ドリーム小説
宵闇 拾睦
「先輩っ!」
「・・・金吾?」
放課後。
は足の怪我のため委員会活動の禁止を先輩である三郎から言いつけられていた。
そのためこれから手持ちぶたさとなる。
これからどう過ごそうかと思いあぐねていたときのこと。
ぱたぱたと軽い足音。
忍びにあってはいけないものではあるが、聞こえてくると顔が緩む。
その足音の持ち主がにようだとは思わなかったのだが。
「ん?金吾ではないか。」
「こんにちは、滝夜叉丸先輩。」
「ああ。」
足音とともに現れたのは1年は組の金吾であった。
現れてすぐ同じ委員会の先輩である滝夜叉丸に挨拶をするとその足でこちらに向ってきた。
名前を呼ばれたので用があるのはになのだろう。
「どうした?」
同じくらいの目線にある金吾に問えばなんでも戸部先生が呼んでいるとのこと。
喜八郎と滝夜叉丸にちょいと出てくるといってその場を後にする。
もちろん金吾への御礼も忘れずに。
「そうか、今行くよ。ありがとな金吾。」
にこり笑うその顔に癒される。
もともとはこの忍術学園に来てから一度も家に帰っていない。
・・・否、この学園に来るまでの帰る場所は常に育ての親である師匠のもとであったのだ。
だがの師匠は売れっ子の忍で一つの所にじっとしていることがなかった。
そのため帰る場所が特定できないのだ。
なのでが1年2年の時は剣術の教師である戸部新左ヱ門のところにお世話になっていた。
そのため何かと目をかけてもらっているのだ。
ちなみに3年になってからは町でアルバイトをしているため1人暮らしをしているが。
「失礼しました。」
「あまり無理はするな。」
「はい。ありがとうございます。」
用事は二つ。
一つは怪我は大丈夫かとのこと。
もう一つは家を掃除していたときに刀をみつけたらしくその刀をにやるというものであった。
その話に当初はもったいないとばかりに遠慮を述べたであったが、護身用に一つ持っていてくれと頼まれてしまえば断ることも出来ず受け取った。
その刀は緩やかな装飾がついた短刀。
それでも華美すぎずどちらかといえば地味なもの。
忍刀としても使えそうな其れはそこまで重くはなくの手に優しく馴染む。
思わぬ贈り物に頬が緩む。
其れを手に持ち廊下を行く。
(といっても早くは歩けないが。)
(・・・滝と三木にでも自慢しようかな・・・)
あの好敵手は二人でいるときは本当に馬鹿みたいに見えなくもないが、それぞれがそれぞれで動いているときは本当に優秀なのだ。
そして様々なものに興味をもち、もちろん刀などへの興味も強い。
その中で滝夜叉丸は戦輪を、三木ヱ門は石火屋を特に使うようになっただけで。
だからこそこのもらった刀を二人に見せようと、今日は何もないといっていた二人がいるであろう長屋へと向う。
「_______」
4年の長屋に差し掛かったときのこと
の耳に声が聞こえてきた。
それはが会いたくなかった人物。
聞きたくなかった声。
どくり
心臓が鳴る
「_______」
彼女の声が聞こえるたびに黒い何かが噴出す。
足は鉛のように重くなり動く様子は無くなった。
それでもその場所は彼らの声を聞くには十分な場所で。
笑い声が聞こえてくる。
とても楽しげな、親しげな様子で。
ずくり
胸が疼く
「雅さん、髪きれいだねえ〜」
『の髪きれいだよね〜』
ど う し て
「そんなことないです!私からしたらタカ丸さんのほうがどんなに綺麗か!」
「そんなこといってもらえたら嬉しいなあ〜。よかったら今度髪の毛結わしてよ?」
『結ってもいい?』
「わわ!本当ですか?私なんかの髪でよかったらいつでもどうぞ!」
そ の こ と ば は
「雅」
『』
「はい?どうしたんですか?あやちゃん」
お れ の も の だ
「雅さん!私のほうがっ「いえ、私ですよね!」三木っ!」
「ふふ、二人ともかっこいいと思うよ?」
そ の ば し ょ は
「雅ちゃん」
「雅」
「「雅さん」」
お れ の ば し ょ だ
「「「「大好き(です)(だよ〜)」」」」
な ん で お ま え が そ こ に い る
体が熱い
悲鳴を上げる
いやだいやだいやだ
彼女の声を聞くのも
あいつらが楽しげに笑うのも
優しげな声色も
そして何より俺自身がそこにいないことが
いやだ
何も考えずその場から本能のままに逃げ出した。
気づいた。
気づいてしまった。
胸の中のどろどろの気持ちに
同属嫌悪?
否、そんな優しいものではなく
これは
この醜いものは
嫉妬
ありのままの姿でこの世界に来た彼女に
偽りなくこの世界で生きていける彼女に
帰る場所が残っている彼女に
皆に必要とされる彼女に
勝手に自らを重ねて、そのあまりの違いに絶望して、彼女を恨む事でしか自分を保つことの出来ない
そんな卑怯な存在が今の。
嫌な思いから逃れようと広い学園を走る。
走り続ける。
これをこの醜い思いを誰かに見せるわけにはいかなくて。
ふと目の端に映った自然ではない色。
その不自然さに思わず足が止まった。
そこを向けばいつかの少年。
相変わらず鋭い視線で
を見る。
ああ、なんでこんなときに
「先輩。」
その子がゆっくり口を開く。
「先輩は」
微かな瞬時と共に、その瞳は強い。
「雅さんのこと嫌いなんですか?」
ああこの子は、なんてタイミングが悪い。
真剣な目
この目に嘘はつけない
付けたとしても今のこの状態では無理だ。
は満面の笑みを浮かべて
たった一言
「ああ。」
心からの言葉を
「 大 嫌 い だ 。 」
吐き出した。
少年は軽く目を見開いてやっぱりと呟いて。
そうしてをきつく睨んだ。
その姿はまるで__
たのむからいまのおれにちかづいてくれるな
こんなにもみにくいすがたをみせたくはないのだ
ごめん
ごめん
いまのおれは
このせかいでなによりもみにくい
ちかづかないで
きみをこわしてしまうから
の体から溢れるのはとても恐ろしい何か。
まだ入学して間もない1年には体験したことのないものであろう。
びくり
その何かに当てられてきり丸の体が揺れる。
が、この感情を止めることはできない。
感情が溢れる
きり丸の額に汗が滲む。
ざわり
ふと変わった空気
増える一つの気配。
「___」
降り立ったのは深草色。
「っ、中在家先輩」
微かにほっとした気配が伝わってくる。
ぼそぼそと小さな後輩に何かを告げる。
きり丸は微かに渋った様子を見せたが、長次に促されその場を後にした。
に鋭いまなざしをまた一つ突きつけて。
「・・・すみませんでした、先輩・・・。」
「__お前が彼女を嫌うのは自由だ。だが、其れを回りに見せるな・・・。」
それだけ呟くと彼はその場を後にした。
※※※
気づいた其れ
それは嫉妬
さてちょうじ初登場。
・・・これで一通りでた6年生。
ええと、きりはのもつ殺気にちかいものにけおされているのです。
というか憎悪と呼ばれるもの・・・。
・・・なが・・。
・・・きり丸とはしばらくこんな感じに・・・
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