ドリーム小説







 


宵闇 拾伍









1つ上のくせに小柄で俺よりすんげえちっさくて、だけどそんな体でも何かあれば俺たち後輩をしっかり守って。
だけども決して手の内を見せることがない。
それが4年のアイドル学年と呼ばれる中唯一まともな(悪く言えば地味な)人、先輩だ。


俺が先輩と始めてであったのは今から三年前。
俺が入学した年だ。
委員会の時間に迷子になった先輩たちを探していたとき。

その人は木の上から降りてきて俺を見て

「・・・迷子の猫がいる。」

とのたまいやがった。
いらりとしたそれに口を出そうとすればいつの間にか近づいていた先輩にぐいと腕を引っ張られて。

「滝が君を探してた。」

「・・・。」

「だから滝のところに連れてってやる。」

何も答えない俺に何の関心も払うことなく、そう言った。
それにむっとしながらも引かれるままに歩く。

「・・・俺が先輩たちを探してるんですよ。」

そう言えばいつもならみんなして俺が悪いだとか言い出すのに、この人は違ったんだ。
俺の手を掴んだまま振り向いてきょとり首を傾げて。

「・・・そうだったのか?ってことは方向音痴は滝の方なんだな。」

そう言ったんだ。

その後先輩たちは無事に帰ってきて、滝夜叉丸先輩は先輩に何かを必死に訂正していた。


それが俺と先輩との出会い。





先輩はいつだって俺を責めない。
その理由はわからないけど其れは俺が先輩よりも年下だから守るべき対象になっているみたいで。




先輩はずるい。)

俺がそう思ったのは一度だけじゃない。
あの人は何でもないような顔していろんなことをこちらには見せない。
痛みも苦しみも悲しみも全て押し込めて絶対に俺たちにばらすことはしない。


今回だってそうだ。
俺が落ちたのに先輩は躊躇いもせず俺を追ってきて、ちっさなその体で俺を守って。
痛いであろうに顔にも出さず。

立ち上がらない先輩を見れば右足の布が酷く変色してるのに気づいた。



  どうしてそこまでしてくれるんですか?

  そんなにも俺は頼りないのですか?



ぐるりぐるり

胸の中は熱いのに。

頭は急速に冷えていく。


先輩の腕を引き抱える。

(___なんて、細い・・・)

こんな腕に守られていたことに、驚き同時に悔しさがこみ上げる。

腕の中で何か言う先輩を気にせずに空を見上げる。

(この距離なら木をつたえば登れないこともない、か?)

ぐいと今度はその体を担ぎ上げる。

瞬間

そのあまりにも軽い重さに

筋肉がつききっていないのか柔らかい体に

装束の合間から見えた肌のあまりの白さに


甘い匂いに


ぞくり


背筋が震えた。


(この人は、本当にここにいるのか?この人は本当に、俺と同じ人間か?)

そんな思いを抱くほどに。

崖の上に行き滝夜叉丸先輩が俺らを見つけてくれたとき、何でかしんないけど助かった、って思ったんだ。



  この人と一緒にいすぎると、俺は狂いそうになるから









「一体何考えてるのっ!?」

「ええと・・・」

「言い訳しないっ!!」

「・・・はい。」

「動くの禁止だからね!!」

「ええ?!」

「当たり前でしょ!?どんなに怪我してると思ってんの?!右足骨折、全身打撲に擦り傷!こんな体で動けるとでも?」

「・・・・・・・・・はい。」

「何?その長い間は。」




只今、委員会も終わりを告げ空の暗さが増してきた頃。
場所はが最も嫌う場所、医務室であった。

滝夜叉丸の声に振り向けば金吾と四郎兵衛に飛びつかれて、その衝撃で痛んだ体に顔をしかめた所為で滝夜叉丸に傷がばれて、そのすぐ後にやってきた小平太にすごい勢いで医務室まで連れて行かれて、そこで保険委員会委員長の善法寺伊作にこっぴどく起こられている最中である。


、無理するんじゃないぞ?」

「其れを君が言うの?小平太!?」

怒りに満ちた伊作になんてことなさそうに告げた小平太。
そんな彼には初めて心の底から彼を尊敬した。

「む!私は何も間違ったことはしていないぞ?」

「・・・とりあえず小平太。みんなが君みたいに動けると思わないこと・・・。」


諦めたような声で伊作は小平太に告げた。

医務室で伊作にたっぷり怒られた後、
治療のため医務室から追い出されていた小平太以外の体育委員の面々が入ってきた。

、どんな具合なんだ?」

「体中が痛い。」

心配から瞳を曇らす滝夜叉丸に率直に返事を返す。

「「先輩、先輩、大丈夫ですか??」」

「うん、だいじょうぶだよ、金吾、時友。」

ユニゾンして聞いてくる可愛い二人に些か痛みが和らぐ。

「・・・・・・」

さっきから立ち尽くしたまま何も言わない三之助に目をやる。

「・・・三之助。」

呼びかければびくりと体が震えた。
其れがどうしようもなく愛しくなる。

ふわり微笑む。

彼の目が微かに揺れる。


彼は、否、彼だけにとどまらず、この場所にいる人々は、子供たちはにとって守るべき存在なのだ。

その思いがの中にあった。

だからこそ、はつらいと解っていながらも体育委員会に参加したり、三之助を追って行ったりしたのだ。


だって彼らはまだ幼くて___


「ちょ、っ!」

伊作の制止の声に微笑んで立ち上がる。

「三之助」

その側まで行ってその高い背に手を伸ばす。
一度微かに震えたそれを気に留めず頭に手を置く。

「心配かけたな。」

「っ、・・・」

そう告げて笑えば三之助はふいと目を逸らしてぽつりと呟いた。

「・・・ほんとうですよ。」


ぽんぽんと頭を叩いて今度は小平太に向き直る。

「七松先輩は悪くありませんよ。俺が勝手に動いただけですから。むしろ勝手に動いてすみませんと俺が言わなきゃいけないくらいですから。」

そう言えば小平太はしばし瞬時してにぱりと笑って言った。

「言われてみればそのとおりだな!これからは気をつけてな!!」

はいきなり名前で呼ばれたことに驚き、次いで笑った。

「先輩、僕も先輩って呼んでいいですか?」

「ああ。好きにしろ、・・・四郎兵衛。」

「先輩、ぼくもぼくも!」

「どうぞ?金吾」

ふにゃり笑うは後輩たち。



可愛い可愛い、この世界でなければ、庇護されるべき彼ら。

でも、ここは忍びが必要とされる戦場の世界。

それならばこの場所に小さな学園にいられる間だけは___





「・・・先輩。本当は何でですか?」
「ん?」

出て行く後輩たちを見送って最後まで側にいた小平太に尋ねる。

「俺を体育委員会に参加させたことです。理由、別にあるでしょう。」

「いやあ、こないだ文次郎と仲良く鍛錬をしていたのを見たからな!それならば私のほうにも付き合ってもらおうかと思ったんだ!」
「・・・。」

この間の夜。
文次郎との訓練。
その二つから連想されるのはあの日、彼女に話をしたこと。
やな予感にそっと小平太から目を離す


「それから、ああいうことを言うときは周りに人がいないかどうかしっかり確認しなよ?」

こそり小さな声。
それには心配が含まれていて。

ああ。やはり聞かれていたのか。
そう思いながらも小平太の声の優しさに微かに胸をなでおろした。

そして小平太の言葉から他にも誰か其れを聞いていたのだと気づいた。


















※※※
・・・あれ?次屋夢?しかも何気に初登場、伊作。
にとって彼らは可愛い子供たち。
もちろんこへとかも
それはの生きてきた時間が原因。
この場所は守るべき場所。彼らのために。




back/ next
戻る