泣かすような人、なのに___
「俺、あの先輩嫌いだ・・・。」
「きり丸?」
聞き返してきた庄左ヱ門に笑ってなんでもないと告げて食堂に向う足を速めた。
その感情を探り当てるのが嫌で、俺はただその言葉で蓋をした。
※※※ きりまるはつよいこ。
けれどもかなしいこ。
強がりで、意地っ張りで、甘えたがり。
そんな彼が大好きです。
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